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は、動画データを指向性アンテナで受信して、約10m離れた地上局に中継、地上局は撮影ドローンと同じ暗号鍵を用いて動画データを復号し動画再生する。監視カメラの動画データを完全秘匿化したまま中継伝送するという想定で実験を実施した。また、中継の切断を模擬するため、敷地境界(図4上端)まで撮影ドローンが移動したところで、ドローン間通信が森林帯によって妨げられるように中継ドローンを移動させた(図4左端)。なお、実施にあたっては、実験場の管理者である愛知県豊田市の許諾を頂いた(ドローンの制御については、1機につき必ず操縦者1名を配し、目視外飛行や不慮の墜落等のインシデントが発生しないよういつでも手動介入できるよう配慮した)。地上局–撮影ドローン間の通信状況は、地上局での再生動画をハンドカメラで撮影するほか、地上局から動画撮影カメラに対して1秒ごとに発信されるPING*4の応答時間を記録する方法で観察した。また、再生動画のほか、実験自体の様子もハンドカメラで撮影している(NICTプレスリリース『ドローンによる動画データの完全秘匿中継技術を開発』参照:http://www.nict.go.jp/press/2017/03/22-1.html)。地上局での動画再生はリアルタイムかつ「コマ落ち(画像データが失われること)」することなくスムースに行われた。このことから、本実験での機器構成において、動画中継及び暗号化・復号がほぼ問題なく機能することが確認された。また、中継ドローンを森林帯の陰に移動させ中継の切断を模擬した際には、地上局での動画再生は停止し、PING応答も完全に途絶えてしまったが、中継ドローンを元の中継位置に戻したところ、PING応答も再び確認され、中継切断中の映像を飛ばした状態で動画再生が再開された。このことから、暗号化された動画データの伝送が途切れたとしても、定期的に挿入された鍵同期信号により送受信側で暗号鍵を一致させて暗号化データが復号されることが確認された。なお、動画中継自体はほぼ問題なくできたが、撮影ドローンがある地点(図4中央付近の車両前後)を通過する際、必ず動画再生が5秒程度一時停止し、コマ落ちなしで動画再生が復活するものの早回しのように再生されてしまうという現象が生じた。車両鉄板で通信電波が反射し干渉性フェージング*5が起きて動画データの伝送に遅延が生じたと推測し、車両を実験エリアから移動させて中継実験を行ってみたが、同様の図5 地上局-撮影カメラ間のPING応答時間(横軸はPING信号に付した連番)02,0004,0006,0008,00010,00012,000147101316192225283134374043464952555861646770737679828588919497100103106109112115118121124127130133136139142PING 応答時間(地上局−撮影カメラ間)※PINGは1秒毎に発信[msec][msec][msec]再⽣⼀時停⽌動画再開再⽣⼀時停⽌動画再開再⽣⼀時停⽌動画再⽣ドローン下降開始着陸02468101214169193959799101103105107109111113115117119121123125127129131133135137139141143145PING 応答時間 (復路)⾶しょう開始再⽣⼀時停⽌動画再開再⽣⼀時停⽌動画再開中継ドローン移動(中継切断)0246810121418202224262830323436384042444648505254565860626466687072PING 応答時間 (往路)ドローンプロペラ回転開始ドローン⾶しょう開始中継ドローン移動→中継切断中継ドローン移動→中継復帰ドローン着陸中継切断*4PINGとは、IP(Internet Protocol)ネットワークにおいて、ノードの到達性を確認するための標準装備ソフトウェア。指定した相手先に一定サイズのパケットを送り、その戻りの有無によりネットワークの接続を確認する。応答速度も表示されるため、ネットワークの速度を確認することもできる。潜水艦が水中で発するアクティブ・ソナーに挙動が似ていることから、その音(“ping”)に由来して名付けられた。*5干渉性フェージングとは、送信点から受信点に届く電波の経路が、物体による電波反射が原因で複数ある場合、それぞれの伝播経路の長さが違うことで受信点においてそれぞれの位相がずれ、強め合ったり弱め合ったりすることにより無線局での電波の受信レベルが変動する現象。電波の受信ができなくなる場合もある。38 情報通信研究機構研究報告 Vol. 63 No. 1 (2017)3 量子光ネットワーク技術
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