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屋上のターミナルをイブと見立てている。本稿では、様々な気象条件において、物理レイヤ暗号の伝送性能を実験的に評価することで、天候が物理レイヤ暗号に及ぼす効果の関係を解明することを目的として、2015年11月19日に行われた実験について述べる[37] [38]。この実験では、アリスは波長1550nm、出力パワー100mWのアイセーフレーザをオン-オフ変調することで、長さ215-1の擬似乱数列を伝送した。送信レンズのビーム拡がり角が約1ミリラジアンであったため、NICT側でのビームの広がりの半径は約8 mになる。なお、実験の都合上、イブ系も光を受信できるように、ビーム中心はボブ側からイブ側に1 mほど近づくよう調節している。ボブとイブはそれぞれ、直径約100 mmの望遠鏡でビームを集光し、PINフォトダイオード検出器とアバランシェフォトダイオード検出器で光パワーの測定を行う。このような検出器の感度差に加えて、ボブ側の検出器が窓ガラス越しにあることから、本実験はイブがボブよりも高感度な検出システムによって盗聴を行うという、光空間通信における盗聴シナリオの1つの典型例の模倣となっている。上記の実験状況で、伝送時間200 ms の間に長さ2×106の擬似乱数を伝送し、ボブとイブの持つ光検出器の出力を基にして通信路の通信路の強度分布を抽出し、そこから4 msごとの相互情報量);(YXI 及び);(ZXI の計算を行った。なお、ボブの周りは十分な監視の下警護されており、屋上のイブが得られる以上の情報を得る盗聴者は現実的には存在しないと仮定している。以上の条件下で、物理レイヤ暗号としては最も単純であるワイヤタップ通信路符号化の伝送性能評価を行った。なお、前述のようにワイヤタップ通信路符号化の性能は秘匿容量にて測られるが、本研究ではパワーや擬似乱数源系列中の0と1の個数の最適化は行わないため、秘匿容量を求めることはできない。そのため、相互情報量の単純な差である秘匿レート);();(ZXIYXIRS を用いて、秘匿伝送可能な情報量を評価する。このような解析を、14:43、15:57、16:33(当日の日没時刻)、17:37、18:10の5つの時間帯で、20秒ごとに10回行った。図4に16:43:20と17:37:00に取得されたデータから計算された秘匿レートの時間変動を示す。なお、本実験ではボブの通信路がほぼエラーフリーとなっていた点に注意する。図4(a) に示した16:43:20、すなわち日没直後の結果では、秘匿レートは10 Mbps (24 ms から28 msの間)から、0 bps (144 ms から 148 ms)へと、200 msの間でも大きく変化している。その一方で、図4(b) に示す17:37:00、すなわち日没後の結果では、この秘匿レートの時間変動は小さく抑えられている。以上より、日没前や直後では大気のゆらぎによって生じる強度変調やビームワンダリングの影響によって致命的な情報漏洩が発生する一方で、夜間にはその影響が抑えられ、物理レイヤ暗号を利用して安定した秘匿伝送が可能になることが示されている。以上に述べた大気による影響をより統計的に考察するために、あるしきい値thR よりも秘匿レートSR が下回る確率図3Tokyo FSO Testbed の概略図[37].©OpenStreetMap contributors, CC-BY-SA.図4(a)2015 年11 月17 日16:34:20 及び(b) 同日17:37:00 に取得されたデータから計算された秘匿レート。各点の測定時間幅は4 ms であり、長さ4×104の擬似乱数系列に対応している[38]。04080120160200計測時間 [ms]6M10M秘匿レート [Mbps]2M04080120160200計測時間 [ms]1k10k100k秘匿レート [bps]1M10M(b) 17:37:00における秘匿レートの変動(a) 16:34:20における秘匿レートの変動313-3 光空間通信における物理レイヤ暗号に向けた通信路推定実験
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