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2.2ワイヤタップ通信路符号化前節で述べた通信路符号化とは異なり、ワイヤタップ通信路符号化では図1のように、アリスとボブが主通信路を通して行っている通信を、盗聴者(イブ)が盗聴者通信路を用いて盗聴するという、1対2の通信が考察の対象となる。ただし、アリスとボブの目的は、メッセージをボブに対して誤り無く送ることだけではなく、同時にイブに対しては一切の情報も漏洩しないように伝送すること、すなわち高信頼かつ情報理論的安全な通信を行うことへと変化する。直感的には、イブが誤り訂正に失敗するようなレートの通信路符号化を行えば、安全性も同時に担保されるように思える。ここで、アリスが長さ3ビットのメッセージを伝送したときに、ボブは誤り無しにメッセージを受け取れるが、イブ側には正しいメッセージと1ビット誤りが生じたビット列が等確率で現れるとする、模式的な例を考える。すなわち、アリスがあるメッセージ000を送ると、イブ側には4つのビット列000, 100, 010, 001のうちの1つが1/4の確率で現れる。ここで、イブはアリスが送ったメッセージの特定こそできないが、その候補をある程度まで絞り込める点に注目したい。例えば、イブがビット列001を得た場合には、アリスは001, 101, 011, 000のいずれかを送ったと推測できる。すなわち、メッセージと思われる候補が8つから半分の4つに減少したことから、メッセージに関する情報が1ビット分漏洩しており、もはや情報理論的安全とは言えない。アリスとボブが情報理論的安全な通信を行う場合には、この1ビットの情報漏洩すら防ぎたい。そこで、表1のように、アリスがメッセージ伝送した際に、イブ側で発生する系列を列挙して比較してみる。すると、000と111の両者について、イブ側に発生する系列を合わせると、3ビットで表現可能な系列を尽くしていることが分かる。そこで、アリスはそのような条件を満たす2つのメッセージを組にして、それぞれの組に対して2ビットのメッセージを対応させる。これが、情報理論的安全に伝送できる秘密メッセージとなる。ある秘密メッセージを送る際には、それに対応づけされている3ビットメッセージのいずれかをランダムに選択して伝送する。ボブは誤り無しで系列を受け取れるため、表1の対応付けを参照することにより秘密メッセージを再生できる。一方で、イブ側には、伝送系列選択の際のランダムな選択も考慮すると、メッセージとは無関係にすべての3ビット系列が等確率で現れる。以上より情報理論的安全性が成立する。上記が、ワイヤタップ通信路の核となる議論である。実際には、ボブの通信路にも誤りが発生するため、誤り訂正も考慮する必要がある。以下、その性能を情報理論的に述べる。アリスは長さk の秘密メッセージを長さn の符号語に符号化する。復号失敗確率を通信路符号化定理同様にn で表す。そして、漏洩情報量の尺度をn で表す。この量は様々に定義されているが(例えば[29]–[31])、基本的にはイブ側の確率分布と完全一様分布との間の統計距離によって計られる場合もある。Wynerは、秘密メッセージのレートnkRB/ が秘匿容量)];();([max)(ZXIYXICxPSX よりも小さい場合に、復号失敗確率n と漏洩情報量n の両方を、n を長くすることで任意に小さくできることを示した[1]。ここで、);(YXI は通信路符号化定理から誤り訂正でアリスとボブが共有できる情報量、);(ZXI は盗聴者に漏洩している情報量に対応する。実際に、上記の模式例では、3ビットのメッセージから漏洩している1ビット分の情報量を引いた2ビットが情報理論的安全に伝送可能なビット数となっていた。なお、上記のWynerの定理では条件);();(ZXIYXI が成立している必要があるが、CsiszárとKörner[2]は情報理論的なテクニックを駆使し、この条件を外す一般化を行った。秘密鍵共有通信で発生するノイズの利用により、秘密鍵の共有無しに秘匿通信を実現できるワイヤタップ通信路符号3アリス(送信者)主通信路盗聴者通信路ボブ(正規受信者)イブ(盗聴者)図1 ワイヤタップ通信路符号化の概要図表13ビットメッセージとイブ側に発生する系列及び2ビット秘密メッセージメッセージイブ側に発生する系列2ビット秘密メッセージ000000, 100, 010, 00100111111, 011, 101, 110100100, 000, 110, 10110011011, 111, 001, 010010010, 110, 000, 01101101101, 001, 111, 100001001, 101, 011, 00011110110, 010, 100, 111293-3 光空間通信における物理レイヤ暗号に向けた通信路推定実験
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