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まえがき製造現場での各製造システムの配置やラインの長さ及び製造に用いる機器などは、生産量の変化、製造工程の改善、製造する製品の変更などによって刻一刻と変化する。また、設備投資を最低限に抑えるため、部分的に新システムに置き換えられていく場合が多く、製造現場における無線化は局所的に進行する傾向がある。さらに、各製造システムを構築するメーカーが異なり、必要最低限の情報共有のみで個別にシステム開発を行うため、無線帯域の利用や無線化された各機器の同一空間内での共存などが考慮されずに設計される現状がある。加えて、無線通信機などを搭載したセンサーなどのデバイスの小型化、高性能化、低価格化に伴い、生産性や品質向上を目的にこれまで人手で取得していたデータや取得不可能だったデータの取得、移動体の制御や管理にも利用が検討され始めている。一方で、ある製造システムに部分的に無線が導入され、その利便性が認識され導入に対する懸念事項が薄らぐと、徐々に製造現場全体の無線化が進む。しかし、無線化が進むとそれまで潜んでいた製造現場で無線通信を利用する際の課題が顕在化する[7]。例えば、Wi-Fiを用いたAGV(Automatic guided vehicle)の制御では、制御データの欠落・遅延は、AGVが運搬する製造品の次工程への到着遅れやAGV同士の衝突などの問題を引き起こす場合がある。生産性を維持するためには、これらの問題が発生した場合、発生原因を特定したうえで対処し、製造ラインをできるだけ短時間で復旧させることが必要となる。NICTでは、2年以上にわたり、稼働中の工場における多種類の無線通信性能評価実験を行っており(図1)、製造現場における環境と用途に応じた適応的無線制御方式の実現を目指している[2]–[7]。本活動は、Flexible Factory Projectとして、複数の企業と業界の垣根を越えて協力しながら実施している[8]。本稿では、実証実験により顕在化した、製造現場における無線通信技術の課題と現状及び無線通信システムを利用した製造機器を安心して導入するための必須事項について述べる。製造現場における無線通信技術のの課題これまでの実験等を通して、製造現場において無線通信技術を使いこなすためには、大きく3つの課題がある。(1)ダイナミックな無線環境の変化製造現場には金属体などの遮蔽物が多く、人やものなどが移動する。また、狭く閉じられた空間であるた12図1 Flexible Factory Project 実験の様子2-6 無線通信技術を活用したスマート工場実現に向けて板谷聡子これまで製造現場における通信は、制御信頼性の観点から有線通信が主流であったが、近年の製品開発サイクルの短期間化[1]の影響から、機器の配置やラインの構築に柔軟性が求められるようになってきており、無線通信への期待が高まっている。国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は、製造現場でIoT化を推進し、無線通信を活用したスマート工場実現のため、Flexible Factory Projectのメンバーである複数の民間企業と共に、製造現場における環境と用途に応じた適応的無線制御方式の実現に向け、稼働中の工場における多種類の無線通信性能評価実験を行ってきた[2]–[7]。プロジェクトは2015年6月にスタートし、現在も継続中である。本稿では、実証実験により顕在化した、製造現場における無線の課題と現状及び無線通信システムを利用した製造機器を安心して導入できるようにするための必須事項について述べる。352 地上通信技術の研究開発

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