HTML5 Webook
15/72

イバーでは伝送距離50 kmで約1 Mbps、東京圏の実際の敷設環境での商用ファイバー(平均光損失率0.5dB/km程度)では伝送距離50 kmで数100 kbpsである。一方、近年、中国では中国科学技術大学が主導する国家プロジェクトが北京市、済南市、合肥市、上海市にそれぞれ50ノード規模の都市圏QKDネットワークを構築し、さらにそれらを計32個の中継ノードでリレーにより結ぶ総延長2,000 kmのQKDパックボーンを構築し、国家スケールの超高秘匿通信インフラを完成させつつある[21]。またアメリカでは、バテル(Battelle)社がスイスのベンチャー企業id Quantique社と共同で700 kmに及ぶ都市間QKDネットワークを構築し、非営利団体にオープンテストベッドとして開放する計画を発表している[22]。このようにQKD技術は、都市圏や都市間スケールの実環境で試験運用される段階に達している。今後、実環境でのQKDプラットフォームの運用実績と安全性評価に関する知見を蓄積しながら、超高秘匿通信インフラとしての実用性を高めてゆく必要がある。本稿ではQKDの簡単な説明と、NICTが中心となって開発を進めているQKDネットワークアーキテクチャを紹介する。QKDの動作原理2.1 QKDプロトコルと原理QKDでは、送信者は乱数列のビット情報0、1を適切な量子信号に符号化して送り、受信者は適切な測定法を用いて量子信号を受信する。量子信号は、少なくとも2つ以上の非直交状態を含んでいなければならない。以下、本稿では、代表的なQKDプロトコルであるBB84を例にとって説明する。プロトコルの概要を図1に示す。暗号分野においては、慣習的に、正規の送信者をAlice(アリス)、受信者をBob(ボブ)、盗聴者をEve(イブ)と呼ぶ。以下では、この慣習に従う。また、量子信号として単一光子の偏光状態を用いる場合を例にとってBB84プロトコルの概要を説明する。BB84プロトコルでは、2種類の偏光状態のセット、つまり、水平、垂直偏光のZ基底{¦H⟩, ¦V⟩}、右斜、左斜偏光のX基底{¦45°⟩, ¦−45°⟩}を用意する。{¦H⟩, ¦V⟩}は{¦Z0⟩, ¦Z1⟩}と、{¦45°⟩, ¦−45°⟩}は{¦X0⟩ , ¦X1⟩}と表記してプロトコルの記述を行う。送信者(アリス)は、乱数表の各ビット情報0、1を光子に符号化する際、Z基底、X基底の中からどちらか1つをランダムに選択して、0、1をそれぞれ対応する偏光状態へ符号化する。したがって、送信する量子信号は、{¦Z0⟩ , ¦Z1⟩, ¦X0⟩, ¦X1⟩}の4つの成分からなる。それぞれの基底内での状態ベクトルは互いに直交するが、Z、Xの基底間での状態ベクトルは非直交状態となる。実際、その内積は100012ZXZX (1)110112ZXZX (2)2図1 偏光を用いた場合のBB84 プロトコルの概要(送受信者間でのビット情報や基底情報の対応表)送信乱数1 0 1 1 0 0 1 1 0 0 1 1 1 0送信基底送信信号測定基底検出信号検出ビット1 1 0 0 1 0 0 1 0テストビット1 0 1 0 1 0送信者Alice受信者Bob双方でチェック送受信者の基底が一致するスロットのみを選択(ふるい鍵)誤り率を評価鍵蒸留処理安全な乱数列を生成1101…113-1 量子鍵配送ネットワーク研究開発の現状

元のページ  ../index.html#15

このブックを見る