HTML5 Webook
158/168

案されていない。本研究では、NICTとクレアリンクテクノロジー社が開発してきた高速データ伝送プロトコルHpFP(High-performance and Flexible Protocol)[3]によるネットワーク環境計測ツールhperf [3]を改良し、衛星通信リンク上のパケットロス率計測機能及び巡回冗長検査機能を有するツールを提案する。さらに、WINDS衛星においてその有効性を検証する。本稿の構成は以下のとおりである。2において、筆者らが過去に実施したWINDS衛星のベントパイプ中継モードにおけるデータ通信実験について紹介する。3ではhperfについて説明し、巡回冗長検査による誤り検出機能を実装する。4では新しいhperfにより実際のWINDS衛星回線環境の測定を行う。5で全体をまとめ、今後の課題について議論する。WINDS衛星のベントパイプ中継モードデータ通信実験          筆者らのグループは、2016年2月にHpFPを用いたベントパイプ中継方式を使ったWINDS衛星通信実験を行った[2](図1)。本章ではこの結果をまとめ、ベントパイプ中継方式でのWINDS衛星回線におけるHpFPプロトコルの性能について議論する。図2は実験システムであり、HpFPをベースに開発したネットワーク環境計測ツールhperfを用いて送信サーバから受信サーバへの伝送速度を測定した。中継機器としては、前節で述べた独自開発モデム(図3)を用いた。図4は、図2の実験システムにおいて行ったhperfによるスループット計測結果である。図4(b)、4(c)では図2の戻り回線の遅延時間を0ミリ秒、250ミリ秒及び4,000ミリ秒の場合を比較している。本稿では静止軌道衛星の遅延量(RTT: Round Trip Time)に合わせ、主として戻り回線の遅延が250ミリ秒の場合について議論する。まず、図4(a)より、シングルコネクションでのHpFPプロトコルの最大通信速度は約1.65 Gbpsであることがわかる。HpFPは図2で用いたものと同程度のスペックの送受信サーバにおいて、ジャンボフレーム(パケットサイズが9000バイト)を用いることで約10 Gbpsのスループットの実績がある[3]。図4(a)の1.65 Gbpsの制約は図3のモデムの仕様がパケットサイズ(MTU: Maximum Transmission Unit)884バイト固定であることによる。一方、複数HpFPのバルク通信では、図4(b)の2コネクション、図4(c)の50コネクションどちらの場合も、WINDS衛星(ベントパイプ中継モード)で達成できる上限の2.56 Gbpsに近いスループットを達成している。なお、図1に示すとおり実験当日は快晴であり、これらの計測においてはHpFPによるパケットロス率(PLR: Packet Loss Rate)はいずれの場合もほぼ0%であった。HpFPの巡回冗長検査(CRC)機能3.1HpFPへの巡回冗長検査機能実装 1で述べたように、WINDS衛星のデータ通信リンク上では通常のUDPによるエラー検出を行うことができない。衛星通信のような汎用性がない専用の通信機器を開発する際には、インターネットで利用されている中継機器のような充実した機能が設計、実装されるとは限らない。特に、WINDSベントパイプ中継モードで用いるモデム(図3)では、UDPのCRC(Cyclic Redundancy Check)パケットヘッダは無視されるように設計されている。したがって、ユーザレベル(アプリケーション層)での誤り検出を行うことは困難である。本研究では、HpFPに新たに巡回冗長検査(CRC)機能を実装することにより、誤り検出を行う。CRC には多数のバリエーションがあるが、HpFPでは出力結果のビット幅が16ビットであるCRC-16の実装のひとつであるCRC-16-IBMを用いる。HpFPでは受信サーバは一定間隔(200ミリ秒ごと)にACKを送信サーバに送出する[3]。HpFPではこの間隔に受信側に到達したパケットの中でビットエラーを含むパケット数を送信側にレポートする。時刻ステップiにおけるエラー率は、この間に到達したパケット数をN[i]とし、その中でエラーを含むパケット数をM[i]とすると、M[i]/N[i]×100(%)で与えられる。なお、HpFPのCRCでは1つのパケットに複数のビットエラーが含まれている場合もエラーパケットは1とカウントされる。23図12016年2月のWINDS衛星通信実験(岐阜県中津川)の様子:実験中はおおむね晴天であった。154   情報通信研究機構研究報告 Vol. 63 No. 2 (2017)3 超高速衛星通信技術

元のページ  ../index.html#158

このブックを見る