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電体多層膜を用いることで、検出したい波長以外の光の吸収を抑制することが可能であるため、黒体輻射による暗計数率の低減にも有効であると考えられる。今後、様々な光波長に対して誘電体多層膜を用いたデバイス構造を適用していくと同時に、暗計数率の低減という観点でその有効性を検証していく予定である。3.2 マルチピクセル化1 m以下の光波長ではSi APDでも検出効率は70%に達しており、SSPDが今後その応用範囲を広げていくためには、単に検出効率が高いというだけでなく、最大計数率、暗計数率、ジッタといった総合的な性能で、既存技術と競合し、優位性を実証していく必要がある。SSPDの特長の1つに高い最大計数率があるが、原理的には光子の吸収により発生したホットスポットの準粒子緩和時間で決まり、潜在的に1 GHzでの動作も可能と考えられている。しかしながら、コア径10m程度のシングルモードファイバと損失なく結合するためには15m角程度の受光面積が必要であり、幅100nmの超伝導ナノワイヤをメアンダ状に受光面全体に敷き詰めると、ナノワイヤのカイネティックインダクタンスLKは1 Hに達する。そのため、SSPDの不感時間(ある光子を検出してから次の光子を検出できる状態に回復する時間)はLKと負荷抵抗Rとの比(LK/R時定数)により制限され、現状のSSPDの最大計数率は数10 MHzである。これはAPD等の競合技術と比べても、必ずしも優位な数値とは言えない。また、応用によっては(特に可視波長帯で使用する場合)、コア径が50 mとSMファイバに比べて大きいマルチモードファイバとの結合が必要であり、より大きな受光面積が必要となる。その結果、不感時間は更に増大し、最大計数率が低下する。このLKによる最大計数率の限界を克服するため、SSPDのマルチピクセル化が提案されている[16]。図6にマルチピクセル化のメリットをまとめた。マルチピクセル化により、全体としてファイバとの結合に必要な受光面積を確保しつつ、個々のピクセルの小型化によりLKを低減し、検出効率を犠牲にすることなく不感時間を短縮できる。マルチピクセル化は大面積化による不感時間の増大を抑えるうえでも有効である。また、シングルピクセルのSSPDは光子数識別能力を持たないが、マルチピクセルSSPDでは別々のピクセルに同時入射した複数の光子を検出できるため、疑似的ではあるが光子数識別が可能となる。将来的に百万ピクセル規模のマルチピクセル化が可能となれば、フォトンカウンティングレベルの感度を持つ究極のカメラの実現も夢ではない。マルチピクセルSSPDを実現するうえでの最大のボトルネックは出力信号の読み出しである。一般に広帯域な同軸ケーブルほど熱の良導体であり、冷凍機への熱負荷という観点で、小型の機械式冷凍機に実装できるケーブル本数には限界がある。NICTでは、読み出しのケーブル本数を削減するため、世界に先駆けて単一磁束量子(Single Flux Quantum: SFQ)論理回路による極低温信号処理を提案し[17]、これまでにSSPDからの信号読み出し及び多重化動作[18][19]、4ピクセルSSPDのSFQ回路による信号多重化まで含めたクロストークフリー動作[20]、SFQ読み出し回路による従来手法に比べて低タイミングジッタでの信号読み出しの実証に成功している[21]。また、更に大規模なマルチピクセル化の試みとして64ピクセルSSPDイメージングシステムの開発も行っている。既に、SSPDの各ピクセルの検出効率を個別に評価し、ファイバ照射光のビームプロファイルの再現に成功しており[22]、現在64ピクセルSSPD用のエンコーダ回路の開発を進めている。エンコーダ回路とは、光子を検出したピクセルの位置情報をコード化して、1本の同軸ケーブルで読み出すための回路であり、これにより64ピクセルSSPDによるリアルタイムのイメージングが可能となる。光子を検出するごとに回路内部でクロックを生成するイベント駆動型の回路とすることで、光子の図5 誘電体多層膜を用いたデバイス構造とその光吸収効率の波長依存性(a)(b)50060070080090010001100020406080100Optical absorptance and SDEmax (%)Wavelength (nm)  Simulation (TE)  Experiment図6  SSPDのマルチピクセル化シングルピクセルマルチピクセルナノワイヤ⻑︓~ 1 mmLK~ 500 nH不感時間:LK/50 ~ 10 ns最大計数率:~ 20 MHzLKの低減・⾼速化・大面積化・光⼦数識別・空間識別イメージング15 m50   情報通信研究機構研究報告 Vol. 63 No. 1 (2017)4 量子ノード技術

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