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用いられる代表的なイオンであるCa+の2S1/2-2P1/2遷移(波長397 nm)の1/60程度であり、量子状態測定に時間を要するため、繰り返して量子状態計測を行う際の速度が制限される。In+の1S0-1P1遷移は波長が159 nmの真空紫外域に位置するものの、遷移確率は1S0-3P1遷移の570倍であるため、何らかの方法で励起できれば高速な量子状態の観測が可能となる。In+の量子状態を高速に観測する手段を実現するため、フェムト秒モード同期レーザーの高次高調波発生により真空紫外コヒーレント光を発生させる研究開発を実施した[8]。モード同期レーザーでは、多数の周波数モードがコヒーレントに重ね合わせられて、極めて高い光電場強度が実現される。この高い光電場強度での非線形効果を利用することにより、高効率で高次高調波発生が行われる。本研究では図5に示す構成で、波長795 nmのモード同期チタンサファイア(Ti:S)レーザーを、レーザー共振器と同一の光路長を持つ外部共振器に蓄積して更に光電場強度を増強し、ノズルから噴出させるキセノンガス(Xe)を非線形媒質として第5次高調波の159 nm光を生成した。生成した159 nm光は、フッ化物によるコーティングを施した特殊なアウトプットカップラーで共振器外に取り出した。図6に共振器の外で蛍光板により可視化した真空紫外コヒーレント光の空間モードパターンを示す。ガウス型に極めて近い強度分布をしており、単一イオンに集光して照射できることが期待される。共振器の外で測定した159 nm光の強度を図7に示す。横軸には共振器からの基本波漏れ光強度をとった。650 mWのTi:Sレーザーの入力に対して最大6.4μWの159 nm光が得られ、出力光強度は基本波強度5乗の曲線によく合致しており、基本波が更に増強された際の出力光の増強が予測できる。得られた159 nm光は1.9×105程度の周波数モードで構成されているが、そのうち2個程度の周波数モードだけがIn+の1S0-1P1遷移に共鳴する。この共鳴する周波数モードを用いて単一In+の量子状態計測を理想的な集光条件、観測条件で行った際に観測される波長159 nmの蛍光光子数を見積もったところ、1μWに対して毎秒87個の光子数が計算された。現状で生成可能な6.4μWでは毎秒550個の光子数が予想され、代替の方法として用いられる1S0-3P1遷移での一般的な光子数毎秒500個に匹敵する値となっている。長期動作の安定化、強度の増強、イオントラップへの導入光学系の実装などにより、現在用いられている方式よりも高速なIn+量子状態測定が期待される。図5 高次高調波発生による真空紫外光生成装置の構成Pulse compressor(SF10 prism pair)Vacuum chamberInput couplerRIC ~ 99.5% HR0th-order diff. to spectrometer1st-order diff. to balanced PDXe gas jetVUV-OC: ROC ~ 0.1%@NIR & ROC ~ 90%@VUVfor p-pol.図6 生成した真空紫外コヒーレント光の蛍光画像図7 生成した159nm光強度614-4 イオン量子系の極限計測と極限制御

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