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インジウムイオンの共同冷却イオントラップは荷電粒子を安定に蓄積する装置であるが、それ自体は粒子を冷却する機能を持たない。イオンの量子状態の制御・計測を行うためには、何らかの冷却法によりイオンを静止させることが必要となる。最も広く用いられる方法はレーザー冷却であるが、適用可能なイオン種は限られる。本研究では、適切な光学遷移を持たないためにレーザー冷却が容易ではないIn+の量子状態の制御・計測を行うため、レーザー冷却が容易なCa+を用いた共同冷却の研究開発を実施した。3.1共同冷却によるインジウムイオンの観測イオントラップに蓄積した複数個のイオンの運動は、トラップ電場とイオン間に働くクーロン力により集団振動モードで記述されるようになる。1個のイオンのみをレーザー冷却することにより、集団振動モード全体が冷却される。このようにして、単独ではレーザー冷却が容易ではないイオンを冷却する手法は、共同冷却と呼ばれる。線形イオントラップ中にCa+とIn+を蓄積し、Ca+のレーザー冷却によりIn+を共同冷却する実験を行った。図8(a)(b)(c)は2個のCa+をレーザー冷却した後に共鳴光イオン化により1個のIn+を追加して生成したイオン配列を、Ca+の共鳴蛍光を微弱光、撮像装置により観測して得た。イオンの配列が入れ替わる程度の弱い電圧でトラップを動作させて観測をすることにより、蛍光を発しない1個のイオンが存在することが識別できる。イオン列の集団振動モード周波数は個々のイオンの配列順序と質量により決定されるので、次に述べる振動モード周波数計測法により、蛍光を発しないイオンが質量数115のIn+であることが特定できる。3.2二種イオンの配列制御共同冷却法により直接レーザー冷却ができないイオンをイオントラップ中で静止させることが可能となった。イオンの量子状態・計測を行うためには、さらに目的のイオンを特定の場所に配置する必要がある。例えば光周波数標準への応用では、図8(a)の位置にIn+を配置することが望ましい。そこで、集団振動モード周波数が個々のイオンの質量と配列順序により異なることを用いて、特定の配列を保持する制御法を開発した[9]。すべてのイオンが同位相で配列軸上を振動する周波数は配列(a)ではν1(=100.5 kHz)、配列(b)(c)ではν2(=98.5 kHz)と計算される。図9(1)から(4)には配列の時間発展を、縦軸は時間、横軸に軸方向の座標を取り、蛍光強度を疑似カラーとして表示した。トラップ電場を適切に調節することにより(1)の様にCa+の自然放出による反跳で図8の配列(a)(b)(c)がランダムに変化する状況を実現することができる。この状態で配列(b)(c)の振動周波数であるν2をトラップ電極に印加すると、(2)に示すように集団的振動が励起されて配列(b)(c)が不安定となり、配列(a)に変化した瞬間に安定する。逆に、配列(a)の振動周波数であるν1をCa+をレーザー冷却する波長397nmのレーザーに強度変調として印加すると、(3)に示すように配列(b)(c)に変化した瞬間に安定する。配列(b)(c)が出現した際にのみν2で不安定化させて、定常的に配列(a)を保持したのが(4)である。このような選3図9 イオン配列の制御(2)(3)(4)(1)200s図8 2個のCa+による1個のIn+の共同冷却8(a)(b)(c)62 情報通信研究機構研究報告 Vol. 63 No. 1 (2017)4 量子ノード技術
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