 古濱 洋治 陜西天文台の李志剛台長の招待に応じて、1998年10月25日から10日間、国際研究交流室の佐藤鉄夫係長と共に、烏魯木斎(ウルムチ)天文台、陜西天文台、南京大学を訪問し、視察・意見交換及び特別講演を行ったので、その概要を報告する。   | ウルムチ郊外のアジア大陸の 中心地点の道標 (N43、E48、標高1200m)にて 左から 張晋ウルムチ天文台長、古濱洋治、 佐藤鉄夫、王建軍副台長 | 烏魯木斎市は、50年前まで人口6万人の小さな都市であったが、現在では約20倍の120万人、近郊を含めると210万人に達する大都市となっていると言う。 烏魯木斎天文台の張晋台長を訪問し、VLBI技術や研究交流について意見交換した。張台長は、1993年4月に通信総研を訪問されている。また、昨年3月には鹿島宇宙通信センター宇宙電波応用研究室栗原則幸室長と周波数標準課今江理人課長が御地を訪問し、研究協力をしている。 会見の後、張台長等10数名の所員と共に、南山VLBI局(標高2080m)に向かった。途中、アジア大陸の中心地点の道標(N43、E48、標高1200m)に立ち寄った。近くにある南山VLBI局の地理的位置が、VLBI計測におけるヨーロッパ・日本の中継点として、ヨーロッパと日本の双方から注目される理由が良く分かる。 南山VLBI局には、鹿島宇宙通信センターの直径34mアンテナと同じ形式の、中国製の直径25mの電波観測用アンテナが設置されており、給電系には中国製の他、ロシア、日本製のものが設置してあった。また、米国製のものも近く納入されると言う。観測棟には、通信総研のシンボルマークの入ったK-3受信機もあった。見学後、壁に畚野元所長の訪問時の写真が掲載してある談話室で、「VLBI」と「CRL Research Activities」について講演した。南山VLBI局には、2階建て20室の招待所がありここで一泊した。 陜西天文台は、西安市の北東、車で約1時間の距離にある。陜西天文台では、成田空港を一緒に出発した当所の今江理人課長と今村國康同課標準比較係長とが先に到着し、JCSAT-3衛星を用いた当所と陜西天文台との時刻比較実験を準備していた。実験は成功し、今後の共同実験の強固な足掛かりを作った。 29日、陜西天文台の李志剛台長等の幹部と今江課長等と共に時刻比較に関する研究協力について意見を交換し、議事録を作成した。李台長は、1996年11月に通信総研を訪問されている。 30日、楊延高副台長の案内で、同天文台の75km北西にある長波(BPL)、短波(BPM)周波数標準送信局を視察した。同送信所の職員数は、約200名である。現用の短波送信機(BPM)は、各送信電力10kWで、2.5、5、10、15 MHzの4波を送信している。長波送信機(BPL)は、一日に10時間、平均送信電力30kW(Peak Power:2MW)で、100kHzを送信している。また、台湾、シンガポールの援助で長波送信機(半導体式、48個で出力50kW)が新設され、現在テスト中である。アンテナは現用BPLと共用するので、同時送信は不可と言う。 31日には、陜西省副知事、中国科学院副秘書長等の要人、中国各地の専門家の出席の下に、双方向衛星時刻同期実験開始式典が挙行された。式典では壇上に座り、お祝いの挨拶を述べた。今江課長は今回の実験の概要を報告した。李台長の日中時刻同期実験に対する強い思いを感じる盛大な式典であった。施設見学の後、所内の食堂で記念の会食が行なわれた。 午後の記念科学講演会において「CRL Research Activities」と「CRL Vision 21」を講演した。今江課長は「Time and Frequency Research Activities in CRL」を講演した。 李台長には、研究協力や記念式典への招待の他、宿泊、西安空港における送迎、西安周辺の歴史的名所の案内等、滞在中大変お世話になった。 昨年、南京大学の客座教授に就任したので、年一回講義することを要請されている。このため、今回の訪中の最後の11月2日、南京大学を訪問した。同大学では、今年5月来所された謝立副学長を表敬訪問すると共に、午前中は当所に関係する9部門の教授の短い研究紹介を受け、意見交換した。これに基づいて、新たな共同研究の足掛かりが出来ることを期待している。午後「Measurement Technologies on Earth Environment in CRL」と「CRL Vision 21」を講演した。夜、今回のホスト役の呉培亨教授に招待され、中華料理に舌鼓を打った。 立ち寄った何処の空港でも、あちこちでGSM規格の携帯電話が使われており、中国では通常の電話より携帯電話の普及の方がずっと早いのではないかと感じられた。 南京大学の在る江蘇省の経済成長率は12%,全国平均は8%である。南京市のここ2年の間における開発のテンポには驚くべきものがある。市内は高層ビルの建設ラッシュで、昨年7月開港した新南京空港から南京市まで40 kmの高速道路が開通していた。 今回の中国訪問は、1980年の田尾一彦元所長・栗原芳高元企画部長、1986年の若井登元所長、1992年の畚野信義元所長に続いて、6年毎の4度目の所長の訪問である。これらの訪問を契機に、共同研究が着実に進展している。これを確認すると共に、新しい共同研究の可能性を開いた事ができ、誠に有意義であった。 (通信総合研究所長) |