CRLニュース表紙、鹿島神宮の要石
▲写真「地震抑えの石」として有名な鹿島神宮の要石(かなめいし)

CRLニュース Communications Research Laboratory

郵政省 通信総合研究所
1994.11 No.224

冷たい心でも協調は可能か

―計算機による協調発現の論理―

伊藤 昭

我々は困っている人を見ると、自分にできることなら助けてあげたいという気持ちになるし、他人を犠牲にして自分だけが利益を得るような行動をすることはためらわれる。このような利他的,向社会的行動は、「道徳」、「倫理」などと呼ばれて、極めて人間的なものと思われがちだが、実は様々な生物が利他的行動をすることが知られている。どうも、このような性向は神様が人間に特別に授けてくださったものではなさそうである。

我々は、このような協調的な行動がなぜ広く見られるのか、その理由を調べてみたいと考えた。というのも、我々は人のような知的な振舞いのできる機械(計算機)の開発を目指しており、機械にも協調的行動を自発的にできるようにしたいのだが、そのためにはまず、そもそも人が協調的行動を自発的にとれるのは、心の中に「倫理観」のようなものがあるからなのか、それともある合理的、合目的的行動が何かのメカニズムにより協調的行動として発現するのかを知る必要があったからである。

囚人のジレンマゲーム

我々が取り上げたものは、「囚人のジレンマゲーム」と呼ばれる二人で行なうジャンケンのようなゲームである。ゲームの参加者は、C(協調)、またはD(裏切り)の手を出すことができ、その得点は表により与えられる。表には、お互いに協調を出すと3点,裏切りを出すと1点とあり、協調した方が有利なことは明らかである。ところが、片方が協調しようとして相手に裏切られると、裏切られた方は0点,逆に裏切った方は5点であり、裏切った方が有利である。さらに詳しく見ると、「相手がどのような手を出そうと、自分は協調を出すよりも裏切りを出す方が得点が多い」ということもわかる。

表1 囚人のジレンマ得点表
▲表1 囚人のジレンマ得点表

このようなゲームを次々と相手を替えながら行なわねばならない時、どのような戦略で望めば良いのだろうか。「裏切り」を出すのが最善のようにみえる。でも皆がそう考えると、協調すれば3点もらえるはずのところが、1点しかもらえないことになる。

実はこの問題は、Axelrodという社会学者が取り上げ、次のことを明らかにした。

  1. 「今後とも同じ相手と引き続き対戦する(反復囚人のジレンマ)」という予測があれば協調活動が出現する。
  2. 逆に「一回限りの対戦」であれば、双方の最善の戦略は「裏切り」であり、協調行動の出現は困難である。
  3. 反復囚人のジレンマゲームでは、前回の相手の手をそのまま出す「しっぺ返し戦略」が有効である。

これは、第一次世界大戦、欧州戦線での「殺しも殺されもしない(敵味方が、事前の相談もなしに、相手に被害を与えないようにして攻撃をやり合う)戦略」や、60年代の米ソの「冷戦」の安定性(平和維持機能)を説明する理論的根拠ともされたということである。

情報公開による社会的制裁

しかしながら、我々の社会を振り返ってみると、我々は常に同じ相手と繰り返し対戦を行なっている訳ではないし、また一回限りの対戦であれば、常に「裏切り」が行われるという訳でもない。例えば、「商売」を取り上げてみても、初めてのお客でも、店員はデタラメな商品を高い値段で売りつけるだろうか、確かにそのようなことが、全くないわけではないが、多くの店では初めてのお客にも、それなりに誠意を持って対応するのではないだろうか、実際の商社界では「商人は信用が第一」と言われるように、自己(店)の信用が大切にされており、自己(店)の信用を傷つけるようなことはしないものである。これは、情報の公開という社会的制裁機構がうまく働いているからだと考えられる。

とすれば、囚人のジレンマゲームでも、同じことが起こるのではなかろうか。つまり、次々と相手を替えて行く囚人のジレンマゲームにおいて、過去に誰と誰が対戦して、その時どのような手が出されたのかという情報を、全ての人に公表することにする。この様な状況下では、不用意に「裏切り」を出すと非協調的な人だと見做されてしまい、と言っていつも「協調」ばかりを出していると、悪い人にカモにされることになりかねない。

実はこれが、我々が取り上げて調べた問題である。細かいことを省くと、これまでの研究によりおおよそ次のようなことがわかった。

  1. 情報公開下では、不正行為は自己の信用を落とし、他人から排斥される結果をもたらす。
  2. Axelrodらの場合に有効であった単純な「しっぺ返し」戦略は、味方同士でのしっぺ返しの応酬を引き起こすため、もはや有効ではない。
  3. 相手が過去にどうしてそのような手を出したのかを推測し、協調できる相手とそうでないものとを区別し同士討ちを避けることで、不正を行う相手を駆逐することができる。
  4. 戦略としては、相手の行動を判断するのに自己を判断基準として用い,「自分が相手の立場ならどうするか」を考える自己再帰的なものが有効である。

協調戦略の社会的進化

確かに人間社会でも、これに近いつき合い戦略を使用しているようにも思える。しかしながら、これだけでは「裏切り」集団にはどのような戦略も勝てないことは事実だし(戦乱の下克上の社会では、一人だけがモラルを説いても役に立たない)、なぜ我々の社会では裏切りではなく、協調が優勢なのかを説明したことにはならない。

そこで、我々はさらに情報公開下で囚人のジレンマゲームを行なう系について、遺伝的アルゴリズムの手法を借りて系の社会進化をさせてみた。具体的には、ゲームの得点に応じて自分の子孫を残させること、また自分の子にゲームの戦略を伝達するときには、突然変異により少しだけ戦略が変化するようにしたのである。すると、最初単純な「しっぺ返し」戦略集団から出発した系は、突然変異による様々な戦略の発生、淘汰を繰り返し、時間の経過とともに、全体としては協調的、かつ非協調的な戦略に対しては十分戦闘的(不正な戦略に対抗する)戦略を持つ系へと進化していった。この過程で生成された様々な戦略の中には、自己再帰的なものも多く、中には我々が当初考えたものより優秀な戦略も多く含まれていた。

また、このような進化の過程で系は少しずつ強くなっていくのだが、発展は一本道に進むのではなく、協調的な戦略が優勢な平和の時代、引き続く無気力な戦略の増加の時代、やがては非協調的戦略の成長による戦乱の時代、さらに非協調的戦略の自滅と再び甦る平和の時代と、まるで人間社会の発展の歴史を見ているようであった。

図1は、このような自由進化の過程での人口変動を示したものである。大きく人口が落ち込んでいるところが戦乱の時代である。

図1 20,000時間の自由進化における人口変動
▲図1 20,000時間の自由進化における人口変動

また、図2には進化の途中の系を非協調的な「悪者」と対戦させて、その抵抗力を調べたものである。人口の落ち込みが小さいことが抵抗力の強さを表している。TFTとあるのが、出発点での「しっぺ返し」戦略のみの系(TFTでは「悪者」を駆逐できず、「絶滅」している)、S0,S1,S2はその進化途中の系である。また、REFとあるのは、我々が考えた自己再帰的な戦略のみの集団系である。進化により少しずつ系が強くなっているのが分かるであろう。

図2 進化途中の系の強さ比較
▲図2 進化途中の系の強さ比較(TFTからS2へと強くなっていく)

当然のことながら、系が一旦人口が零となる「絶滅」に至ってしまうと、二度と元に戻ることはできない。我々は初期条件をかえて多数のシミュレーションを行なったが、一定の割合で系は「絶滅」してしまった。確かに戦いの中で戦略は進化していくのであるが、それが高じて一旦絶滅の危機に至ってしまうと、もはや後戻りはできないという、極めて重要な「教訓」である。また、「悪い」戦略も含めて、多様な戦略が共存し、適度の緊張関係が持続するような社会環境が、効率的な進化には有効であったことなど、人間社会を考えてもなかなか示唆深いものがあるように思われる。

この様に、本研究は極めて人間的に見える「協調」の機構(の一面)を説明するものとして、純粋科学としても興味深いが、協調の機構が合理的に理解できることにより、自発的に協調できる機械やソフトウェアが実現可能になれば、巨大化・複雑化する機械システム、ネットワークをより柔軟に設計することが可能になる。実はこれこそが、我々が本研究で目指しているものなのである。

(関西支所 知識処理研究室)


太陽電池が貼り付いたアンテナ

田中 正人

「小型衛星の検討をしているんですが、一つ問題があってアンテナを搭載する場所がないんですよ。」小型衛星の研究を始めた当時の近藤喜美夫移動体通信研究室長からこんな話を聞いた。確かに当時検討していた小型衛星は、電力確保のための衛星の外表面全体に太陽電池が貼り付けられていて、ダイポールアンテナぐらいしか搭載できないようなものであった。そこで「指向性アンテナを取り付けたい」「太陽電池による発生電力を確保したい」という両方の要求を満足する一つの解決手段として「太陽電池付マイクロストリップアンテナ」を提案した。このアンテナはマイクロストリップアンテナの電波放射メカニズムに注目し、アンテナが持つ電波の送受信機能を損なわないようにして、アンテナの上に太陽電池を貼り付けてあるのが特徴である。このため、衛星外表面に装着しても太陽電池の面積を減らす必要がなく、十分な発生電力を確保できる。一般に、小型衛星は、総重量が50kgから数100kg程度で、開発期間が短く、低コストで製造できるため、経済的には多数打ち上げることが可能である。このことから、多数の小型周回衛星を用いてネットワークを組み、音声、メッセージ等の全世界的セルラー通信サービスを提供するなど、これまでの静止衛星通信システムにはなかった新たな衛星通信システムが検討されており、これらの小型衛星用アンテナとして、この太陽電池付マイクロストリップアンテナが期待されている。

図1にこのアンテナを貼り付けた小型衛星の例を示す。このアンテナを衛星外表面に多数貼り付け、アレーアンテナとして動作させれば指向性アンテナとして働く。また、通常の衛星に搭載しているパラボラアンテナのように衛星本体から突き出した部分が無く、ロケットへの搭載収納性が良いし、打ち上げ後の宇宙空間で駆動装置を使って展開する必要も無く、衛星の設計や組立が楽になるという特徴がある。

図1 太陽電池付マイクロストリップアンテナを取り付けた小型衛星の例
▲図1 太陽電池付マイクロストリップアンテナを取り付けた小型衛星の例

マイクロストリップアンテナは、厚みが波長に比べて十分に薄い誘電体基板上に、エッチングにより形成される円形、長方形等の導体板(アンテナパッチ)を放射素子とするアンテナである。マイクロストリップアンテナの電波放射に寄与するのはアンテナパッチの端部の漏れ電界である。漏れ電界の生じる領域は基板の厚さのオーダー程度の狭い領域であり、この部分を除いたアンテナ表面上に太陽電池を貼り付けてもアンテナの電波放射を損なうことはない。マイクロストリップアンテナでは、漏れ電界が零の部分があり、そこにアンテナパッチの上の太陽電池と基板上の太陽電池を接続するリード線を通すことで漏れ電界を乱さなくすることができる。一般に太陽電池の裏面には導電性の電極面が備えられているので、アンテナパッチの上の太陽電池とアンテナパッチは絶縁状態にある。

試作したアンテナは、厚さが1.6mmのテフロン基板の中央に長方形のアンテナパッチが付いており、アンテナパッチや基板の上に大きさが約1cmの太陽電池が貼り付けてある(写真参照)。アンテナパッチと太陽電池はカプトン(厚さ50μmで耐熱性、電気的特性に優れたフィルム)により絶縁されている。試作したアンテナを太陽電池を貼り付けていないマイクロストリップアンテナの特性と比較したところ、太陽電池を貼り付けたことによるアンテナの電波放射に影響がなかった。また、アンテナの電波放射が太陽電池の電力発生にも支障をきたさないことが分かった。

写真 太陽電池付マイクロストリップアンテナ
▲写真 太陽電池付マイクロストリップアンテナ

ここで提案したアンテナは小型衛星のみならず、通信衛星CS-3のようにスピンするドラム上に太陽電池が張り付けてある通常のスピン衛星用としても有効である。また、衛星間電力伝送用アンテナや月基地用アンテナとしても利用できる可能性がある。

地上用のものとしては、電気のない山奥や僻地にこのアンテナと充電器を備えた非常用電話や道路標識を設置し、衛星を介して通信やコントロールを行うシステムも考えられる(図2)。

図2 太陽電池付きマイクロストリップアンテナを用いた非常用電話システム
▲図2 太陽電池付きマイクロストリップアンテナを用いた非常用電話システム

このように太陽電池付マイクロストリップアンテナは宇宙用や地上用として様々な用途があると思われる。

(電磁波技術部 通信デバイス研究室)


時空の曲がりから見えてくるもの

細川 瑞彦

以前(CRLニュース1991.5)時空の曲がりとは何かということと、それを検出することでこれまで見ることができなかった時空の素顔を見られるようになるのではないか、という期待をお話しした。その期待がすこしずつ実現しつつあることを今回は報告する。

1.時間の進み遅れと時刻静止軌道

時間とは何か、というたいへん深遠そうな話になる。哲学的な議論はおいておくにしても何か基準を決めないと実際上の話は始められない。現在、われわれ地球人類が採用している時間の基準は、おおよそ次のようなものである。

太陽が止まっているような空間座標の上で、地球表面に置かれた原子時計が刻む時間を基準として、宇宙全体に「座標時」と呼ばれる時間の基準を設ける。

この基準、現在たとえばCRLで維持している原子時計は一年間に三十万分の一秒の狂いも出さないという高精度のものである。この座標時と比べて、時空の曲がりが物体の運動、その物体に固有の時間の進み方に与える影響は次のようにまとめられる。

これらの性質のため、基準となっている地球表面での時間は地球という巨大質量の影響によって、地球が存在しない場合よりも時間の進み方はゆっくりになっている。その割合は一年間に百分の二秒というごくわずかなものであるが、これと比べて地表近くを周回する低軌道衛星は、ほぼ同じ地球重力の影響を受けつつ地表面よりずっと速く運動しているため、時間の進み方は地表よりさらにゆっくりになっている。ところが、より高い軌道を周る人工衛星では、受ける重力は小さくなり、速度もどんどん遅くなっていく。このために高軌道の人工衛星ほど、そこで時間の進み方は逆に早くなっていく。

では、どこかで地表面と時の進み方がぴったり一致する軌道はあるのだろうか。

このように考えて探したところ、地球半径の半分、3200kmの高度をめぐる人工衛星がその条件を満たしていることがわかった。

地上3600kmの高度で赤道上を周回する人工衛星は、周期が24時間となって地表の自転速度と一致しており、地表にすむ我々からは上空の一定位置に静止しているように見える。このためにこの軌道は静止軌道、その軌道に打ち上げられた衛星は静止衛星と呼ばれているが、これはより正確にいうならば位置静止衛星と呼ぶべきものである。これに対して新たに発見したこの軌道を、我々は時刻静止軌道と名付けた。現在の静止衛星は速度と重力がつりあってきていれば、赤道上である必要もなく、さらに地球を周る必要もない。そこで他の天体を周る軌道もあてはめてみたところ、太陽を周る軌道と木星を周る軌道で、時刻静止の条件を満たすものを見つけることが出来た。合わせて三つの時刻静止軌道が、太陽系内に存在することになる(表1参照)。

これが何の役に立つか? と聞かれると困るところもあるが、一年に百分の一秒の変化が重大になるような宇宙通信技術が開発されれば使い道が出てこよう。そうなれば時刻静止衛星が打ち上げられる日もくるのではないだろうか。

表1 太陽系内の様々な時刻静止軌道
▲表1 太陽系内の様々な時刻静止軌道

2.時空のゆがみと星の質量

次に我々は重力レンズ効果に取り組んだ。重力レンズというのは言葉通り、天体の重力によって光や電波が曲げられる効果である。時間の次は空間、というわけではないが、空間、特に角度の測定精度は現在、一万分の一秒角のレベルに達しており、さらに十万分の一秒角の精度を達成するための計画が着々と進行中である。この精度を活用すれば何か新しいものが見えてくるのではないか、というのが最初の期待であった。

はるか遠くにある星の質量を測ることはたいへん難しい。これまでは連星系についてのみ、その軌道と周期を測ることから求めているが、単独星は原理的に不可能とされてきた。

重力レンズ効果の源は星の質量である。遠方の星(信号源)からの光が手前にある星(レンズ源)のそばを通るとその光路を曲げられ、われわれが見るときにはその位置は真の位置からずれる。このずれが検出できればその星の質量を求めることができる。しかしながらこの角度は極めて小さい。実は1936年、アインシュタイン自身この効果を計算して、当時の観測技術ではこの角度の小ささに、この方法は実際上不可能と結論したことを、われわれは後に知った。ところが近年の天体位置測定精度の向上は先に述べたようにめざしている測定精度と、近くの星と遠くの基準星との組は、ここで述べた重力レンズ効果で求める条件とほとんど同じで、重力レンズ効果による周期だけが異なる。このため、このふたつの現象の検出は観測の上で両立する(ひとつの装置で両方とれる)可能性が大きいことを付記しておく。

重力レンズ効果による像は、レンズ源から離角方向には押しつぶされ、円周方向には引き伸ばされるという特徴がある。この特徴を活用し、必要な精度で適切な近似を行った後に、レンズ源の星の質量Mと距離Dについて次のような公式を得た。

重力レンズの質量Mと距離Dの公式

ここでθはレンズと信号源のもともとの離角であり、x,yはレンズ源に垂直な面で地球の動き、Δθx,Δθyはそれによって生じたレンズ源と信号源の重力レンズを通した見かけの変化量である。これらいずれも測定可能な量のみから、レンズ源の星の質量と距離が異なることを明らかにできた。百光年程度の距離にあるレンズ源に対し、その一秒角以内に信号源が見つかれば、地球の公転による見かけの角度変化のゆがみは一万分の一秒角から十万分の一秒角程度と期待される。まさに現在、重力レンズ効果によって星の質量を測ることが可能になりつつあることになる。

近くの星の位置は、その系に惑星があればふらつく。これを光干渉系によって検出し、他の星の惑星を発見しようとする計画がアメリカで進められている。興味深いことにこの計画で求められ、目指している測定精度は、近くの星と遠くの基準星との組はここで述べた重力レンズ効果で求める条件とほとんど同じであり、重力レンズ効果による周期だけが異なる。このため、このふたつの現象の検出は観測の上で両立する(ひとつの装置で両方とれる)可能性が大きいことを付記しておく。

3.結び

このように、時空に関する興味深い現象をひとつ発見し、さらにその曲がりを検出することから今まで見ることができなかったものを見ることができる、という具体的な例を実際にひとつ示すことができた。

時空を曲げる物質には、星やブラックホール以外に最近ではMACHOと呼ばれる銀河の暗黒物質が話題となっている。また、宇宙一正確な時計かもしれないといわれているパルサーからの信号が、伝わってくる途中の時空のゆがみによってどのような影響をうけるか、ということも興味深く、かつ時間標準の高精度かという当所の業務に重大な意味を持つ問題である。今後さらにこれらの様々な可能性を調べていくとともに、CRLの時刻計測技術と連携して時空の曲がりから有意義な情報を測定していけるよう、研究をすすめていきたいと思う。

(標準計測部 時刻計測研究室)


首都圏直下型地震の予知に向けて

【要石(かなめいし)】計画スタート

栗原 則幸

・巨大地震と首都圏

昨年の南西沖地震、本年10月の東方沖地震と北海道は2年続けて巨大地震に見舞われ、大きな被害を受けました。地震発生直後からテレビやラジオを通じて繰り返された大火災や津波の警戒、被災地からのレポートなどは巨大地震の怖さを改めて認識させるものでした。

一方、「東京」を中心とする首都圏に目を転じてみましょう。首都圏は、日本で最も人口が集中した政治経済情報の中心地です。この首都圏は1923年の関東大震災以降約70年間、大きな地震被害に見舞われていません。しかし、首都圏の地中で複雑に交わるプレートの動きにより蓄積した地殻の歪は、地殻破壊が前の崩壊に近づいていると指摘する地震学者もいます。首都圏の地中内部で発生する地震規模直下型地震の正体なものが、私達が恐れる首都圏直下型地震の正体なものです。

・VLBIと【要石】

通信総合研究所は、プレート運動の実測や南極大陸との距離測定などVLBI(超長基線電波干渉法)の先駆者として数多くの実績を伸ばしています。

当初のVLBIグループは、装置開発・観測・データ処理・理論解析など、それぞれが効率よく連携できる世界でも例のない専門家集団でした。このグループを中心として、地震予知を目指した地震変動観測プロジェクトを平成5年度にスタートさせました。このプロジェクトは、鹿島神宮境内に新設した【要石(かなめいし)】にちなみ、Key Stone Project(略称KSP)と名付けました。江戸時代の庶民は、地震を引き起こす大ナマズを鎮める「地震抑えの石」として信仰した歴史書は語っています。

・【要石】計画とは

当所が推進する現代版【要石】計画(KSP)は、天体電波源を使ってミリメートルの精度で距離を測定するVLBIとレーザー光線を利用したSLR(人工衛星レーザー測距システム)とを併設したハイテクシステムです。首都東京を囲む関東地方4箇所(本所、鹿島、三浦半島、房総半島)に観測局を配備し、巨大地震の前兆現象として発生する地殻変動を連日高精度に観測します。この計画では、首都圏直下で発生するマグニチュード7クラス以上の直下型地震の前兆現象をキャッチすることを目的としています。

写真1 鹿島VLBI観測局11mパラボラアンテナ
▲写真1 首都圏広域地殻変動観測プロジェクト用に新設した鹿島VLBI観測局11mパラボラアンテナ

・KSP観測局整備

KSP専用のVLBIシステム設計にあたっては、「高度な技術」と「高い信頼性」を追求し、無人観測の実現、データ処理の自動化などに工夫しました。平成5年度には、本所及び鹿島宇宙通信センターに直径11mのパラボラアンテナを持つVLBI観測局を新設しました。

平成6年度は、第3番目の初VLBI観測局(三浦半島:神奈川県三浦市)新設や、KSP用VLBIソフトウェアの開発を行います。

・KSP稼働開始

KSP稼働は、ほぼ計画通り進行しています。パラボラアンテナやVLBI観測機器の調整作業も平成6年6月に一段落しました。7月には、鹿島−小金井局間でVLBI試験観測を行い、KSPで初めてフリンジ(電波の干渉縞、相関の有無や観測機器の機能が確認できる)を得ました。この試験観測結果は、マスコミで大々的に報道され、地震予知に対する社会的関心の高さをあらためて知らされました。8月末には、24時間実験を行い、鹿島−小金井間の基線長を決定し、また、VLBI局の全ての機器の安定性や観測精度達成への見込みを得ることができました。

現在、初VLBI観測局の整備を進めるとともに観測機器の自動制御や初期データの取得、鹿島−小金井基線でのVLBI実験を繰り返しながらKSP定常観測に向けて準備を進めています。

(鹿島宇宙通信センター 宇宙電波応用研究室)


短信

電波研親睦会開催

第23回電波研親睦会は、去る10月28日(金)に当所において、OB、現役130名余の参加により盛大に開催された。

総会は、吉村会長の挨拶ではじまり、OHPを用いて「CRLの現況」の紹介が行われた。

その後、副会長の選任、役員氏名、経過報告が行われ、副会長に新しく横山尚史を選任し、総会は滞りなく終わった。

その後、改装なった正面玄関前で記念撮影を行い、引き続き、新築された研究交流センターで恒例の懇親会が、河野晋夫元次長の乾杯で始まった。

懇親会は、18回参加の会田一夫、吉田典昭両氏に精勤賞が授与され、副会長として記念盆栽が贈呈された。続いて、上田弘之元局長から長平太郎氏直筆の色紙及び後藤三男氏から当所に対し書籍が寄贈され紹介された。

懇親会は、新装の研究交流センターで、前回とは少々雰囲気も変わり、お酒を酌み交わしながらあちらこちらに輪が出来、思い出話や楽しい談笑で盛り上がり、和やかに繰り広げられた。

また、今回の施設見学では、ミリ波実験センターを御案内し、好評であった。

(総務部庶務課長補佐)

写真 電波研親睦会での懇親会の様子
▲写真 電波研親睦会での懇親会の様子

けいはんなテレコムフェア参加記

去る10月3日から8日まで、けいはんな学研都市で開催されたけいはんなテレコムフェアに参加した。

本年7月から同地区では郵政省が推進する新世代通信網プロジェクト実験が開始され、また9月19日から京都ではITU全権会議が開催されており、この時期に我が国の先端通信技術の祭典、という企画である。

メイン会場のけいはんなプラザでは各種セミナー、情報通信機器展が行われ、情報通信機器展には当所もCRL紹介ビデオ、ETS-VIモデル、宇宙通信関連の紹介パネルを展示した。サンプルを配るわけでもなく、派手なコンパニオンもいない当所のブースは他の企業に比べて地味な存在であった。また、当所の精緻通信実験センターを始め、一般の方々を始め、ITU総会に出席中の各国代表の方々にも高速衛星通信実験施設を紹介することができた。CRLブース来場者や見学者からはETS-VIの静止化断念後の状況や高速衛星通信の必要性などに興味が寄せられていたようである。今回の参加によって、多少なりとも当所の研究活動の宣伝になったのではないかと考えている。

(宇宙通信部衛星通信研究室主任研究官 戸塚直人

外国人招聘研究者交流会が開催された

当所では、所外の研究者及び研修生に広く門戸を開き、特に外国人研究者については各種招聘制度を活用し、その受入を積極的に行っている。外国人招聘研究者と当所との意見交換を目的とした交流会を10月27日に開催した。現在17名の外国人招聘研究者が当所に滞在しているが、本交流会に新たに加わった9名(中国、タイ、韓国、米国、カナダ、エジプト、イギリス)が出席し、研究生活や日常生活に関し率直に話し合いがもたれた。当所の研究プロジェクトの進行状況に関する質問、限られた研究生活でいかに研究に従事するかの提言、その他多くの報告、意見が出された。これらは研究生等の改善に参考予定する。

これに先立ち所内見学会を実施したが、これは前回の意見を反映し、来所1年未満の外国人招聘研究者が当所を理解するのに役に立ったと期待している。

交流会終了後の懇親会は、流暢な日本語を交えた会話や同伴家族の楽しく遊ぶ様がなごやかな雰囲気のもとに親睦が深まり、盛り上がった。

(企画部国際研究交流室)

写真 外国人招聘研究者との交流会の様子
▲写真 外国人招聘研究者との交流会の様子

当所サッカー部テレコムリーグサッカー大会で優勝

去る11月12,13日に千葉県酒々井運動公園において第1回テレコムリーグサッカー大会が行われた。

今大会に出場したチームは、CRL(当所)、DDI、IDO、JT(日本テレコム)、KDD、TTM(東京テレメッセージ)、TDP(東京デジタルホン)の7チームで熱戦が繰り広げられた。我がCRLサッカー部も順調に勝ち進み決勝戦まで進みました。

決勝戦ではJTと対戦し、前半押され気味で得点を許したものの、後半終了間際で同点に追いつき、そのままPK戦にもつれ込み、最後はPK戦に制し、記念すべき第1回大会を見事優勝する事ができました。

これからもこのような大会がいくつかあると思いますので、そのときは応援をよろしくお願いします。

(CRLサッカー部長 伊藤 和義)

写真 ドリブル突破をはかる小室選手
▲写真 ドリブル突破をはかる小室選手(右から2番目)

外部発表

誌上発表

神経科学レビュー(医学書院)(1993年12月1日)
眼球運動系の神経回路モデル
……藤田 昌彦
Japanese Journal of Applied Physics(1993年12月1日)
The Power Increase and Absolute Frequency-Stabilization of an Optically-Pumped Far Infrared Laser
……T. Hori,廣本 宣久
Journal of Physics B(1993年12月1日)
Rosenthal oscillations observed on the emission cross sections and the polarization degrees of Ne(2p⁵3p) levels in He⁺-Ne
……谷 正彦,見田 耕二,岡部 潤二
Applied Physics B(1993年12月1日)
Laser Cooling of a Single Ca⁺ Ion : Observation of Quantum Jumps
……宇都 和弘,渡邊 昌良,今城 秀司,大向 隼夫,林 眞三雄
日本測地学会誌(Journal of the Geodetic Society of Japan)(1993年12月1日)
First VLBI Observations between Weilheim, Kashima and Nobeyama
……原 忠典,亀谷 収,河野 宣之,久慈 清助,笹尾 哲夫,後藤 忠広,川口 則幸,F. Glasik,W. Kohnlein,Ch. Lehner,H. Wenderoth,K. Wiedermann,安部 明,菅原 寛 他
American Geophysical Union Monograph(1993年12月1日)
Contributions and Activities of Communications Research Laboratory under the cooperation with Crustal Dynamics Project
……高橋 冨士信,今江 理人,林 茂幸,遠藤 哲也,黒岩 博司,栗原 則幸,金子 明弘,加藤 茂,藤下 光身 他
Space Communications
Conceptual Study of Advanced Asia-Pacific Telecommunications Satellite for Future Gigabit Transmission
……梅本 尚志,J.N. Pelton
電気学会論文誌C(1993年12月1日)
InGaAs-PINホトダイオードを用いた電気弾性型微弱発振システム
……本木 巌,益子 信郎,鈴木 将治
電子情報通信学会英文論文誌(1993年12月1日)
Effect of Dimension of Conducting Box on Radiation Pattern of a Monopole Antenna for Portable Telephone
……山口 昌,唐沢 好男,唐沢 義之,安達 三郎
SIMPO Newsletter(1993年12月1日)
Finite volume TVD scheme for shock MHD simulation
IEICE Transactions on Communications(1993年12月1日)
Effects of Integration Time on Rain Attenuation Statistics at 20GHz
……田中 高史
Meteoroids and their parent bodies(1993年12月1日)
Orbital evolution of the 1987 quadrantids
……大塚 勝之,吉川 真,渡辺 潤一
書籍『マイクロ波・ミリ波用アンテナと周辺技術』(1993年12月1日)
マイクロ波・ミリ波用アンテナと周辺技術 第3章 計測技術
……今江 理人
マイクロ波センシング技術(1993年12月1日)
ミリ波センシング技術
……井原 俊夫
電子情報通信学会 書評欄(1993年12月1日)
書評『画像深層培う』松井甲子雄
……福地 一
ESA Journal(1993年12月1日)
Results of an ERS-1 C-band SAR calibration experiment in Japan
……藤田 謙二,浜津 享助,鎌田 啓,花土 弘
日経ニューメディア別冊(モービル・コンピューティング)(1993年12月1日)
マイクロ波帯移動通信(5章・将来の通信インフラのための技術課題の一つ)
……菅野 秀一
月・惑星ジャーナル(1993年12月1日)
小惑星の地球衝突と危機回避―惑星探査の視点から―
……吉川 真
Astrophysical Journal(1993年12月20日)
Molecular cloud core and CS outflow associated with the HARO4-255 FIR
……梅本 智子,村田 泰宏,Hua Chen,平野 直美,高羽 浩
天文月報(1993年12月20日)
パソコンでできる天体軌道運動の3次元シミュレーション
……吉川 真,木村 和宏
日本惑星科学会誌『遊・星・人』(1993年12月25日)
シューメイカー・レビー第9番彗星の軌道運動
……吉川 真

口頭発表

Conference on Global Telecommunications(USA・ヒューストン)(1993年12月1日)
Active Array Antenna with Ceramic Substrate for TDM/TDMA Mobile Satellite Communications
……三浦 龍,鈴木 龍太郎,浜本 直和,松本 泉
日本リモートセンシング学会第15回学術講演会(1993年12月2日)
能動型反射板を用いたESA ERS-1合成開口画像の改善
……花土 弘,堀坂 宏昭,佐藤 健治,落合 啓,田中 哲
日本リモートセンシング学会第15回学術講演会(通産省工業技術院)(1993年12月2日)
南極氷縞ミリ波測深レーダー
……岡本 謙一,熊谷 博,中村 健治
日本リモートセンシング学会第15回学術講演会(通産省工業技術院)(1993年12月2日)
可視外及びSAR画像を用いた南極氷床の研究
……高橋 晃,長幸 平,下田 陽久,坂田 俊治,西尾 文彦
国立遺伝学研究所集会(三島市)(1993年12月3日)
染色体構造のダイナミクス
……荻田 徳行
日本リモートセンシング学会第15回学術講演会(1993年12月3日)
航空機搭載映像レーダによる海洋油汚染検知
……堀江 宏昭,中村 健治,岡本 謙一
地球衝突小惑星フォーラム(工学院大学)(1993年12月5日)
地球に接近する小惑星の軌道計算
……吉川 真
第172回小委員会(海上保安庁水路部)(1993年12月6日)
電話回線による時刻情報の供給
……佐藤 得司,相原 政則,後藤 忠広,森川 容雄,若尾 正義,塚原 昌彦
NOLTA'93(SHERATON WAIKIKI HOTEL, HAWAII)(1993年12月6日)
Restoration of Degraded Binary MRF Images Using the BP (以下、原本ページ末で切れている)

編集後記

所内の雑木林も段々と落葉し、日常生活も慌ただしくなってきて、こんな中で自然の光景を目にすると季節の変化が感じられます。

恒例となっている当所研究発表会(第87回)が去る11月30日に当所の4号館大会議室において開催されました。当日、私は調整室という部屋に入って発表者のサポート的な仕事に従事していました。そんな中で発表会は好評の中で終わりました。

さて、当所の稚内電波観測所からの報告です。11月15日朝、真冬並みの寒気団に追われてマイナス8.4度となり、札幌市内で雪が降り今冬初めて除雪車が出動したとのことです。この厳冬の中で毎日観測を続けている稚内電波観測所の方々にご苦労様の一言を送ります。

―E―

― 12 ― CRLニュース 1994.11 No.224 郵政省 通信総合研究所