HTML5 Webook
21/168

はじめに携帯電話や無線LAN等の急速な普及による無線周波数の逼迫対策や高速通信を可能とする広い信号帯域が確保できる利点を理由に、ミリ波帯やテラヘルツ波帯の無線通信利用が検討されている。従来、高い周波数の電波は光波の性質に近づき、直進性が高くなるため移動通信には向かないと考えられてきたが、2019年世界無線通信会議(WRC-19)[1]において検討される議題の中には、IMT周波数に対する24.25–86 GHz帯候補周波数の追加特定や、移動及び固定業務への275–450 GHz帯の周波数特定等が予定されており、技術革新によるミリ波・テラヘルツ波の移動通信利用に大きな期待が集まっている。これらミリ波・テラヘルツ波帯の利用を検討するにあたり、通信回線の設計や周波数共用のための干渉評価が必要となるため、電波伝搬特性の明確化が求められている。本稿では、現在NICTで進められているミリ波・テラヘルツ波帯の電波伝搬研究について報告する。ミリ波電波伝搬に関する研究ミリ波帯の電波伝搬の研究として、現在、鉄道路車間通信に関する伝搬特性の明確化と市街地環境におけるミリ波移動通信に関する伝搬特性の明確化を進めている。これらはWRC-19の議題1.11、1.13に関連する研究内容であり、議題1.11は列車–沿線間の鉄道無線通信システムのための世界的または地域的な周波数利用の協調、議題1.13はIMTの将来開発に向けたIMT周波数の特定を目的としている。ここでは各伝搬特性の特徴とその伝搬モデル開発について述べる。2.1鉄道用路車間通信のための伝搬特性[2]WRC-19に向けて、移動業務に既に割り当てられている周波数を鉄道用路車間無線システムのために世界的または地域的な周波数調和を行うことがITU-Rにおいて検討されている。日本では1980年頃からミリ波帯の鉄道無線通信への応用が検討されており、近年では鉄道の路車間無線通信用に40、 90 GHz のミリ波帯を利用することが検討されている。特に90 GHz帯には広帯域にわたって移動業務として周波数が割り当てられており、議題1.11に関連して比較的新しく検討が始まった周波数帯として、伝搬特性の明確化等を含め研究開発が行われている。NICTでは関係各社と共同で90 GHz帯における高架橋環境の伝搬実験を行った。伝搬測定では、高速鉄道車輌が走行する環境として、高架橋環境を想定した実験線で行った。ミリ波を利用する鉄道用路車間通信では、指向性アンテナを線路の方向に向けて、路線に沿った通信エリアを形成することが考えられており、本実験でも図1に示すように、線路方向に指向性アンテナを向けて設置して測定を行った。図2に示す測定システムを用いて、伝送距離に対する伝搬損失を測定した結果とその推定曲線を図3に示す。図には送受信アンテナ高を1 m及び12図1 高架橋環境での伝搬実験(Copyright(C)2017 IEICE, [2] Fig. 4)TX AntennaRX AntennaTX sideRX side2-3 ミリ波及びテラヘルツ波の高度利用に向けた伝搬モデルに関する研究沢田浩和 石津健太郎 児島史秀ミリ波及びテラヘルツ波を利用した高速無線通信実現の期待が高まっており、新たな無線システムの導入に向けた電波伝搬の研究が進められている。本報告では、現在NICTで進められているミリ波及びテラヘルツ波帯の電波伝搬研究の成果について報告する。172 地上通信技術の研究開発

元のページ  ../index.html#21

このブックを見る