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ヒーレント光源系構築のために実施した研究開発の概要を述べる2.1光フィードバックによる発振スペクトルの狭窄化本稿では、Ca+について直接のレーザー冷却を適用し、このCa+を用いた共同冷却法によりIn+を冷却する。そのために図2(b)に示されるCa+の2S1/2-2P1/2遷移(波長397 nm)を安定に励起するコヒーレント光源が必要となる。回折格子により発振スペクトルを制御する外部共振器型半導体レーザー(Extended-Cavity Diode Laser, ECDL)は通常1 MHz程度の線幅を持ち、最適条件でのレーザー冷却を適用するために発振スペクトルの狭窄化が望ましい。出力光のすべてを3枚のミラーからなる進行波型フィルター共振器に入力し、出力した光の一部をECDLに光フィードバックする手法を考案し[5]、測定時間1秒での線幅を7 kHzまで狭窄化できることを確認した[6]。また、ECDLでは出力光に含まれている自然放出光の裾が図2 (b)に示されるCa+の2P3/2準位を励起して準安定状態の2D5/2に誘導し、レーザー冷却を阻害する問題が知られているが、フィルター共振器を用いる方式では自然放出光の裾の強度が30 dB以上低減されることが確認された[5]。本稿でのイオン量子系実験ではフィルター共振器を用いる方式を用いたが、光ファイバー共振器を代わりに用いて平面光回路による集積化に適した新たな方式の動作実証も実施した[7]。2.2二段階波長変換による紫外光生成In+の量子状態観測、時計遷移の励起ではそれぞれ図2(a)の1S0-3P1遷移(波長230 nm)、1S0-3P0遷移(波長237 nm)を用いる。これらの波長はレーザーの直接発振では生成できないため、それぞれ波長922 nm、946 nmの半導体レーザーの二段階波長変換により生成した。このうち波長230 nm生成の構成を図3に示す。ブラッグ回折格子型半導体レーザー(DBRDL)の922 nm基本波(出力150 mW)から、周期分極反転型KTP結晶(PPKTP)で波長461 nmの第二高調波を生成し、次にBBO結晶による第二高調波発生による波長230 nmのコヒーレント光を生成した。図4に得られた230 nmコヒーレント光強度の時間変化を示す。二段階の波長変換という比較的複雑な構成にもかかわらず、In+の量子状態観測に必要な光強度が十分に長い時間得られている。後述するIn+時計遷移周波数計測ではこの方式を基本とし、ブラッグ回折格子型半導体レーザーをECDLとテーパー型光アンプによる構成への変更をし、PPKTP結晶を導波路型PPLN結晶に簡便化する等、様々な改善を施した装置を用いた。2.3高次高調波による真空紫外光生成最も一般的なイオンの量子状態測定ではイオンからの蛍光光子の有無により量子状態を識別する。In+の量子状態が図2(a)の1S0か3P0であることを識別するには1S0-1P1遷移(159 nm)を励起し、蛍光光子が観測されれば1S0、観測されなければ3P0であることをほぼ100%で確定することができる[4]。この波長域は真空紫外と呼ばれ、単一周波数モードでのコヒーレント光生成は極めて困難であり、これらのイオン種の量子状態測定には代替の手法が用いられている。In+の場合には1S0-3P1遷移(波長230 nm)が代替の遷移として用いられるが、この遷移からの蛍光強度は量子情報で図2 (a)In+、(b)Ca+の主なエネルギー準位、遷移波長と線幅図3 230 nmコヒーレント光源の構成。DBRDL: ブラッグ回折格子型半導体レーザー、PID:PID制御回路、LIA:ロックインアンプ、HC sig: Hänsch-Couillaud信号検出器2P1/22S1/22D5/23P13P01S0(a)115In+(b)40Ca+237nm0.8Hz729nm0.2Hz397nm22MHz230nm360kHz159nm204MHz1P12P3/22D3/2866nm854nmBBOPPKTPDBRDLAOMLLCLHWHCsigPID3HCsigPID1PID2LIAHW922nm461nm230nmDriverPZTPZTPZTfrequencycontrolfrequencymonitor図4 生成した230 nmコヒーレント光の時間変化01000200030004000time [s]02468230nm power [mW]60 情報通信研究機構研究報告 Vol. 63 No. 1 (2017)4 量子ノード技術
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