HTML5 Webook
53/72
するために光信号と同期したゲートバイアスが必要であるが、暗計数が小さくアフターパルスのないSSPDでは直流のバイアス電流による駆動が可能であることも大きな利点である。 我々は、SSPDの優れた性能をより使いやすい形でユーザーに提供するため、6チャンネルのSSPDを100V電源で動作する小型の機械式冷凍機(0.1W Gifford McMahon冷凍機)に実装し、システム全体を19インチラックに収納したマルチチャンネルSSPDシステムを開発した[6]。この機械式冷凍機は水冷が不要で、スイッチを入れるだけでSSPDを2.5K以下に冷却できる。機械式なので、液体ヘリウム等の冷媒は一切不要で、メンテンンスフリーで長時間の連続運転が可能である。いつでも、どこでも、誰もが手軽に利用できる光子検出システムとして、東京QKDネットワークのシステム実証実験をはじめとする数多くの量子情報分野における実験で既に使用されている[8]–[10]。応用範囲の拡大に向けた取組3.1 広波長帯域化これまで、主に量子情報分野での応用を想定して1,550 nmの光波長に対して光吸収効率が最大となるようSSPDのデバイス構造を最適化してきたが、光子検出器の応用範囲は、通信・計測から、バイオ・医療まで多岐にわたっている(図4)。使われる光波長は応用によって異なるため、今後SSPDをより幅広い分野に応用していくためには、1,550 nmだけでなく様々な波長の光を検出できることが重要となる。光子のエネルギーで超伝導状態を壊すというSSPDの光子検出原理を考えると、よりエネルギーの高い短波長の光ほど高いパルス生成効率を実現するうえで有利であるが、図2(b)のダブルサイドキャビティ構造では、シリコン基板の裏面から光を照射するため、シリコンのバンドギャップよりもエネルギーの大きいm以下の光は基板に吸収されてしまう。そこで、m以下の光波長にも対応でき、より柔軟な設計が可能なデバイス構造として、図5に示す誘電体多層膜を用いたデバイス構造を検討した[13][14]。異なる屈折率を持つ2種類の誘電体(我々の実験ではSiO2とTiO2)の膜厚や周期を変えることで、超伝導ナノワイヤに吸収される光波長を自在に設計することができる。我々は、構造の最適化に要する時間を削減するため、マトリックス法と有限要素法を併用した最適化手法を考案した。まず、誘電体多層膜上に単層のナノワイヤに加工していないNbN薄膜が付いた構造で、マトリックス法(例えばEssential MacLeod等の光学薄膜最適化ソフトウェア)を用いて所望の光波長で高い光吸収効率が得られるようSiO2とTiO2の膜厚、周期を最適化する。次に、NbN薄膜を実際のSSPDのデバイス構造であるメアンダ状のナノワイヤとして、今度は有限要素法(COMSOL等のソフトウェアを使用)を用いて、偏波依存性まで含めた光吸収効率の光波長依存性を計算する。マトリックス法と併用することで、最初から有限要素法を用いて計算するよりも、大幅な計算時間の削減が可能となる。この手法により650~900nmを目標波長として誘電体多層膜の構造を最適化して得られた光吸収効率の光波長依存性を図5に示す。650~900 nmの範囲で高い光吸収効率を実現し、それ以外の波長では光吸収効率が低く抑えられていることがわかる。この構造のSSPDを実際に作製・評価して、光吸収効率をプロットした結果を、図5に重ねて示す。実験で得られた光吸収効率は、計算で得られた結果とよく一致しており、我々の最適化手法が有効であることがわかる[13][14]。SSPDの暗計数率の起源については諸説あるが、低バイアス領域でのSSPDの暗計数率は光ファイバを通して入射する室温の黒体輻射が支配的である[15]。誘3図3 6チャンネルSSPDシステムの外観と仕様・性能項目仕様・性能検出効率80%@1550nm暗計数率100 cpsタイミングジッタ68 psチャンネル数6 CH検出器駆動方式直流バイアス電流駆動冷凍機空冷式小型GM冷凍機駆動電圧・電力AC 100V・最大1.2 kW液体冷媒不要570 mm1850 mm図4 光子検出器の応用分野医療分野バイオ分野産業分野通信分野計測分野臨床検査装置・血液検査・⽣化学検査核医学画像診断•PET、ガンマカメラ蛍光測定•共焦点顕微鏡•蛍光相関分光ウェハ表面検査プラズマモニタ半導体欠陥検査量⼦暗号通信衛星光通信空間光通信LIDAR油田探査放射線計測学術分野量⼦光学⾼エネルギー物理学光⼦検出器494-2 超伝導ナノワイヤ単一光子検出器の開発
元のページ
../index.html#53