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量子もつれ光源の集積化量子もつれ光源を実用的なデバイスとしていくためには、できるだけ汎用的な材料により、デバイスを集積化していくことが欠かせない。そこで我々は、シリコンフォトニクスを活用した通信波長帯量子もつれ光源の集積化にも取り組んでいる。基板上に半径約10ミクロンの微小なシリコンリング共振器を2本のシリコン導波路で挟んだ集積回路を作成し、導波路から注入された励起光によって、リング共振器内で非線形光学過程である四光波混合を起こすことにより、量子もつれ光子対を生成する(図4(a)、(b))。波長1551.63 nmのレーザーを励起光としたところ、いずれも通信波長帯である1539.01 nm、1564.43 nmの2つの異なる波長から相関のある光子の対が生成されていることが観測された[11]。出射された光子対のそれぞれをプレーナ光波回路(PLC)の非対称干渉計に通すことで、光子が時間軸上の位置情報に関する量子もつれ状態(time-bin entanglement)を形成することができる。生成された量子もつれは、90%以上の高い量子干渉性を示し、質の高い量子もつれであることが実証された(図4(c))。さらに、デバイスの温度や取り出し周波数に関するフィルター等を適切に制御することにより、4つの波長から同時に2つの光子対を生成する「波長多重量子もつれ光子対生成」にも成功している[12]。また、この実験では、片方の導波路の双方向の入力から励起を行い、もう片方の導波路の両端からそれぞれ光子対を出力するダブルポンプ方式にも成功した(図5)。興味深い点は、普通に考えれば両端から出力される光子対の生成レートの合計は、片側励起–片側出力の場合のレートの2倍になると思われるが、実際には合計のレートは片側の場合の2倍よりも更に増強されていることが実験的に明らかになったことである(図5右。上下のグラフは、片側励起–片側出力で生成された量子もつれ光子対の量子干渉と、双方向励起で、2つの出力のうち片側から出てくる量子もつれ光子対の量子干渉の観測結果。比べると、下のグラフの方が、光子検出レートが増大していることがわかる)。これは、回路内の導波路–共振器の結合点などにおける励起光の反射と干渉により、実効的な励起レートが2倍以上に増強されているためと考えられるが、詳細な解析は今後の研究が待たれる。いずれにせよ、今後の量子集積デバイス開発において非常に有用な現4図4 集積化量子もつれ光源の実験。シリコンリング共振器(図の(a))は、温度制御された環境で動作(図の(b))。(c) 生成された量子もつれ光の明瞭度。(a)(b)(c)555657580200400600800Coincidence count (X0 & X'0) (1/300 s)Temperature of PLC (signal photon side) (deg)0200400600Coincidence count (X0 & X'1) (1/300 s)図5 シリコンリング共振器双方向入力実験。左:装置概念図、右:実験結果。44   情報通信研究機構研究報告 Vol. 63 No. 1 (2017)4 量子ノード技術

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