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まえがき内閣府が進める戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の次世代海洋資源調査技術において、海洋資源調査技術の開発が進められており、海底で観測したデータを様々な調査拠点に伝送することや観測時の状況を監視するための画像伝送等が求められている[1] [2]。日本近海で利用できる通信サービスは主に衛星通信となっており、利用できる回線速度は数百kbpsとなっている。これらのニーズを実現するためにはMbpsクラスの回線が必要であり、NICTでは衛星を活用した高速通信技術の開発を進め、洋上から数Mbpsの伝送を可能とする地球局を開発している。既にWINDSを用いた実験においては、直径2.4mの大型アンテナを持つ地球局で3.2 Gbpsの伝送や直径1.2mのVSATを用いて再生交換中継方式による51Mbpsの伝送を実証している。さらに移動体衛星通信として、一般車両に衛星を追尾するアンテナを搭載した陸上移動用地球局も開発している。この陸上移動用地球局のアンテナ部を専用の架台に設置して船舶用地球局としても利用可能となっており、様々なエリアで回線構築が可能となっている。この船舶用地球局を用いた実証例としては、平成25年に海洋研究開発機構(JAMSTEC)所有の調査船「かいよう」にWINDS船舶用地球局を搭載し、WINDSを用いて陸上との間で衛星通信回線を構築し、HROV「おとひめ」の遠隔操作を成功させている[3]。洋上で利用できる地球局の開発に向けては、この船舶用地球局をベースに検討し、調査船だけでなく小型船舶や洋上中継器(ASV)等へ搭載できる小型、軽量、低消費電力の装置とし、さらに波による大きな動揺に対しても正確な衛星追尾を実現するアンテナシステムを持つ装置開発を進めている。この開発のため、WINDS船舶用地球局を用いて洋上における衛星通信実験を実施することとした。現状の追尾システムにおいて、どの程度の能力があるか確認し、回線構築と通信実験を行い、船舶の移動や波による動揺がある環境における伝送特性を確認することとした。平成28年1月から2月にかけてJAMSTECが実施した海域試験に参加し、WINDS船舶用地球局を用いた衛星通信実験を実施したので、その結果を報告する。海域試験についてJAMSTECが保有する調査船「みらい」において、海域試験が行われた。横浜新港を出港後、相模湾と駿河湾周辺を航行し、その間の衛星捕捉や追尾の性能確認と衛星通信実験を行った。調査船「みらい」を図1に示す。WINDS用地球局3.1WINDS船舶用地球局調査船「みらい」に搭載したWINDS船舶用地球局の外観と諸元をそれぞれ図2と表1に示す。WINDS123図1 JAMSTEC所有の調査船「みらい」 3-10 洋上通信実験報告片山典彦 赤石 明 浅井敏男 川崎和義 高橋 卓 吉村直子 豊嶋守生近年、海洋資源調査技術の開発が進められており、洋上から観測したデータのリアルタイム伝送や観測状況モニタリングのための画像伝送等が検討されている。これらの実現にはMbpsクラスの回線構築が必要であるため、情報通信研究機構(NICT)では衛星通信を活用した高速通信技術の開発を進めている。洋上での衛星追尾の性能や通信状況等を確認するためWINDS船舶用地球局を用いて、海域で実験を行ったので報告する。1393 超高速衛星通信技術
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