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ローンなどの移動体に供給し無線通信を完全秘匿化する技術を開発した。量子暗号技術は、NEC、東芝の事業部に移管され、2015年には東京都内や仙台市のユーザー環境の敷地内で試験稼動が始まり、現在も信頼性試験が継続的に行われている。量子計測標準分野では、時計遷移を担うイオンと共同冷却・読み出しを担うイオンとの間で自在な制御や情報転写を行う量子論理分光技術を開発した。 第4期中長期計画(2016~2020年度)NICTにおける量子ICTの研究開発は、当該分野の勃興と発展の歴史そのものである。2001年の研究室発足以来、量子ICTの新原理実証と実用化に向けた研究開発という基礎と応用の2つを柱として取り組んできた。基礎研究は益々深まり、光、イオン、超伝導など複数の物理系を統合したシステムが持つ新しい現象の解明やICTへの応用探索の研究フェーズに移行している。将来は、このような統合システムをネットワークのノード内に導入し『量子ノード』を形成することで、従来の伝送容量や計測標準の限界を打ち破ることが可能になる。しかし、実用化にはまだ多くの課題が残っており、長期的な基礎研究が必要である。応用研究はますます広がり、量子暗号は現代暗号との融合や移動体への要素技術の適用などが進み、暗号分野、ネットワーク技術分野自体に新局面を切り拓きつつある。特に、量子暗号の距離や速度の限界を打破することを目的に取り組んだ研究からは、情報理論と暗号技術を統合する『物理レイヤ暗号』という新領域も生まれている。これは光空間通信をバックボーンとする新しいグローバルセキュアネットワークの構築を可能とするものである。このような新潮流を踏まえ、地上光ファイバネットワークから衛星を頂点とする移動体のワイヤレスネットワークまでカバーする、安全かつ伝送効率に優れた新たなネットワークを『量子光ネットワーク』と名づけ、『量子ノード』とともに第4期中長期計画の根幹テーマに据えた。シャノンの情報理論によって0、1のビットに抽象化された情報は、今『量子』という最も深い物理のレイヤ(量子レイヤ)からその枠組みごと再構築されようとしている。量子レイヤは、ICTという体系を最も広い視点からとらえるもので、これからも科学に新知見をもたらし続け、ICTに変革を与え続ける舞台となるだろう。本特集号では、その取組の最前線を紹介する。佐々木雅英 (ささき まさひで)未来ICT研究所主管研究員理学博士量子通信、量子暗号431 緒言
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