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となる。図2に送受信者間でのビット情報や基底情報の対応表の簡単な例を示す。受信者(ボブ)は、Z基底、X基底の中からどちらか1つを(送信者とは独立に)ランダムに選択し、光子を測定する。量子通信路内での光損失のため、光子が検出されない時間スロットも出てくる。なお、量子通信路内では雑音も存在し、送信状態とは異なる状態で検出される場合もあるが、図1中では、そのような場合は省略している。この量子信号の伝送後に、アリスとボブはビット情報が0だったか1だったかは伏せておき、実際に用いた基底がZだったかXだったか(基底情報)のみを、公開通信路を介して交換し合い、アリスとボブの基底が一致するスロットのみを選択する(基底照合)。これによって残るビット列のことをふるい鍵という。次に、ふるい鍵の一部をテストビットして抜き出してアリスとボブの間で突合せ、ビット誤り率を評価する。もし、量子通信路への盗聴があれば、それはビット誤り率の上昇となって現れる。それは、イブがどんなに盗聴法を工夫して量子通信路を流れる非直交状態の系列をコピーし、情報を得ようとしても、非識別性定理やコピー不可能定理のために、ボブへ再送した系列には必ず誤りが生じてしまうためである。アリスとボブは、それをふるい鍵からランダムに選んだテストビットを突き合わせることによって盗聴を見抜く仕組みとなっている。実際にはイブが居なかったとしても、量子通信路に雑音がある場合には、やはりビット誤り率が高くなるが、これがイブによるものか雑音によるものか区別する方法は無いので、量子通信路の雑音はすべてイブによる効果であると考える。アリスとボブはテストビットのビット誤り率の結果を基に盗聴可能性の有無を判定し、盗聴可能性が無いと判断した場合、さらに、ビット誤り率の値に応じた適切な鍵蒸留処理を行うことにより、最終的に安全な乱数列を抽出して暗号鍵とする。2.2 QKDリンクの構成QKDリンクは、光子を介して乱数のデータを共有するための『量子通信ブロック』、共有した乱数データから安全な暗号鍵を取り出す『鍵蒸留ブロック』及びこれらを制御する『制御ブロック』からなる。制御ブロックは、量子通信ブロックと鍵蒸留ブロックに乱数列を供給するとともに、量子通信ブロックに同期信号を供給して時刻同期をとる。その大まかなシステム構成を図2に示す。同期信号は、物理的にはアリスが量子信号とうまく多重化してから量子通信路内を経由してボブに送る場合が多い。以下に、量子通信ブロックと鍵蒸留ブロックの詳細について説明する。・量子通信ブロック量子通信ブロックは、光源、エンコーダ、量子通信路、デコーダ、光子検出器からなり、同期信号を介して時刻同期しながら量子信号の伝送を行う。光源としては、単一光子源ではなくレーザ光源を使うことが多い。実際、レーザ光パルスでも、以下で述図2 QKDリンクのブロック構成図光源送信機受信機同期信号時刻同期系時刻同期系検出信号ビット列制御ブロック光子検出器デコーダエンコーダ量子信号量子通信路量子通信ブロック鍵蒸留装置鍵蒸留装置公開通信路・基底情報・テストビット・誤り訂正のシンドローム暗号鍵暗号鍵鍵蒸留ブロック乱数源A乱数源B乱数列(基底情報)乱数列(ビット情報)乱数列(基底情報)12   情報通信研究機構研究報告 Vol. 63 No. 1 (2017)3 量子光ネットワーク技術

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