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時間の単位、「秒」をいかに正確に実現するか、これが原子周波数標準グループの中心課題と言えましょう。単位や標準は、定義されたら次はその実現が重要です。この課題に関する当グループの研究についてご紹介します。その「秒」の定義ですが、1967年の国際度量衡総会以来使われているのは以下のとおりです。 「秒は、セシウム133の原子の基底状態の二つの超微細構造準位の間の遷移に対応する放射の周期の9,192,631,770倍の継続時間である」 まずはここからご説明しましょう。 |
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この見方では、原子の状態について、二通りのことが考えられます。外側電子の軌道の状態と、中心部と電子の磁石の向き関係の状態です。どちらも、一番安定な状態と、やや不安定な状態があります。原子に適当な電波をあてるとこの状態を変えられるのですが、そのためにはちょうどよい周波数があります。 図1に示されているように、最も安定な軌道から最寄りの不安定な軌道へ移すには約350THz(波長852 nm)の赤外光が必要で、磁石の向きを安定から不安定へ変えるには約9.2GHz(波長3.3cm)のマイクロ波が必要です。このうち、磁石の向きを変えるのに必要な電波の周波数が、秒を定義するのに使われているのです。 |
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磁石の向きを変える電波の周波数をどう基準にして、時計が出来ているのでしょうか。セシウム原子時計の基本動作は次の四つのプロセスから成っています。 1.セシウム原子の集団を作る。 2.集めたセシウム原子を全て、磁石の向きを安定なものに揃える。 3.セシウム原子に電波を照射する。 4.磁石の向きが不安定に変化したセシウム原子の割合を調べる。 この四つのプロセスを繰り返しながら、一番向きの不安定な状態に変化する割合が大きくなる周波数を探しだしてみたら、それが定義の9,192,631,770Hzと考えられます。この電波の振動回数を数えて時間を測る基準にする、というのが原子時計の仕組みです。 |
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プロセス3には秘訣があります。位相が正しく合っている電波を2回に分けて照射すると、その時間間隔に反比例してプロセス4での周波数の感度が上がり、正しい周波数から少しずれただけで原子の変化する率がぐんと低くなるのです。このようにして原子の状態変化を狭い周波数範囲でのみ起こす方法は、ラムゼー共鳴と呼ばれます。正しい周波数を正確に求めるには、この周波数範囲が狭ければ狭いほど有利なので、照明の間隔を長くしたい、ということになります。 | |||||
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秒の定義は、厳密には様々な条件がつきます。例えば、止まっている原子を測ること、測定環境は絶対零度で、余計な電磁場はいっさい無いことなどです。通常の原子時計は、これらの条件の違いはそれほど気にしません。水晶時計などよりは既に十分正確ですし、その割合が一定なら、もっと正しい基準に合わせることで補正が可能だからです。メーカー製の良いものでは、安定度は10-14あっても、正確さ自体は10-12程度です。 この条件の違いによる周波数の変化を全て厳密に見積り補正し、できる限りの正確さで秒の定義を実現するのが一次周波数標準器です。世界の標準時の正確さを決める一次周波数標準器は、世界中で6〜7台があるだけ、その正確さは近年では、10-15台に達してきています。最近の一次周波数標準器の例を見てみましょう。 |
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この不安定軌道原子は1億分の数秒で安定軌道に戻るのですが、戻った後の向きが安定か不安定かは確率半々です。不安定向きになった原子は再度不安定軌道に飛ばされ、また安定軌道に戻ります。僅かな時間にこれを何百回と繰り返すことで、電磁波照射前に原子を安定向きのものばかりにしてしまいます(光励起)。 当所と米国NIST(国立標準技術研究所)で共同開発し、現在当グループで運用し、国際原子時の高確度化に貢献しているCRL-O1はこのタイプです(図2)。通常10-14程度の正確さが得られ、これまでで最高の確度は6×10-15を達成しています。光励起型は2と4のプロセスを効率良く行えますが、熱ビームを用いているためプロセス3を行う時間間隔が限られ、これ以上の高精度の測定は難しくなります。熱ビームの速度は200m/s 以上です。このため市販の原子時計では照射の間隔は十数cmで時間は1ms未満、長さ3mという長大なCRL-O1でも、1.5m、7ms程度の照射間隔が精一杯です。図3に、CRL-O1で得られているラムゼー共鳴を示します。9.2GHzの電波に対し10-14の正確さを得るには、この60Hzほどの広がりの中心を、92μHzの精度で決める必要があります。 |
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セシウム原子ばかりでなく、最近は他の原子の光領域での周波数標準の研究も進んでいます。当グループでも将来へ向け、この研究を昨年から開始したところです。これはまたいずれ、詳しくご紹介する機会を持ちたいと思います。 | |||||
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