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はじめに来るべき超高速衛星通信(ultra-high-speed satellite communication)時代においては、静止軌道衛星を通じての高速データ伝送は有力な実用技術のひとつである。情報通信研究機構(NICT)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は1992年にギガビット衛星(gigabit satellite)としてWINDS(Wideband InterNetworking engineering test and Demonstration Satellite)衛星の共同開発を開始した。2008年2月に打ち上げられた後のWINDS衛星のKaバンドにおける高速衛星通信技術目標のひとつは、IPベースでの高いスループット(Gbps以上)での高速データ通信の実現である。WINDS衛星には2種類のトランスポンダが搭載されており、それぞれ異なる通信モードを提供している。従来衛星で使用されていたベントパイプ中継モードでは、地球局から発せられたアップリンク信号の周波数を変換・増幅し、信号を地球局にダウンリンクする。再生交換中継モードでは、地球局から発せられたアップリンク信号を復調し、信号に対してベースバンドスイッチングを行い、変調信号を地球局にダウンリンクする。NICTではこれまでに、独自開発の直接変復調装置(モデム)を用いてベントパイプ中継モードに基づいたシングルポイントからシングルポイントへの衛星通信実験を行った。2014年にWINDS衛星ネットワークリンク上でUDP(User Datagram Protocol)によるデータグラム型の映像伝送実験で3.2 Gbps(実効2.75 Gbps)のスループットを実現した[1]。さらに2016年には、NICTが独自開発したHpFPによりデータストリーム型のデータ伝送実験により2.6 Gbpsを達成した[2]。今後、地上の高速通信網を補完する静止衛星による超高速衛星通信という視点では、災害等の非常時に有効な頑健性と信頼性を備えたネットワーク性能が求められる。そのためには、衛星通信回線の品質が重要となる。符号誤り率またはビットエラー率(BER:Bit Error Rate)とは受信した誤り符号の数を送信された符号の総数で割った値であり、テレメトリ品質の指標として衛星ネットワークの通常管理に用いられている。しかしBERは回線品質の指標であって、通信プロトコルにとって実用上必要な情報であるIPパケットの到達率を直接表すわけではない。WINDS衛星を含む一般の静止衛星通信サービスでは、ネットワークアプリケーションがBERなどの衛星通信回線品質パラメーターをリアルタイムに取得する方法がない。ネットワーク通信環境が健全な状態にあるかどうかをエンドユーザが把握するためには、衛星リンクの通信環境(状態)計測用の汎用的なツールが必要ある。しかし、1Gbps以上の広帯域静止軌道衛星で利用可能であるIPベースのネットワーク計測ツールはこれまでに提13-12 HpFPプロトコルによるWINDS衛星の回線品質検査村田健史 山本和憲 パワランクン プラパン 鈴木健治 浅井敏男 菅 智茂 村永和哉 水原隆道 影林佑哉 柿澤康範 矢羽田將友近年TCP/IPベースでのGbpsを超える超高速衛星通信プロトコル開発が進められており、TCP(Transmission Control Protocol)の改良による高速化が様々試みられている。しかし、静止軌道衛星や深宇宙探査衛星などは通信リンクにおける遅延量が大きい。また、KaバンドやKuバンドは気象等に起因するビットエラー発生確率が高くなる傾向にあり、IP通信においてはパケットロスに結び付きやすい。パケットロス率が無視できない高遅延ネットワークにおいてはTCPのスループットは大きく減少することがよく知られており、衛星リンクでのTCP高速化は容易ではない。筆者らは、パケットロス率が無視できない高遅延ネットワークにおいても高い通信性能を発揮する通信プロトコル(HpFP)を開発している。HpFPをベースに開発した通信環境計測アプリケーションhperfによりWINDS衛星のベントパイプ中継モードで通信速度計測を実施したところ、シングルコネクションで理論上の最大値にほぼ等しい1.6 Gbpsを達成した。さらに、本研究ではHpFPプロトコルを改良し、巡回冗長検査(CRC)機能を実装した。HpFPを用いてWINDS衛星により誤り検出を行ったところ、衛星リンク上のスループットが100 Mbps程度までの通信では全パケットの誤り検出を行うことができることが分かった。本研究ではさらに、スループットが10 Mbpsにおける得られた誤り訂正検出率とパケットロス率の相関を調べた。1533 超高速衛星通信技術

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