所長就任にあたって


所長 塚本 賢一


 7月10日付けで電波研究所長を命ぜられました。 責任の重大さに身の引き締まる思いがいたします。 この機会に改めて,長年にわたって電波研究所の発 展に御支援頂いてまいりました産業界,学界,官界 の関係各位,そして常に私達後輩の育成に並々なら ぬ御配意をくださっている先輩の皆様に感謝の意を 表するとともに,今後とも一層の御指導,御鞭撻を 賜りますようお願い申し上げる次第であります。

 電波研究所は郵政省唯一の附属研究機関として, 昭和27年8月1日に創設されて34年を経過しました が,この間社会の進展を反映して幾度びか組織改正 を伴う脱皮を試みながら,その時代時代の要求にこ たえる研究活動を続げてまいりました。歴代所長の 優れた治績を継ぎ,微力ながら研究所の発展,ひい ては国民の福祉向上のために尽くしたいと念願して おります。当所が所掌している研究内容の源泉を尋 ねますと,遠く明治29年に旧逓信省電気試験所に無 線電信研究部が設置されて電波の研究が始められた ときにさかのぼりますが,ずっとくだった昭和17年 に開設された文部省電波物理研究所の流れをも統合 して現在の電波研究所が発足した経緯からもうかが えるごとく,非常に広範囲な領域の研究を行ってき ております。すなわち,昭和27年発足当初から,電 離層観測と短波予警報,電波気象を含む対流圏電波 伝搬,無線機器の調査研究と機器の較正・型式検定, 標準電波発射と周波数・時刻の標準に関する研究等, 電波に関する広範な理学,工学分野をその研究対象 としてスタートしました。さらに,昭和32年のIGY (国際地球観測年)行事を契機とする20世紀後半の目 覚ましい科学・技術の進展と歩調を合せて,あるい は時代の先導的役割を演じつつ宇宙科学,宇宙通信, 情報工学,電波計測等の新分野をも積極的にその研 究対象に取り込みつつ,立派な成果を挙げてまいり ました。この輝かしい歴史と伝統,そして豊かな成 果,その上に培われ育った研究ポテンシャル。これ らの貴重な財産を大事にし,かつ,よりどころとし て課せられた将来の研究対象に挑戦していきたいも のと考えております。

 昨今の当所をめぐる社会環境には,極めて複雑か つ厳しいものがあります。自由競争の原理を基調と する電気通信事業法の施行と,それに基づく日本電 信電話公社の民営化,基盤技術円滑化法とそれに基 づく基盤技術研究促進センターの設立,当所と今後 深い係わりを持つと予想される国際電気通信基礎技 術研究所の発足, その他同センターの出融資事業に よる各種R&D会社設立の動き等の中にあって,電 気通信界における当所の役割・使命をしっかり捉え た上で,その研究方途を定めていかなければならな いと考えます。

 昨年4月に行われた当所の機構改革は,行政改革 の一環として研究業務の効率化を図ることを目的と するとともに,こうした世相を背景に21世紀を指向 しての高度情報社会化が要求する研究課題に取り組 むのにふさわしい体制作りを意図したものでありま す。すなわち,厳しい予算・要員事情を克服しつつ, 総合電気通信並びに多様な電波利用技術の研究開発 を効率的に進め,行政サイドからのニーズに対応し かつ国内外の学術振興に大きく貢献していくための 基礎固めを図ったものであります。機構改革実施後 1年有余,過渡的混乱期も収まり,新しい枠組みに なじんできたところでありますが,この新組織を生 かしての研究の刷新はまさにこれからであります。

 技術立国の国是を支えるものは先端技術の開発で あります。技術開発に民間活力を積極的に生かし, 産学官の研究協力を推進するための研究交流促進法 が本年5月に制定され, この11月には施行されよう としております。当所はこれまで,他の国立研究機 関,公共的機関,大学,外国機関等との共同研究, 研究交流を幅広く行ってきましたが,民間企業との 共同研究も積極的に実施すべく,本年1月に電波研 究所共同研究規程が制定・公達されたところであり ます。上記促進法の施行と相まって,国内的にも国 際的にも自由に開かれた研究所として大きく飛躍し たいものと念願しております。現在こうした研究交 流促進の動きの中にあって,国立試験研究機関の活 性化についての真剣な審議が,科学技術会議を中心 に行われておりますが,自由競争原理の社会体制の 中における国立試験研究機関の立場,役割あるいは 使命を的確に把握し, その研究活動の活性化を図っ ていくことは極めて重要であります。

 研究の独創性が今日程強く求められ,重要視され たことはありません。創造的研究は,優れた研究者 によってのみ可能であると同時に,独創的研究の芽 を温かく育て上げる協調的研究環境が是非必要であ ります。人材の確保と養成,個々の研究者の自己研 鑽と研究者相互間の切磋琢磨,先見的な研究評価と 重点施策,こうした一連の研究環境があって始めて 推進されるものであります。実用化指針を早急に得 るため,特に行政面から短期間に成果を求められる 応用研究の課題も多くありますが,未知の大きな波 及効果の夢,を秘めた純粋基礎研究の分野に対しても, じっくり腰を据えて研究に打ち込める研究環境を維 持することが極めて重要であります。

 当面の具体的研究課題は,年度頭初に定められ, 昭和61年度研究計画概要として既に示されていると おりであります。すなわち,(1)総合電気通信の研究, (2)宇宙通信の研究,(3)宇宙科学と大気科学の研究, (4)電波計測の研究,(5)電波に関する標準の研究,の 五つの分野を中心に研究を推進するとともに,無線 機器の型式検定と較正,標準電波の発射,電波予報 ・警報,電離層の定時観測,ウルシグラム放送,電 離層世界資料C2センター業務等の定常業務を着実 に実施してまいります。

 総合電気通信の研究分野では,既利用・未利用周 波数帯双方についての周波数資源の開発研究,特に 準マイクロ波陸上移動通信システム,テレビジョン 同期放送方式,コンピュータネットワーク,ミリ波 ・光伝搬特性等の実験研究を進めるとともに、有無 線融合の統合ディジタル通信綱構築に関する研究に 着手したいと考えております。電磁環境の評価・測 定の研究では,電子機器相互間や,無線通信系との 相互干渉に関する分野のみならず,今後は生物体と 電磁環境の関わりについても研究調査を進めていく ことが必要であると考えます。

 宇宙通信の研究分野では,衛星通信・衛星放送の 実用化促進を図るためのパイロット実験計画の推進 に当たるとともに,来年夏期打ち上げの技術試験衛 星X型(ETS-X)による移動体衛星通信実験 (EMSS)計画の実験実施に万全を期すべく諸準備 を進めます。また,昭和67年度打ち上げ予定のETS-Y や宇宙基地計画に関連してのマルチビームア ンテナ,衛星間通信等を含む将来宇宙技術の開発研 究を積極的に進めてまいります。しかし,これまで の経験からも知られるごとく,宇宙開発関連の実験 研究には巨額の経費を必要とします。したがって当 所におけるこの分野の研究活動を効果的に進めてい くためには,関係機関との協議により,経済的に無 理のない形で開発に貢献していげる道を求めること が早急に必要であります。

 宇宙科学と大気科学の研究の分野では,当面ISIS (国際電離層研究衛星)及びNASAのDE-1 (ダイナミックスエクスプローラ衛星)からのテレメ トリ信号受信解析により電離圏,磁気圏の電子密度, プラズマ波動,自然電波雑音等宇宙環境探査の研究 を行うとともに,宇宙科学研究所のEXOS-D計 画の一部搭載ミッション機器開発をカナダCRCと の共同研究として進めます。地上からの電離層観測 については,イオノグラム完全自動処理化を推進す るとともに,スポラディックE層による異常伝搬観 測はその発生機構の研究とともに,干渉軽減対策技 術についての調査検討も重要と考えております。本 年4月から実施の電波予警報業務のテレホンサービ スは,その定着化を図るとともに,予警報の質的向 上のための研究も継続してまいります。

 大気科学の研究は電波計測の研究と密接な関係に あります。地殻変動の観測や国際時刻比較等を目的 とするVLBI(超長基線電波干渉計)による日米・ 日中・日独等の国際実験とともに同システムによる 国土地理院を始めとする国内関連機関との協力実験 も進めていきます。また,宇宙空間VLBI実験等 斬新的な国際協力実験にも積極的に参加対応してま いります。上層風ラスレーダやレーザによる大気汚 染計測等環境モニタのための電波利用技術,更には 人工衛星,航空機等からの地表,海表,大気に関す る電波映像レーダによるリモートセンシング技術開 発も,国際共同実験を含めて積極的に進めてまいり ます。センサーとしてのミリ波の利用技術も今後研 究していくべき課題であり,電気通信と並んで電波 の多彩な利用技術開発は当所の主要な研究分野と考 えております。

 電波の標準に関する研究の分野では,何といって も当所が長い歴史を持つ標準電波発射業務に関連し ての原子周波数標準器の性能向上の研究が主要なも のであります。セシウムビーム一次周波数標準器の 精度は今や世界のこの分野の先進国レベルに達して おり,更に精度向上のため,光ポンピング方式やイ オンストレージ型等新しい原理に基づく研究開発を 進めてまいります。水素メーザの小型高性能化も重 要な研究課題であり,また,各種衛星を使っての国 際精密時刻同期システム確立のための実験研究も精 力的に進めてまいります。周波数のみならず,広い 周波数領域にわたっての電界強度,電力等の標準を 確立していくことも当所の重要な研究課題でありま す。

 以上いずれの研究項目も重要であり,等閑にでき ないものでありますが,これらに関連しての本省行 政サイドからの調査研究依頼項目あるいは国内外か らの共同研究,研究協力提案も年々増加しておりま す。これは当所の研究活動評価の指標であり,喜ぶ べき事象でありますが,半面これらを消化するにはあ まりにも厳しい財政事情にあります。この難面を乗 り切り使命を達成するには,直接研究に携わる研究 者の努力はもちろんのこと,絶えず研究環境の改善 を図っている総務部門や企画調査部門の力強い支援 が絶対不可欠であります。また,当所の重要な所掌 である定常業務の実践とその業務改善への不断の努 力も極めて重要であります。更に直接研究に携わる 者,それを支援する者,すべての職員が研究所の生 活を楽しく送れるよう,明るく健康的な職場環境を 維持していくことが何よりも大切なことと考えます。

 所長就任に当たって,職務遂行に最善の努力を傾 けることを決意するとともに,職員一同の協力と, そして内外の関係各位の御支援を重ねてお願い申し 上げる次第であります。


新機種の型式検定について

−1974年海上人命安全条約2次改正発効−

渡辺 重雄

  

はじめに

 無線機器型式検定は,郵政省が電気通信監理行政 の一環として行っているもので,無線機器の製造段 階であらかじめ試験を行う。その結果国の定めた基 準を満足しているときは,その後製造される同一型 式の一連の製品について,無線局免許の手続き上の 簡略化等の優遇措置を与え,合理的に円滑な無線局 の監理を行おうとする制度である。

 型式検定の対象機種は,電波法によって無線局に 設置するとき,型式検定合格機器であることを義務 付けているもの(通称義務検定機種)と,郵政省設 置法に基づいて製造者からの委託によって行うもの (通称任意検定機種)との二つに分けられる。義務検 定機種は,海上人命安全条約(SOLAS条約)ある いは国際民間航空条約に基づく関係法令により規定 されている機器であって,表に示すような船舶に設 備する無線方位測定機,船舶用レーダあるいは航空 機用無線機等がある。さらに今回の,1974年SOLAS 条約2次改正発効に伴う電波法改正(昭和61年 4月)より,海上救命用無線機器として3機種が加 わった。他方,任意検定機種は一般に広く使用され ているFM無線機,自動車無線電話,船舶や海岸局 で使用されるSSB無線機等あるいは気象状態を調 べる気象援助局用無線機器(ラジオゾンデ,ラジオ ・ロボット等)など多機種に及んでいる。

 最近の無線機器の多様化及び増大する需要に対し て迅速に対応するため,昭和53年に財団法人無線設 備検査検定協会が設立され表の任意検定機種のうち FM無線機やMCA無線機など9機種を同協会で試 験を行い,この成績害を添えて申請された場合は, 書面の審査によって合否の判定を行う方法がとられ るようになった。なお,昨年の日米電気通信分野協 議(通称MOSS協議)の決着以来さらに申請者の 希望により製造者提出のデータ受入れ等の簡略化が 進められている。

  

1974年SOLAS条約2次改正発効に伴う新検 定機種

 2次改正により新たに追加となった救命用の義務 検定機種は,救命艇用無線電信,生存艇用非常位置 指示無線標識(生存艇用EPIRB),双方向無線電 話の3機種である。1次改正(昭和56年11月)におい て国際航海に従事する船舶には,船舶用レーダプロ ッティング装置等の設置が義務付けられている。2 次改正は,本年7月1日から効力が生ずることとな ったため,すでに義務付けられている生存艇用携帯 無線装置(昭和61年5月27日救命艇用携帯無線電信 を改称)に新たに追加されたものである。これによ り国際航海に従事するすべての旅客船,総トン数500 トン以上の貨物船及び漁船のうち漁を主としない母 船や運搬船等は昭和61年7月1日以降建造されるも のから,これら無線機器の備え付けが義務付けられ ることになった。なお,国際海事機関(IMO)にお いて,生存艇用EPIRBが救命用機器として高額 であること等から,国の主官庁が認めた場合は生存 艇用レーダトランスポンダを使用してもよいことに なった。これに伴い我が国でも生存艇用EPIRB 等の義務検定3機種の外に,任意検定機種に生存艇 用レーダトランスポンダが加えられた。

  

救命用無線機器の性能及び試験の概要

 救命用無線機器は,概略次のように使用される。 従来(昭和28年)からの生存艇用携帯無線装置は,船 舶局の無線設備であり,船が遭難した場合に生存艇 (救命艇及び救命いかだをいう)に持ち運んで海岸局 又は他船との間を中波あるいは短波を使用して通信 を行うものである。これに対し,今回追加された義 務検定機種は,@救命艇用無線電信:船舶局の無線 電信で救命艇に設置して同様に使用する,A生存艇 用EPIRB:船舶局の無線設備であり,遭難した 場合に生存艇に持ち運んで,自分の位置を探知させ るためVHF帯の信号を自動的に送信する,B双方 向無線電話:船舶局の無線電話であり,船が遭難し た場合,その船と生存艇又は生存艇相互間でVHF 又はUHF帯周波数で通信を行うため携帯して使用 するものである。また,任意検定機種の生存艇用レ ーダトランスポンダは,生存艇で使用する無線設備 であり,レーダから発射された9GHz帯の電波を受 信し,それに応答して他の船や航空機のレーダ指示 器に生存艇の位置を表示させるものである。

 これらの救命用無線機器の検定は,機器の構造及 び、機械的,電気的な性能条件等を試験によって行う。 機器の構造の主な共通点は,きょう体は小型軽量で 発見が容易な色彩であること,取扱いが簡単で誤動 作防止付きであること,及び防水対策がほどこされ ていることである。機械的,電気的条件の試験には, 環境試験と性能試験とがあるが,環境試験は,使用 目的上一般機種に比べて極めて厳しいのが特徴であ る。環境試験は,機種により多少 の相違はあるが,20mの高さから の落下試験,水深10mの水密試験, 3日間の塩水噴霧試験,さらに, それぞれ10時間行う:温度-30℃及 び+65℃並びに温度+40℃で湿度 95%の温湿度試験などの項目があ る。性能試験については,電波型 式,周波数,通信方式等により異 なるが,送信機関係では,実効ふ く射電力,変調及び信号応動特性 試験等がある。受信機関係では, 一般受信機性能条件のほか,生存 艇用レーダトランスポンダ等は9 GHz帯のレーダ電波を受信して応 動することから,実効受信感度, 空中線指向特性等の新項目が加え られている。試験を行う当所とし ては,昭和61年6月1日の施行に伴い,型式検定試 験実施に関する説明会を開催し,1台でも多くの申 請機器に対応すべく鋭意試験を実施中である。

義務検定機種名任意検定機種名
周波数測定装置
警急自動受信機
生存艇用形態無線装置 注1
生存艇用EPIRB 注2
救命艇用無線電信 注2
双方向無線電話 注2
航空機用無線機
 DSB、SSB、救命用無線機、
 気象用レーダ、ドップラー・レーダー、
 選択呼出装置、機上DME、
 機上タカン、ATCトランスポンダ
無線方位測定機
船舶用レーダ
 自動レーダプロッテング装置
気象援助用無線機 注3(1部)
ミニサテ用無線機 注3
公共用無線機 注3
MCA用無線機 注3
簡易無線機 注3
SSB無線機 注3
FM無線機 注3
自動車無線電話 注3
沿岸無線電話 注3
航空機無線電話
遭難自動通報無線機
ラジオ・ブイ
生存艇用レーダトランスポンダ 注2
注1 61.5救命艇用形態無線電信、改称    注2 61.5検定規則改正、追加
注3 無線設備検査検定協会で試験
表 無線機器型式検定機種

  

おわりに

 以上1974年SOLAS条約2次改正発効に伴う新 しい検定機種について,検定業務を含めて概略を説 明したが,船舶の大型化,高速化等に伴って海上の 人命安全のための無線通信の果たす役割は,ますま す重要になってきている。国際海事機関では「将来 の全世界的な海上遭難安全制度」の実施に重点を置 いて審議が続けられている。型式検定は,今回のよ うに国際条約上からのもののほか,日米電気通信分 野協議から,あるいは電気通信行政上からくるもの など,義務及び任意の検定機種が並行して要求され ることがある。実施機関である当所では,これらの 対応のため,予算,人員等を効率的に活用し,検定 遂行のための試験法及び試験設備の開発を行い,検 定業務の実施に万全を期すべく努力している。

 最後に,当所では無線機器の型式検定のほかに, 委託により無線測定器の較正,性能試験を行ってい るので御利用ください。

(標準測定部 較正検定課長)




外  国  出  張


気象衛星GMSによる日中精密時刻比較


 日中科学技術協力協定に基づく共同研究に「気象衛星 GMSによる精密時刻比較」があり,科学技術庁の二国 間協力に伴う専門家派遣により,昭和61年3月9日から 15日にかけて中国科学院上海天文台を訪問した。
 中国側はGMS受信機開発の重要な段階に入っていた ため,筆者も直ちに開発に協力しその結果GMSの測距 信号の受信に成功した。さらに当所におけるGMS,G PSを用いた国際精密時刻比較の現状について講演を行 うとともに,有益な議論の場を持つことができた。この 結果,年内に日中時刻比較実験を行うことの展望が開け た。今回の訪問は非常に時宜を得たものであり,その成 果は大きく中国側からも多大の感謝をされ,当所と上海 天文台の関係強化に役立つことができた。

(標準測定部 周波数・時刻比較研究室 主任研究官 森川 容雄)



第2回SUNDIALワークショップに出席して


 米国科学財団(NSF)の招きにより,米国カリフォル ニア州サンディエゴ市近郊のラホーヤで開かれた第2回 SUNDIALワークショップに出席するため,昭和61年3 月9日から1週間出張した。このワークショップは,昭 和59年10月に実施されたSIR-B(シャトル映像レー ダB)の実験テーマの一つである,映像の電離層などの 伝搬媒質による歪みについての検討を行うことを目的と している。昨年9月に開かれた第1回会合に引き続き, 今回も米国をはじめ,ブラジル,オーストラリア,香港, 日本,インド,フランス,オ-ストリア等から研究者 が参加し,各担当地域におけるSIR-B実験期間中の 電離層観測データの解析結果を中心に熱心な議論が行わ れた。8日間の実験期間中には,地磁気嵐に伴う大規模 TIDや赤道スプレッドFなどの興味ある観測データも 得られており,これらのじょう乱現象に関しても本会合 により地球規模での解明が進むことが期待される。

(平磯支所 通信障害予報研究室長 森 弘隆)



AIAA第11回通信衛星システム会議に出席して


 昭和61年3月15日から22日まで,AIAA(米航空宇 宙学会)の第11回CSSC(Communication Satelite System Conference)に出席のため米国,カリフォルニ ア州サンディエゴ市に出張した。CSSCは2年に1度 米国で開催され,通信衛星システムに関して最も権威の ある国際会議の一つである。会議は市郊外のタウンアン ドカントリホテルで,3月16日から5日間にわたり,20 セッションに分かれて行われた。117件の講演が,27か国 約450人の参加者(日本からは16件,約25名)の中で行わ れた。筆者は直接放送衛星のセッションで50名程の出席 者を前に22GHz帯地域別衛星放送システムについて発表 した。衛星通信と光ファイバについてのパネル討議をは じめ,最近の興味深い話題について多くの発表があった。 現地では鹿島支所の杉本主任研究官(JPLに留学中)の お蔭で,初めての渡航にもかかわらず落着いて学会に臨 むことができた。

(宇宙通信部 衛星通信研究室 主任研究官 吉本 繁壽)



世界資料センターとの意見及び情報交換


 昭和61年3月27日から4月2日まで,二つの世界資料 センターを訪問するため米国に出張した。はじめに,コ ロラド州ボルダーにある太陽地球間物理世界資料Aセン ター(World Data Center A for Solar-Terrestrial Physics)において,当所の電離層世界資料C2センター との間の情報交換を能率化するための電子計算機郵便の 利用,電離層データの計算機用磁気テープによる交換な どについて協議した。次に,メリーランド州グリーンベ ルトにあるロケット・衛星世界資料Aセンター(World Data Center A for Rockets and Satellites)において, 当所が人工衛星に関する西太平洋地域警報本部として行 っている人工衛星打ち上げ等の情報交換の円滑化などに ついて協議した。両センターとも関係者の暖かい歓迎を 受け,懸案の諸問題について詳細な意見及び情報の交換 ができたことは非常に有益であった。

(標準測定部長 今井 信男)



第2回宇宙機搭載映像レーダシンポジウム


 昭和61年4月28日から3日間,米国ジェット推進研究 所(JPL)において標記シンポジウムが開かれた。その 目的は,SIR(シャトル映像レーダ)-B実験実施後約 1年半が経過した段階で,実験に参加した各チームでま とまりつつある解析結果を含めて現在までに達成された 研究状況を整理し,今後各国で進められる研究計画への 理解と協力を深めることにある。同一地点について過去 のSEASAT-SAR,SIR-A及びSIR-Bがそれぞれ異 なる入射角で観測したデータを組み合わせた解析,JP Lの航空機搭載L-バンドSARによる3偏波観測(V V,HH,VH)のデータを組み合わせた解析等が目をひ いた。
 5月1日及び2日にはSIR-Bのチーム会合が行わ れ,各チームが成果を報告した。チーム全体で強く希望 していた,スペースシャトルでのSIR-B再飛行の可 能性はほぼ消えた。1990年のSIR-C実験ではL-, C-,及びX-バンドの多周波観測,しかも前二者にお いては多偏波及び多入射角の観測が可能となる。

(通信技術部 物性応用研究室長 猪股 英行)



アメリカ地球物理連合(AGU)1986年度春季大会


 昭和61年5月18日から26日までAGU春季大会で研究 発表のため米国メリーランド州ボルチモアへ出張した。 AGUは地球物理の全分野を包括する学会で,海外から の参加者も多い。私は日米VLBI実験で得られた過去 2年間の基線長変化から検出された北米及び太平洋プレ ートの相対運動について報告した。更に地球回転パラメ ータを同時推定する事によって局位置の変化を正確に求 め,プレート運動の検出に有効な水平移動を直接求める という方法を提唱し,それが極めて有効であることを示 した。外にもNASAやNGS(米国立測地調査所)の研 究者からもVLBIやSLR(衛星レーザ測距)の実験結 果が数多く発表され,最新データやデータ解析ソフトウ ェアについて情報を仕入れる事ができた。学会終了後23 日にはNASAゴダード宇宙飛行センターを訪問し,米 国側の研究者とお互いの成果について更に詳しい議論を 行うことができた。

(鹿島支所 第三宇宙通信研究室 研究官 日置 幸介)



CCIR IWP 6/1 ラニオン会合に出席して


 昭和61年6月2日から6日まで,CCIR QWP 6/1の会 合がフランス国立通信研究センタ-のラニオンセンター Bにおいて開催され,これに出席した。ラニオンは,パ リから小型飛行機で約1時間のフランス北西部,イギリ ス海峡に程近い場所にある小さな町である。
 IWP6/1は,“短波の空間波電界強度,伝送損失”を担 務し,これまでに“短波電界強度の暫定計算法”及び“第 2暫定計算法”を作成してきている。また,IWP6/12 と協力し,短波放送の計画に関する無線主管庁会議のた めに,“簡易短波伝搬予測法”を作成している。
 今回の会合の目的は,発展途上国の経済事情を考慮し パソコンで簡易予測を行う方法をまとめあげ,事務局に 提出すること,また“第2暫定法”を改善するために電 測値データバンクDを整備することや“第2暫定法”の 内容の吟味であった。当所からは,データバンクDに寄 与するために“日本における短波電界強度測定”という 文書を提出し規格化について提案した。

(情報管理部 電波観測管理室長 栗城 功)



1986IEEEアンテナ・伝搬(AP)/
米国電波科学連合(URSI)合同
国際シンポジウムに出席して


 標記の研究集会は,昭和61年6月9日から13日まで米 国フィラデルフィアで開催された。今回はAPで30, URSIで29のセッションがもたれ,これに約800名が参 加して行われた。筆者は「航空・宇宙用アンテナ」のセ ッションで当所で考案したシーケンシャルアレーの航空 機用フェーズドアレーヘの応用について発表したが,特 にJPLのグループが興味をもったようでいろいろ質問 があった。この外,当所から大気圏伝搬関連で2件の論 文が出されていたが,これは共著者であり現在NASA のGSFC滞在中の中村健治主任研が発表した。最終日 には二つのショートコースと二つのワークショップが開 かれたが,どの会場も大盛況であった。
 いつも思うことだがこの会議は新鮮で強い刺激を受け るが,雰囲意は大変なごやかで専門家として人間関係を つくるのにとてもよい環境である。ファーストネームで 呼び合える仲間に再会するのは本当に嬉しいことである。

(通信技術部 通信装置研究室長 手代木 扶)






電波研究所に滞在して


Armand J. Levy

 この3か月間,電波研究所に滞在した事は,素敵 な思い出として,私の心に長く刻まれ続けるでしょ う。電波研の研究者の生活や,仕事についての私の 感想を述べる前に,私がお会いした研究者たちの, 幾多の親切と援助によって,今回の滞在が豊かで快 適なものになったという事を,記させて頂きます。
 研究所の生活は,以下に述べるいくつかの相違点 はあるものの,フランスも日本もかなり似ていると 感じました。まず第一点は,電波研の研究テーマは 私の研究所に比べて,実験と応用がかなり多く,理 論と基礎が少ないと思われることです。理論家の仕 事は,実験研究チームの中にいる者よりも弧独でな ければならず,日本の研究者は,フランスの研究者 よりもそれを好まないのだろうと私は考えます。
 また,電波研の各研究室は,単なる仕事の上だけ ではない,緊密な関係で結ばれたチームです。私が 時々,これらのセクションに加わる機会をもった時 に,私はそこで,尊敬すべき暖かな雰囲気と相互扶 助のエスプリを感じました。
 この様な仕事の関係は,研究活動の質の面に,極 めて効果的かつ有益に現われてきていると感じまし た。電波研の成果は数多く,幾多の先端技術と最高 のノウハウをもっています。
 一方,仕事の環境の面から見ますと,日仏の間に は,大きな違いが認められます。それは,労働時間 です。一人ならずも多くの電波研の研究者が,毎日 残業しており,また土曜日にも働いています。更に その上,CNETの研究者の半分にすぎない有給休 暇を,時々使い残します。この訳は多分,電波研が, フランスとは比べものにならない,心地良い設備を 備えているためでしょう。すなわち,お茶を飲んだ り,来客を迎えるためのサロン,ガスコンロ,料理 道具類,そしてテレビその他等々です。
 大変有益な討論を行った事はもちろん,昼休みの 野球や碁を興味をもってみたこと,休憩時の上等な お茶,そして私が共に参加した研究所での研究生活, と触れておきたいことがまだありますが,紙数も尽 きてしまいました。
 最後に,電波研及び日本での実りある生活のため に,私を助けて下さった全ての方々に感謝します。

(フランス地球惑星環境物理研究センター)
大内 智晴(総合通信部 放送技術研究室)訳



短 信



民間機関との共同研究の開始


 今年1月に郵政省電波研究所共同研究規程が制定(公 達第4号:官報1月18日付を参照)きれ,これまでの公的 機関を中心とした当所との共同研究の枠を広げ,民間機関 との共同研究の途を開いた。その後,所内の関係諸手続 き等を整備し,共同研究課題の選定及び研究や費用の分 担等について調整を行ってきた。このほど,アンリツ株 式会社と「小型高性能水素メーザ標準器の基礎技術に関 する研究」,「GPS利用簡易高精度測位システムの基礎 技術に関する研究」及び株式会社東芝と「将来の地域別 放送技術に関する研究」について話がまとまり,共同研 究契約書を締結した。水素メーザに関する共同研究は, 昨年10月に発足した基盤技術研究促進センターの斡旋に よるものである。この外,現在他の数社との共同研究に ついての調整も進んでおり,昭和61年度は,現在のとこ ろ,合計9件程度の件数となる見込みである。



OA化について五研会開催


 今年度前期の五研会(電波研究所,通産省電子技術総 合研究所,日本電信電話株式会社研究開発本部,日本放 送協会放送技術研究所,国際電信電話株式会社研究所) が,7月2日に会議の幹事機関となった電子技術総合研 究所(筑波)の会議室で行われた。
 会議には,五研究機関の所長,本部長等構成メンバー 14名が出席した。
 議題は,「研究所のOA化について」であり,五研究機 関が,種々の業務の遂行に当たり,その能率化を目指し て,電子計算機の導入とシステム化の問題,また,それ に連動させて様々のOA機器が使用されている現状につ いて話し合われ,今後の方策についての意見交換が行わ れた。
 会議終了後には,メンバー一同,同所の研究施設を見 学した。



衛星電波とMUレーダーによる電
離圏不規則構造の同時観測実験


 電離圏には,不規則構造と呼ばれる電子密度のゆらぎ がしばしば発生し,衛星電波にシンチレーションを引き 起こし,電波利用上問題になることがある。電磁波利用 研究室と電波媒質研究室では,京都大学超高層電波研究 センターの共同利用研究課題として,7月15日から18日 までの期間,電離圏不規則構造の性質をより一層解明す るために,衛星電波(東京・小金井,鹿児島・山川),M Uレーダ(滋賀・信楽)及びイオノゾンデ(信楽,小金井, 山川)による電離圏観測を実施した。不規則構造は衛星 電波のシンチレーションとイオノグラムのスプレッドF で検出し,その背景状態を知るために衛星電波による全 電子数測定,MUレーダによる電子密度,イオンドリフ ト速度などの測定を行った。観測データの解析はこれか らであるが,このような電離圏の総合観測は中緯度地域 ではまだあまり行われておらず,解明が最も遅れている 中緯度電離圏不規則構造の生成機構について重要な手が かりが得られることが期待される。



施設一般公開熱心に見学


 夏恒例の施設一般公開が,当所の創立記念日である8 月1日に,本所及び支所・観測所で一斉に行われた。
 当日は天候に恵まれ,空調を一斉にフル回転させても 効果がないほど,会場は熱気であふれ,老若男女を問わ ず熱心に見学していた。
  本所   :1,097名  観測所 稚内: 37名
  支所 鹿島: 423名      秋田: 33名
     平機: 156名      犬吠: 43名
                 山川: 160名
                 沖縄: 243名
        総数:2,192名