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ようなもので、前節で紹介したNICT開発の量子もつれ光源に加え、特定の波長で高反射率を持つ鏡などの光学素子、またNICTで開発された超伝導単一光子検出器などを用いている。これら独自のデバイスを用いることで、高純度かつ従来よりも大幅に高速な量子もつれ交換を実現し、先行研究と比較して1,000倍以上高い成功回数の量子もつれ交換を実証することに成功した[5]。図3右下の実験結果では、地点AとCに到達した2つの光子の変更の相関測定を行っており、量子もつれが存在する最低限の条件とされる33%を大きく超える明瞭度が観測されている。この成果により、これまでは速度が遅すぎて不可能だった光ファイバーネットワーク上での量子もつれ交換実験の道が拓けることとなった。また、我々の高速・高純度な量子もつれ光源・検出技術は、量子光学における新しい現象の観測をも可能にしている。例えば、量子光学でよく知られたHolland-Burnett干渉と呼ばれる光子間の量子干渉現象がある。従来、これは2つの光子の間の現象しか観測されていなかったが、光源・検出器の高速化により、多数の光子が関与する現象まで観測が可能となり、6光子が関与する干渉まで測定した結果、観測された光子の数に応じて、様々な異なる振る舞いの量子干渉が生じていることを初めて明らかにした[6]。さらに我々は、米国国立標準技術研究所(NIST)と協力して、干渉後の光子を周波数分解して測定する技術を開発し、光子の最も基本的な量子干渉現象として知られるHong-Ou-Mandel(HOM)干渉の周波数分解測定にも成功した[7]。その結果、通常はHOM干渉縞が消失すると考えられていたパラメータ領域においても、周波数分解された光子の間では強い量子干渉が存在することを初めて明らかにした。これらは情報通信を行っているわけではないのだが、量子光学という基礎学問を発展させる科学上重要な成果と位置づけている。さらに、この周波数分解技術と新しい量子干渉の知見を応用して、光子対の量子もつれが10以上の異なる周波数に分布し、10次元以上の自由度を持つ高次元量子もつれ光子対の生成にも世界で初めて成功した[8]。また、これらの様々な実験結果の妥当性を確認するため、量子もつれ光実験を、大規模な数値計算をせずに精密にモデル化するための新しい理論のフレームワークも構築している[9][10]。これらの研究は、まだ基礎の段階であり、今のところ情報通信の高性能化に直結するものではないが、こうした物理学上の新しい知見を組み合わせることで、将来的に量子ノードの基盤技術が確立されていくものと期待される。図3 量子もつれ交換実験。左:実験装置概略、右上:装置写真、右下:実験結果。09018027036002004006008001000明瞭度90.6% (78.0%)65.7% (56.1%)87.4% (74.6%)63.6% (54.4%)検光⼦Aの⾓度(deg)30秒間の4光⼦同時計数率検光⼦Cの⾓度(deg)04590135図2 量子もつれ交換の手順434-1 光量子制御技術
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