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が構築できていることがわかる。衛星折返し経路で取得したDPD適用前の結果(図6 青:破線)とDPD適用後の結果(図6 青:実線)を比較すると、増幅器の非線形性によって生じていたエラーフロアがDPDの適用によっておおむね解消されていることが確認できる。また、地上のHPA出力電力が48.0dBmのときのDPD適用前後の受信スペクトラム及び受信コンステレーションを図7、8に示す。受信スペクトラムからはDPDによる有意な変化は見られない。これはDPDによって低減されているリグロース成分が熱雑音に埋もれてしまっているためである。一方、受信コンステレーションからは、通信路上の電力圧縮及び位相回転の影響がDPDによって解消されている様子が確認できる。衛星折返し経路において取得したDPD適用後の結果(図6 青:実線)とトランスレータ折返し結果(図6 緑:実線)を比較すると、衛星システムが要求する誤り訂正復号前のBER規定5×10-4における所要Eb/Noの差は約0.4 dBと小さく、DPDの適用によって、衛星通信路における伝送ロスを十分に小さくすることができる結果が得られた。まとめ本実験では、衛星通信路上に存在する電力増幅器の非線形歪みによって生じる伝送特性の劣化を、衛星搭載を前提としたDPD技術によって改善することを目的に実験を行った。実験の結果、1つのLUTを用いたDPDによって、衛星通信路に存在する非線形性を効果的に補償し、伝送特性が改善できることを実験的に確認できた。また送信機の出力変動や増幅器の経年変動による伝送特性の劣化を考慮しておくことで、LUTの更新頻度を抑えることができることに加え、受信コンステレーションが最適な配置となるようにLUTを修正するだけで容易に更新が行えることから、実用上非常に有効な手法であることを明らかにした。謝辞本実験にあたってはJAXAの関係部署及びNICTに多くのご支援を頂いた。とりわけNICTのワイヤレスネットワーク総合研究センター 宇宙通信研究室の高橋 卓鹿島宇宙技術センター長、菅 智茂研究員、浅井敏男氏には親身になってご支援頂いた。この場を借りて御礼申し上げる。【参考文献【1Y. Tashima, K. Inaoka, M. Yajima, N. Ando, S. Tani, and A. Fujimura, “Performance Evaluation of a Ka-band Satellite Communication Subsystem Using Pre-distortion Techniques,” AIAA International Communications Satellite Systems Conference 2015, Sept. 2015.2M. Yajima, M. Nakadai, Y. Tashima, N. Ando, S. Tani, and A. Fujimura, “Perfoemance Evaluation of Ka-band Satellite Communication Subsystem Using a Digital Pre-Distorter,” 7th ESA International Workshop on Tracking, Telemetry and Command Systems for Space Applications, Sept. 2016.3橋本幸雄, 高橋 卓, 吉村直子, “実験地球局(超高速小型地球局、大型地球局),” 超高速インターネット衛星(WINDS)特集, 情報通信研究機構季報, vol.53, no.4. pp.61–65, 2007.4http://www.zodiacaerospace.com/en/products-services/aerosystems/data-systems/space-applications/earth-observation-remote-sensing/cortex-hdr-xxl-high-data-rate-receiver, June. 26, 2017.中台光洋 (なかだい みつひろ)宇宙航空研究開発機構研究開発部門 第一研究ユニット研究開発員 衛星通信、広帯域通信谷島正信 (やじま まさのぶ)宇宙航空研究開発機構研究開発部門 第一研究ユニット研究領域主幹 衛星通信、アレーアンテナ5図7 伝送速度1.8Gbpsにおけるディジタルプリディストーション適用時のスペクトラム(a) DPD=OFF(b) DPD=ON図8 伝送速度1.8Gbpsにおけるディジタルプリディストーション適用時のコンステレーション(a) DPD=OFF(b) DPD=ON1373-9 衛星通信路の非線形歪み補償実験

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