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では、トランスレータ経路と同様に、Eb/Noが大きくなるにつれてBERが劣化していく様子が見られるが、Eb/Noが18 dBを超えたあたりからエラーフロアが見えはじめ、その後Eb/Noの上昇とともにBERが上昇する様子が見られる。これは増幅器の飽和特性により信号が歪み、ビット誤りが確定的に生じはじめる傾向と一致する。トランスレータ経路の結果と比較すると、BERの劣化がより顕著であることから地上局のHPAだけでなく衛星搭載増幅器の非線形性による影響が加算されたと推測できる。これら非線形性による影響を抑圧するためにDPDを有効にした(図4 青:実線)。衛星搭載増幅器の入出力特性が不明であることから、DPDはBERが最小となるようにLUTの係数の調整を行った。なお、通信路の非線形性と歪み補償特性が一致しないことによるBERへの影響については4.2において評価を行った。測定の結果、DPDなしではBERの最良値が3.2×10-5(Eb/No=19dB)であったが、DPDによって、7.5×10-6(Eb/No=19dB)となり、HPAの出力を上げてもBERの劣化は見られなかった。Eb/Noが16dB以下となる領域では、DPDの有無でBERに有意な変化はなく、ガウス雑音によるビット誤りが支配的であることが推測される。4.2増幅器特性と歪み補償量の不一致によるBERへの影響評価我々が提案する衛星搭載用DPDでは、LUTにより増幅器の非線形性を補償することから、LUTによって作られる逆歪みを含む信号が増幅器の非線形性と一致する必要がある。経年劣化等により増幅器への入力レベルの変動もしくは増幅器のゲインの変動が生じた場合、歪み特性と補償特性が一致しないことからDPDの効果低下が予想される。そのため、LUTを最適点から0.5 dBずつ増減させたときのBER劣化の確認を行った。図5にDPD感度測定結果を示す(図5 赤:実線)。入力電力を0.5 dBだけ減少及び増加させたとき受信電力の変化量、すなわちEb/Noの変化量は、それぞれ−0.18 dBと+0.51 dBであった。入力電力の変化に対する出力電力の変化が線形に変化しない要因は、通信路上の増幅特性に依存するためである。各Eb/Noにおいて最適なDPDが行われたときのBERと比較すると、LUTを理想的な動作状態から0.5 dBだけ変化させたときのBERは悪化する様子が見られ、入力電力を増加させた場合と減少させた場合で違いが見られた。これは入力電力の変化だけでなく、補償されなかった増幅器の入出力特性の非線形性の違いが劣化量の差として生じているものと推測される。これらの結果より、実際の運用においては、増幅器入力点における信号及び増幅器特性の安定性を考慮して、BERの評価を行う必要があることがわかった。4.31.8 Gbps伝送システムにおけるDPDによるBER特性の改善最後に、次期地球観測衛星で実現が望まれるデータ伝送速度1.8 GbpsにおいてDPDによるBERの改善の効果確認するため、シンボルレート450 Msps、ロールオフ率0.4の16QAM信号を用いて衛星折返し経路によるBER測定を行った。4.1の実験結果では非線形性以外の伝送路特性によるBER劣化も存在し、伝送レートの増加とともに大きくなることから、本項の測定の前に、ケーブル等による伝送ロスを低減させ、実験系全体のBER劣化量の低減を図った。BER測定実験結果を図6に示す。リファレンスとなるトランスレータ折返し経路のBER特性(図6 緑:実線)は4.1の実験時よりも改善されている。また、地上局で使用される装置の特性から求められるトランスレータ経路のBER特性の予測結果(図6 緑:破線)と比較して、十分に近い特性が得られており、想定どおりの実験系図5 ディジタルプリディストーション(DPD)の補償感度の検証1.00E‐061.00E‐051.00E‐0417.017.518.018.519.0BEREb/No[dB]DPDsensitivity48.248.547.9*Earth station HPA output power in dBm+0.5dBInput power‐0.5dBInput power図6 伝送速度1.8Gbpsにおけるディジタルプリディストーションの効果1.E-041.E-031.E-0281012141618BEREb/No[dB]TheoryTranslator Route(Meas.)Satellite Routewith DPD(Meas.)Satellite Routew/o DPD(Meas.)46.0*48.0*47.0*46.8*45.8*47.6*43.2*44.9**Earth station HPA output power in dBmTranslator Route(Calc.)5.E‐04(Requirement)136   情報通信研究機構研究報告 Vol. 63 No. 2 (2017)3 超高速衛星通信技術

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