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べるような制御を行うことで長距離のQKDを実現できる。まず、送信側での制御として、以下の4つの処置を施す。(i)微弱レーザ光:レーザ光を減衰させ、パルスあたり2光子以上含まれる確率が充分小さい微弱なパルスにしてから通信路に入れる。(ii)位相乱雑化:各ビットの状態間に位相相関が生じないよう光源あるいは変調器を制御する。(iii)デコイ法(Decoy method):どうしても消しきれない複数光子成分による伝送性能の劣化を防ぐため、鍵生成に使う信号パルスの他にそれとは異なるレーザ光強度のパルス(おとりパルス、あるいはデコイパルス)をランダムに入れ込む。(iv)タイムビン信号(Time-bin signal): 2つのパルスのペア(タイムビン)[23]を生成し、そのペアにビット情報と基底情報を符号化する。(i)は単一光子を主成分とする状態を作るための要件である。(ii)、(iii)は伝送性能を伸ばすための要件である。(iv)は、量子通信路が光ファイバーの場合に考慮すべき要件である。タイムビン信号は偏光信号よりも光ファイバー内で起こる擾乱の影響をより効果的に抑制することができる。実際、2つのパルスがほほ同じ擾乱を受けるため、受信側で2つのパルスをうまく干渉させてから光子検出することで、擾乱の影響を消し去ることができる。以下、これらの点について実際のエンコーダの装置構成の例(図3)に基づいて説明する。レーザ光を減衰させるのはエンコーダから出射する直前に減衰器を用いて行う。したがって、要件(i)「微弱レーザ光」はエンコーダ内で最後に行われる。それまでは十分な強度を持ったレーザ光(古典信号)のまま符号化を行う。レーザ光は位相の揃ったコヒーレント状態であるが、BB84プロトコルの伝送性能を上げるためには異なる入力パルス間の位相には相関が存在してはならない(要件(ii)「位相乱雑化」)。もし、パルス間に位相相関があると、イブはパルス列から位相を推定しデコイ法の効果を打ち消すような量子測定を行うことができるため安全性が劣化する。典型的な高速QKD装置の実装例では、1.244 GHzの繰り返しレートでこのような位相相関の無いレーザ光パルスを生成する。時間幅は50 ピコ秒(5 × 10−12 秒, 50 ps)程度である。レーザ光パルスは800 psの間隔でエンコーダに次々に入力される。これらのパルス系列を¦α1⟩、¦α2⟩、¦α3⟩、···、ここで振幅がα1 = ¦α¦eiθ1、α2 = ¦α¦eiθ2、α3 = ¦α¦eiθ3、···とすると、位相θ1、θ2、θ3、···が互いに相関なくランダムに変化していなくてはならない。ここでは、ある位相のレーザ光パルスがエンコーダに入力されたとして、それがどのようにビット情報と基底情報を符号化され要件(iv)を満たす「タイムビン信号」として出力されるかを説明する。レーザ光パルスは、いったん分岐し長さの異なる2つの光路を通過させてから合波する(非対称干渉計を通過させる)ことにより、時間にして400 psの遅延を持つパルスペアに変換される。このパルスペアは¦α⟩F ⊗¦α⟩Sと記述される。ここで、添え字F、Sは、時間的に前にある第1パルス(First)、後ろにある第2パルス(Second)というパルス位置モードを表す添え字である。その後、パルスペアは2つの電極を持った2重駆動型の光変調器に入力される。そして、図2図3 BB84プロトコルを光ファイバー伝送用途で実際に装置実装する際に使われるエンコーダの構成とタイムビン信号の概要φ1φ2エンコーダ非対称干渉計光ファイバー光源減衰器Z0Z1Y0Y150ps 400ps 変調器乱数発生器乱数発生器変調器・ビット情報・基底情報デコイ情報位相乱雑化パルスペアタイムビン信号信号強度: 0.5光子/タイムビンデコイ強度: 0.2光子/タイムビン0.0光子/タイムビン第1パルスF第2パルスSsasaki-fig_time-bin-encoder_X_Y_waveforms133-1 量子鍵配送ネットワーク研究開発の現状

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