HTML5 Webook
27/168

まえがき情報通信研究機構(NICT)では、近年需要が高まっているIoT分野において効果が期待される、複数の無線端末同士が網目(グリッド)状の接続トポロジを構成し動作するワイヤレスグリッド構造の有効利用及び社会展開について研究開発を行っている。ワイヤレスグリッド構造の最も典型的な適用例のひとつとして、無線機を搭載したスマートメータにより形成され、メータ自動検針、制御等を実現するスマートユーティリティネットワーク(SUN: Smart Utility Network)が挙げられる [1][2]。SUNの概要を図1に示す。SUNの主な技術的課題として、以下の2つが考えられている。① 電池による運用を可能とする省電力技術② サービスエリアを拡張するマルチホップ技術 ここで①は、ガスメータや水道メータのように、電線等によるメータ外部からの電源供給が容易でなく、内蔵電池でのメータ及びSUN無線機の動作を想定する場合に特に重要となる技術である。消耗による電池交換頻度の増大は、そのための交換コストによってSUNシステムの前提を覆しかねない問題であることは言うまでもない。メータ運用の見地から、一般には、電池を交換することなく、10年以上の継続動作が目標とされている。 次に②は、図1に示されているように、収集制御局から遠くに設置されたメータや、集合住宅内等遮蔽された環境に設置されたメータが、距離及び遮蔽による無線電波の減衰を受け、直接通信のみでは所望のサービスエリアを実現できない場合に、各メータが中継局の役割を果たし、多段中継を行うことで全ての検針データを確実に収集する技術である。距離による減衰の場合には、マルチホップ技術を導入すると多段中継により、電波到達距離を直線的に増大することができ、また遮蔽による減衰の場合には、多段中継を用いて減衰の少ない迂回経路を確立することで、電波の不感地帯を解消することができる。結果的に、マルチホップ技術により、サービスエリアの拡張がもたらされる。NICTでは、SUNの効果的な実装を目的として、省電力マルチホップ通信技術の確立に関する研究開発に取り組んでいる。図1に示すとおり、SUNはスマートメータシステムのみならず、センサネットワーク等の多様な用途への有効性が予想される。本稿では、省電力マルチホップ通信技術に関する研究開発と、漁業、農業への適用実証について述べる。省電力マルチホップ通信技術の概要2.1省電力MAC方式の概要図2に、本研究開発において適用する省電力MAC122-4 農業・漁業センシング等に有効な省電力グリッド技術の研究開発児島史秀本報告では、複数の無線端末が網目(グリッド)状の接続トポロジを構成し動作するワイヤレスグリッド構造の一動作形態であり、各端末が電池駆動である状況等に有効な省電力動作に関する研究開発について述べる。本研究開発では、省電力動作を実現するために、スリープ期間を活用した省電力MAC制御を実現しながら、端末同士で通信の中継を行う、省電力マルチホップ通信形態の実装について検討した。具体的には、国際標準規格IEEE 802.15.4eにて定義される省電力スーパフレーム構造を適用し、無線パーソナルエリアネットワーク(PAN:Personal Area Network)を構成する各端末が時間同期を取りながら間欠的待受けを行うことで、ネットワーク全体の消費電力を低減し、適切なツリー形状の中継通信マルチホップ通信を実現した。その結果、理論上では単三型乾電池3本程度の電池容量で、10年以上の動作が可能である省電力マルチホップ動作のための技術仕様を策定するとともに、本仕様を具備する省電力無線機を開発し、動作実証を行った。また、本無線機の活用事例として、当該無線機搭載センサブイによる、もずく養殖場における定期的な水温・塩分濃度センシングを行った。さらに、漁業分野のみならず、農業分野における水管理業務への当該無線機の適用について検討し、圃場水位等の情報の省電力センシングと、ポンプ等の農業用機器の低遅延制御が両立されるような省電力無線機の設定について検討し、実証した。232 地上通信技術の研究開発

元のページ  ../index.html#27

このブックを見る