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タしていると、光子を吸収するごとに、スパイク状の電圧パルスが現れる。この電圧パルスを室温の計測機器でモニタすることで光子を検出できる。2.2 高検出効率SSPDシステムの開発SSPDの動作原理はいたってシンプルであるが、高い検出効率を実現するためには、いくつかの技術的なハードルがある。SSPDの検出効率を決める3つの要素として、光ファイバとの結合効率、ナノワイヤの光吸収効率、パルス生成確率がある(図2)。我々は通信波長帯で使われるシングルモード(SM)ファイバからの光が漏れなく受光面に照射されるよう、専用のファイバーパッケージを開発した。SSPDの受光面はSMファイバのコア径(約10mφ)より大きい15×15m2とし、ファイバの終端にGraded Index (GRIN)レンズを融着し、受光面にフォーカスすることで、ほぼ100%のファイバ結合効率を達成した[11]。超伝導ナノワイヤの膜厚は5 nm程度と薄く、単層の薄膜では光の透過や反射により、高い光吸収効率を実現することが難しい。そこで、我々はダブルサイドキャビティと呼ばれるデバイス構造を採用し、光をシリコン基板と金属反射層との間に閉じ込めることで、ナノワイヤ近傍で光電界強度が最大となるよう素子構造を最適化した。その結果、1,550nmの光に対して90%を超える光吸収効率を実現した。超伝導ナノワイヤが素子全体に占める面積比率(フィリングファクタ)は通常50%程度であるが、ダブルサイドキャビティ構造ではフィリングファクタを25%以下にしてもこれまでと変わらない光吸収効率が得られることを見いだした[7][12]。フィリングファクタを小さくすることで、ナノワイヤ長が短くなるため、より高い計数率を実現できる。最後のパルス生成確率とは、図1の原理に従って光子吸収によりナノワイヤの超伝導状態が壊れる確率である。受光面に敷き詰めた超伝導ナノワイヤのどこか一箇所にでも膜質や線幅に不均一があると、その部分の超伝導臨界電流密度が低くなるため、ナノワイヤに供給できるバイアス電流はこの臨界電流の最も小さい部分で制限され、他の正常な部分に十分なバイアス電流を供給できない。この場合、超伝導ナノワイヤが光子を吸収しても超伝導状態が壊れない確率が高くなる。高いパルス生成確率を実現するためには、非常に薄く、細く、長い超伝導ナノワイヤを均一に作製することが重要となる。我々は、薄膜表面が酸化しにくい窒化物超伝導体(NbN、NbTiN)を薄膜材料として採用し、特性の均一性に優れた厚さ5 nmの極薄膜を実現した。また、パターニングには加速電圧125 kVの電子線描画を導入し、高いパターニング精度で幅100 nmのナノワイヤを実現した。その結果、パルス生成確率においても90%以上の値を実現した。図3にNICTで開発した6チャンネルSSPDシステムの外観と性能をまとめた。先述した3つの要素をそれぞれ最大化することで、1,550 nmにおける検出効率として80%を実現した[7]。この値は、半導体材料にInGaAsを用いたAPDの20%と比べても圧倒的に優れており、また暗計数率についても、InGaAs APDでは10,000(カウント/秒)以上あるが、SSPDでは100(カウント/秒)以下と圧倒的に低い。InGaAs APDにはアフターパルスと呼ばれる検出器の応答と相関を持つノイズがあり、このノイズを抑制図2  SSPDの検出効率に影響を及ぼす3大要素光ファイバとの結合効率光吸収効率パルス⽣成効率3 mm3 mm15 m15 m~ 100%100 nmNbN超薄膜技術(厚さ:~ 5 nm)高精度電子線描画> 90%> 90%ダブルサイドキャビティ構造専用ファイバパッケージ48   情報通信研究機構研究報告 Vol. 63 No. 1 (2017)4 量子ノード技術

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