所長 若井 登
本ニュースの新年号でふれましたように,電波研 究所の新組織は昭和60年4月8日に発足しました。 昭和42年の大改正以来実に18年ぶりのことです。そ の間の科学技術,特に宇宙・電子工学の進歩に支え られた,通信・情報関連技術の進展には目を見張る ものがあります。また電波の利用も多種多様となり, 社会生活に不可欠な存在となっていることは御存知 の通りです。電波研究所昭和60年度組織改正にあたって
昭和60年4月8日
本日は電波研究所の新組織が発足した記念すべき 日です。と同時に昭和60年度に入ってはじめての機 会ですので,この二つの意味をこめて御挨拶申し上 げます。
御承知の通り,昭和60年度予算は4月5日に参議
院で可決成立しました。当所予算に関していえば,
42億円という前年比2億6千万円減の一層厳しい内
容で業務を遂行してゆかなければなりませんし,又
要員に関しても,第6次定員削減計画(−7名)に
加えるに定年制施行に伴う欠員の不補充(−2名)
という枷もはめられて,現時点で定員436名という
状態になっております。このような制約の中にあっ
てただ一つ明るい材料といえば,19人のフレッシュ
な所員を迎えることができたことです。
予算・要員の確保については今後とも最大限の努
力を重ねて参りますが,所員の皆さんにはより一層
の工夫と人の和をもってこれに対処して頂きたい。
さて当所の新組織は,本来ならば地方電波監理局
の名称変更と組織改正及び電波研修所の名称変更と
同期して,4月1日にスタートする筈でした。しか
し前述のように昭和60年度予算案の成立が4月5日
にずれこんだため,予定より1週間遅らせて本日8
日とした次第です。
皆さんの大半は,午前中に新しい仕事に対する辞
令を受け取られたことと思います。その総数は237
枚でした。過去の組織改正として最も大規模であっ
た昭和42年には,一人一人押印して確認したそうで
すから,このような大量の辞令交付が行われたのは,
電波研究所始まって以来今回が初めての筈です。枚
数の多さはともかくとして,新設の研究室に配属さ
れた人,部名・室名は変ったけれど仕事は全く同じ
という人など,辞令の内容は様々です。辞令交付を
受けなかった人も含めて,所員全員本日から心機一
転して,新しい電波研究所作りにまい進して項きた
いのです。
当所創設以来度々行われてきた組織改正には,そ
れなりの理由と必然性があります。昭和42年の大改
正は一にいえば宇宙通信時代への先駆けであり対
応でしたが,今回の改正の必然性は,高度情報社会
を迎えて郵政省が展開している情報通信関連施策の
推進にあります。昨年7月には電気通信の3局体制
が発足しましたし,各種電気通信事業会社の発足か
ら本年4月1日の電電公社の民営化実施,電気通信
事業法の成立,地方電気通信監理局と電気通信研修
所の誕生と続き,その連鎖の一つとして当所の組織
改正も位置づけられる訳です。
思い返してみますと,組織改正を企画し今日に至
るまでには,1年の歳月が必要でした。第2次臨時
行政調査会の答申実施によるインパクトを予測して,
当所としては自主的に将来指向型の新組織を作るべ
く,昨年5月機構改革検討委員会を発足させました。
その作業と併行して,6月頃から昭和60年度予算概
算要求に関達して,所掌の追加・変更,組織の改正
の作業を進めてきました。それから丁度1年後,一
部不満足なところを残しながらも,本日の新組織発
足をもって一応の終結をみることができたのです。
しかし組織改正もこれで完結した訳ではなく,前
記検討委員会の答中にも書かれているように,多く
の懸案を残しています。つまり機構や所掌を見直し
改善してゆくための一連の作業は今後も続けなけれ
ばならないのです。
言うまでもないことですが本日は新組織の看板を
かけ,所員それぞれの担当部門が決まった日という
だけのことです。仏作って魂を入れる作業を今日か
ら皆さんと共に進めてゆきたいと考えています。
話は変わりますが,日本電信電話公社は4月1日
をもって日本電信電話株式会社(NTT)になりま
した。これに関連して「電電公社も株式会社になれ
ば,他の多くの電気通信事業者と同様に営利主体の
方式をとるだろう。いや違う,NTTは会社になっ
ても公共性は失わず,例えば赤字の電報事業でも今
後も負担してゆくべきであると思う。しかし,NT
T研究所は,電気通信に関して基本的な,リスクの
大きい,公共性の高い研究テーマが出現した時,採
算を無視して研究することはかなり難しいことだろ
う。」など巷にはいろいろな話が交されています。<>
何れにせよ我が国の電気通信事業の大きな転換が
行われた今,我々としてはこれを研究の側面からし
っかり受け止めなげればなりません。
これが今回の組織改正にあたって有無線一体の総
合的電気通信を新組織の中に取込んだ理由です。今
後は電気通信全般に関する唯一の国立研究所として
の立場を自覚して,電波研究所を,より間口の広い
研究所として発展させてゆくことが必要です。
今回の組織改正は外部からいろいろの意味で期待
されています。例えば有無線一体というけれど具体
的に何をやるのですか,電波研もいよいよ放送の研
究を手がけるそうですが,NHK技研との関係はど
うなるのですかなどです。当所としても早急に各部
・各研究室のイメージを確立し,一日も早く新しい
研究テーマに取組んでゆかなければなりません。
御存知の通り,社会の発展は農業,水産業,鉱工
業の順に進んできました。次は情報通信の番です。
従ってこれを担当する郵政省とそこに所属する電波
研が発展するのは当然の帰結です。
最後に,新組織発足による清新の気の満ちている 本日,皆さんと共に確認したいことがあります。そ れは自由で豊かな発想をぶつけあえる雰囲気の,そ して明るい,お互いに信頼のできる人間関係をもっ た研究所に育てあげてゆくということです。
所員全員の一層の御奮闘を期待します。
郵政省 通信政策局長 奥山雄材
この度,電波研究所が改組され,高度情報社会実 現に向けて,電波研究所の活動を一層活発化できる 体制にされたことをお慶び申し上げます。今回の組織改正は,昭和42年に宇宙通信関係の研 究を強化するために行われた組織改正以来の大きな 改組であり,総合的電気通信の研究を強化するため に行われたということは,誠に時宣を得たものであ り,本省としましても電波研究所の今後の活動に従 来以上に期待をしているところであります。特に, 電波研究所は,郵政省が所管する唯一の試験研究機 関であるので,高度な専門的研究はもちろんのこと, 当省の行政施策に密接な関係を有する研究について も一層充実されるものと考えます。ただ,残念なこ とは,有無線一体となった電気通信分野の研究を行 うための複合システム研究室が未だ実現をみていな いことです。本省,地方局等の各組織が有無線一体 とした対応が可能な体制となったのに,電波研究所 のみが無線関係に限定された所掌のままでよい筈は なく,その改正が今後の課題であるといえましょう。
最近は,行革審,その他の場において,国立試験
研究機関の在り方が種々議論されております。例え
ば,国全体の科学技術振興の中で国立試験研究機関
の果たすべき役割をどう位置づけるかとか,国立試
験研究機関の活動を活性化するためには,現在の会
計制度,公務員制度による制約をどのように改正す
るか等の議論です。また,限られた予算を有効に活
用するため,予算配分を重要研究項目に絞るべきだ
とか研究評価を重視すべきだという議論もあります。
さらに,本年4月から電電公社が民営化されたこ
とに伴い,電気通信分野の公的研究機関は電波研究
所のみとなり,その役割は,一層重要になると考え
られます。また,基盤技術円滑化法の成立に伴い,
基盤技術研究促進センターが設立されることとなり,
同センター及び関西財界等からの出資を受けて関西
文化学術研究都市に電気通信分野の基礎技術研究所
を株式会社形態で設立するという計画が進められて
おります。
また,同法には国有試験研究施設の廉価使用を認
める措置や民間と国の試験研究機関の共同試験研究
を促進する措置なども織り込まれており,産・官の
協力が一層推進される機運にあります。
このように,電波研究所を取り巻く環境は,大き
な変動期にさしかかっていると考えられますので,
研究の意議,位置付けを明確にし,その活動状況に
ついても対外的に積極的にPRしていくとともに,
本省等とも連携を密にして研究を支える共通基盤の
整備を図っていくことが重要であると考えます。
さらに,行政との連携について付言させて項きま す。従来,本省から電波研究所に対し,毎年10数件 の調査協力をお願いしており,その件数も年々増加 する傾向にあります。電気通信分野の二ーズの高度 化・多様化及び技術の進展により,今後,種々の電 気通信サービスの出現が予想され,これに伴い,解 決すべき行政上の課題も質量とも増加するものと想 定されます。そこで,こういった直接行政施策に反 映させるための調査協力や電気通信技術審議会及び 各種研究会にお、ける審議への協力を従来以上に電波 研究所に要請することが予想されます。
電波研究所は,既に,電波科学の面で数々の実績
を挙げているところでありますが,電気通信は技術
先導性の極めて高い分野でありますので,同研究所
の今後の一層の御活躍と御発展を期待しております。
企画調査部長 塚本 賢一
本省内部部局の三局体制への移行,電々公社の民 営化,電気通信事業法並びに基盤技術研究円滑化法 の制定等,昨年から今年にかけて我が国の電気通信 界は21世紀の高度情報社会形成に向けて激しい動き をみせている。こうした情勢の中にあって,電波研 究所も総合電気通信及び多様な電波利用技術の研究 開発をより一層活発かつ効率的に推進すべく,それ にふさわしい体制整備を目指して,この4月8日を 期して大幅な組織改正が行われたところである。この組織改正の実施に際し,全面的な研究計画の 見直しを行い組織改正に関する所長答中を行うベく 「電波研究所機構改革検討委員会」が昨年5月に設置 された。この委員会は,次長を委員長,総合研究官 を副委員長とし,全部長,特別研究室長及び支所長 から成る委員で構成され,更に委員会の審議を具体 化し,実質的な作業を行うための小委員会が設けら れ,全所的な形での審議が精力的に進められた。59 年7月に中間答中,12月に最終答申という形でその 骨子がまとめられた。この間,電波研究所の所掌事 務に関する郵政省組織令の一部改正,総合電気通信 技術の研究推進に関連しての複合システム研究室の 新設と「LAN用移動端末収容データリンクシステ ムの研究」の新規予算項目要求を含めて組織改正に 関し,本省,大蔵省,総務庁等に対する折衝が続け られた。諸般の事情から,所掌追加,研究室増,新 規予算要求項目は総務庁あるいは大蔵省の認めると ころとならなかったが,組織改正については,ほぼ 原案通りに認められた。今同改正の対象とならなか った部署についても,近い将来必要な改正が実施さ れるものと予想される。
新しい組織図は別図に示すが,その概要は次の通 りである。
企画調査部:1課2調査室から成り,研究所の中・ 長期の研究計画と長期展望の確立及び研究の評価 と管理を効率的に行う。このため研究企画・調整 部門と技術調査部門が統合された。更に内外機関 に対する渉外,特許事務,研究成果発表,広報, 訓練研修事務等も所掌する。
情報管理部:1課2室から成り,図書管理,出版, 通信,試作開発等の研究支援業務,共通電子計算 機運用と技術開発並びに電離層観測・電波予報等 の定常業務を所掌し,かつ電波の伝わり方にかか わる観測資料の統一的管理・提供を行う。
総合通信部:4研究室から成り,新しい電気通信シ、 ステムや通信規約に関しての総合的電気通信技術, 放送の技術基準や電磁環境評価にかかわる研究を 総合的に行う。
宇宙通信部:3研究室から成り,従来の衛星通信部 の各研究室の所掌を整理再編し,放送を含む衛星 通信,移動体衛星通信及び宇宙基地を含む将来の 各種宇宙技術の研究開発を効率的に推進する。
通信技術部:5研究室から成り,電気通信及び電波 利用技術全般にかかわる共通的基礎研究を推進し, 併せて成果の系統的な蓄積と他の研究部門との運 携強化をはかる。
電波部:3研究室から成り,従来の電波部から電離 層観測並びに電波予報の定常業務部門を他の部へ 移行して整理統合し,電磁圏,大気圏の伝搬特性 並びに電波媒質の特性に関する研究を効率的に実 施する。
電波応用部:4研究室から成り,電波と光を利用し たリモートセンシング技術を含む電磁波の多様な 利用に関する研究を総合的かつ効率的に実施する。
標準測定部:2課3研究室から成り,従来の周波数 標準部の所掌と無線機器の型式検定・較正業務及 びこれに関連する測定技術の研究を所掌する。 以上のほか,平磯支所超高層研究室の名称が通信 障害予報研究室に変更された。
新しい組織の下,社会の要請に応えての研究活動
が円滑に推進されることを念願している次第である。
昭和60年度予算は,第102国会で審議され4月5 日可決された。本年度予算は,58年度予算から連続 するマイナスシーリングという厳しい事態の中で, 郵政省一般会計予算額は,244億2,665万8千円で59 年度予算額に対して0.3%の減となっており,物件 費に限っては8.4%の減となっている。
電波研究所の予算額は,42億941万8千円で,前 年度予算額に対し2億5,606万3千円(5.7%)の減 となっており,物件費に限っては2億6,226万8千 円(11.8%)の減となっている。事項別内訳は別表 のとおりであるが,その特徴として,
@当所の組織改正が認められ,有線・無線の統 合を目指した,いわゆる総合電気通信をも包含 して,より間口の広い研究所に発展する礎がで きたこと,
A標準予算及び人当研究費については,58年度 に5%の査定減がなされたまま,引き続き据え 置かれたこと,
B予算額には,航空・海上衛星技術の研究開発 に係る昭和59年度の国庫債務負担行為の歳出化 分3億4,960万円が含まれていること,
C予算額に占める物件費(物件費率)が,初め て50%を割ったこと,
等であり,新規事項及び増員要求が認められず,相 当厳しいものとなっている。
また,冒頭でも述べたように58年度から連続する
マイナスシーリングという厳しい事態の中,昭和61
年度も引き続きマイナスシーリングを行う考えが伝
えられており,当所の予算の増加は当分期待できそ
うもない現状である。
国際通信会議(GLOBECOM'84)に出席して
(鹿島支所 第二宇宙通信研究室 研究官 浜本 直和)
PTTI会議に出席して
(標準測定部 周波数・時刻比較研究室 主任研究官 森川 容雄)
研究機関長連絡会議(昭和59年度)の取りまとめ
行革審科学技術分科会ヒアリング行われる
昭和60年度宇宙開発計画の決定
昭和59年度宇宙通信政策懇談会報告書
宇宙基地特別部会報告
臨時行政改革推進審議会科学技術分科会(主査:山下勇
三井造船会長)によるヒアリングが,3月20日行われた。
このヒアリングは,全省庁に対して実施されており,本
年6月には分科会報告が取りまとめられるもようである。
ヒアリングには,当所上田次長,本省石田審議官が出席
して,郵政省における科学技術関係施策の現状,電波研
究所の現状,行政の中での位置づけ,活性化のための方
策,科学技術振興における総合調整の在り方についての
見解等について報告した。席上,電電公社の民営化に伴
う電気通信に関係する技術開発政策の在り方や国立試験
研究機関の役割について,米国における実状も含めて質
疑がなされた。
昭和60年度第4回宇宙開発委員会定例会議が3月13日
に開催され,宇宙開発計画が決定された。当所に関連あ
る改定部分は,第13号科学衛星(MUSES-A)の開発を
行うこと,放送衛星3号-a(BS-3a)を昭和63年度
に打ち上げることを目標にH-Iロケット(3段式)3号
機及び4号機の開発を行うこと,磁気圏観測衛星
(GEOTAIL)について所要の開発研究を行うこと,米国
が提唱する宇宙基地計画の予備設計段階(フェーズB)
の作業に参加するため,実験モジュールの予備設計等を
行うこと,等である。
郵政省通信政策局長の私的懇談会である宇宙通信政策
懇談会は3月27日,その報告書を提出した。この懇談会
の目的は幅広い観点から,宇宙通信の長期ビジョンに関
する調査研究を行い,長期的・総合的な宇宙通信政策の
確立に資することにある。電波研究所からは開発部会長
代理に次長が参加している。
当報告書は主に通信衛星の開発・利用の在り方につい
て調査研究結果をとりまとめたものである。この中で,
「長期展望に基づく通信衛星開発の推進」,「実証衛星の
開発」,「通信衛星の効率的開発」,「研究開発基盤の強化」
等の10項目にわたり提案されるものであるため,今後の
我が国の通信衛星の開発・利用について少なからぬ影響
を及ぼすものと考えられている。なお「実証衛星」とは
CS-3に続く大型通信衛星の信頼性を確保するため,
その実用に先立ち,高度な衛星通信技術を実証するため
の衛星をいう。
本年4月,宇宙開発委員会の宇宙基地計画特別部会
(電波研究所からは塚本企画調査部長が専門委員として参
加)は『宇宙基地計画参加に関する基本構想』と題する
報告書を提出した。これは米国が提唱している宇宙基地
計画への我が国の予備設計段階(フェーズB)の活動に
参加するに当たっての特別部会としての基本的な考え方
をまとめたものである。
この中で,当面の我が国の参加構想としては,予備設
計段階には実験モジュールで参加し,フリーフライヤに
ついては当面基礎研究を行っていくこととし,利用テー
マについては調査研究を予備設計に平行して進めるとし
ている。また,予備設計作業を推進する体制は宇宙開発
委員会における企画調整機能を十分に活用して,国内に
おける調整を進めるとともに,NASA,ESA,カナダな
ど他の参加国・機関への対応に十分配慮することが必要
であるとしている。