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えば相関が検出されるが、違う偏光基底、例えば右回り・左回りの円偏光を測定しても、それぞれの光子の回転方向はランダムとなり、相関は見えない。これは古典的な相関である。一方、量子もつれが形成された光子対では、それぞれの光子の縦横偏光を測定しても相関が見えるし、同じ光子対に対して円偏光の測定を行ったとしても、やはり強い相関を検出することができる。しかも、測定の方法は、状態が準備された後に選択したとしても結果は変わらない。このように、異なる測定方法でも相関が形成されていることが量子もつれの最大の特徴である。このような量子もつれは、様々な量子情報技術において基本リソースとなることが知られている。量子もつれ光源の研究開発は、これまで近赤外波長帯(800 nm近辺)が一般的であったが、我々は将来の量子情報通信への応用を念頭に、通信波長帯における量子もつれ光源の開発に取り組み、レーザー光の波長変換等に用いられる2次の非線形結晶を用いた方法によって、これまで高純度の単一光子源や量子もつれ光源の開発に成功してきた[1]–[3]。量子もつれ光源を様々な量子情報処理プロトコルに応用するためには、量子もつれ状態が高純度であることに加え、高速に生成・検出できることが重要であるが、その実現は容易ではない。このため、高速化に向けた研究は世界でも活発に進められている。これまでは、主に駆動用レーザーのパルス強度増強により、量子もつれ光子対の生成速度向上が試みられてきた。しかし、この方法では雑音も同時に増えるため、量子もつれ相関の劣化を引き起こす。別の方法として、駆動用レーザーの繰り返し周波数を上げることでトータルの強度を上げる方法がある。この場合、パルス当たりの強度は一定のため量子もつれを劣化させることなく生成速度を向上できるが、過去の研究では繰り返し周波数は76 MHz付近にとどまっていた。これに対して、我々はNICTで独自に開発された周波数コム光源による繰り返し周波数2.5 GHzの新しい駆動用レーザーを、高純度量子もつれ光源に組み合わせることで、雑音を増やすことなく高速化することに成功した[4]。駆動用パルスレーザーには波長・パルス幅可変、かつ高速・安定動作が要求される。NICTの周波数コム光源は、これらの特長をすべて兼ね備えている。図1に、実験装置の概略図と実験結果を示す。実験結果は、生成した量子もつれ光子対による干渉の明瞭度を、駆動用レーザーの強度を変化させて測定したものである。干渉の明瞭度が高いほど、量子もつれとしての純度が高い。従来の駆動用レーザー(青)に比べ、今回の2.5GHzの周波数コム光源を駆動に用いた場合(赤)、強度を上昇させても明瞭度の低下が抑制されていることが明確にわかる。この結果、周波数コム光源を基にシステム全体を新規開発することで、システム動作速度について従来の30倍以上の高速化を実現した。量子もつれ光源を用いた量子通信プロトコル・新現象量子もつれ光源を用いた通信プロトコルの中でも、量子暗号や量子計算のネットワーク化で基本となるのが、量子もつれ交換と呼ばれるプロトコルである。量子もつれ交換の方式を図2に示す。まず、地点AとB、地点BとCで、それぞれが別々の量子もつれ光子のペアを共有する。この時点でA-B間とB-C間で共有される光子のペアには何も相関は無い。次に、地点BでBell測定と呼ばれる、2光子を量子もつれ基底へと射影する特殊な測定を行い、光子が来たかどうかを判別する。これは目隠しで光子をつかむような測定だが、AとCのどちらから光子が来たかあえてわからないようにすることで、AとCの間に新たな量子もつれを形成することができる。実際の実験系は図3に示す3図1 高速・高純度量子もつれ光源。左:実験装置、右:測定結果。ミラーフィルタレンズ光⼦検出器Size=30×2×1 mmPPKTP結晶(量⼦もつれ光⽣成デバイス)周波数コム光源動作速度:2.5GHz波⻑:1553nmパルス幅:~2.5ps42   情報通信研究機構研究報告 Vol. 63 No. 1 (2017)4 量子ノード技術

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