HTML5 Webook
42/168

ため、システムのみでデータ欠損やデータ受信までの遅延時間が最適化されるよう設計され、同一パケットの大量生成や再送で通信品質をカバーしようとする。以下、具体例を挙げて説明する。図6は実験を行った製造現場のラインの動作概略図である。実験を行ったのは、大きな部品が1つ入り、製品が出来上がると製品が1つラインから出る“1個流しライン”である。これは1つの大きな部品の一部を構成する部品①と、それを取り付ける大きな前工程の部品②が、それぞれ別工程から自動搬送機により運ばれ、ラインの入り口で1つの大きな部品(部品③)に組み上げられ、ラインに投入される。さらに、他の部品と組み合わされ、ライン終了時に部品④となって次の工程へ移る。実験に使用する機材は、高さ150 cmのラックに機材を配置し、送信側/受信側を1対とし、見通しのある場合(LOS環境)と見通しのない場合(NLOS環境)について、測定を実施した。LOS環境の送信側/受信側間の距離約15 m、NLOS環境の距離は約25 mである。無線LANはOpenWRT 4.1.1で動作する無線メッシュルータRMR9000[9]で、ath5kベースの無線LANドライバにより動作させた。通信実験については、送信側から受信側へブロードキャスト通信を一定時間行った。遅延時間を計測するために、受信側で受信したデータを有線LAN経由で送信側へ送信し、送受信同じ端末の時刻を用いて測定した。有線LANを用いた場合の最大のRTT(Round Trip Time)は、数百μsecであるため、無視できると考えられる。自動搬送機の制御データはIEEE 802.11aを用いてやり取りされているが、制御用に使われているチャネルの占有率は数%程度である。図7は、自動搬送機の制御用データがやり取りされるのと同じチャネルで、54 Byteのデータを10 msec間隔で20分にわたって6 Mbpsで送信した際の遅延時間である。実験データが平均的に5 msec以下で送信できているが、周期的に平均的な遅延時間に比べて長い遅延がまとまって発生しているのがわかる。データ分析の結果、この長い遅延は2つの自動搬送機の発信制御信号の送信と同期していることがわかった。自動搬送機の停止はライン自体の停止になることから、発進制御パケットを複数送信することでシステムのロバスト性を高める手法を採用しているために起こる現象である。現状、問題なく動作しているが、周辺に同一周波数帯を使う他のシステムや新たな自動搬送機の増加した場合に、平均的に見れば帯域が十分空いているにも関わらず、通信不能になる場合があると想定される。 ③-2 Application Specific Optimization Stageこれまで人手で収集していたデータや、取得できていなかった情報を自動収集することにより取得した新しい知見を活用し、工程や運用の改善や予防保全を行うことの用途で無線システムが導入されたステージである。長期観測や大規模なデータ及び分析等の技術が必要となる。Wi-SUN[10]をはじめとする920 MHz帯の利活用への注目、各種センサーデバイスの小型化や低コスト化に伴い製造現場において期待が高まっており、付加価値提供のための導入が検討され始めている。このタイプのアプリケーションが無線帯域を他のシステムと共用していることを意識せずに設計・導入されると、既に導入されている同一周波数帯を用いている製造システムや、今後導入される他のシステムの安定運用を妨げる可能性があるとともに、自身のシステムが他のシステムからの影響を受けることで、本来の機能が発揮できない危険性がある。無線通信システムを製造現場で安心して使うために     製造現場で新しい無線通信システム導入がされる際、ユーザー側は次の4つの点を重要視する。まず第1に、仕組みが分からないものや全自動はあまり好まれない傾向にある。これは、ユーザー側も技術者であることに起因するといわれるが、システムの仕組みを現場が理解できること、また、不具合発生時に問題個所が特定できる、もしくは特定しやすいシステム構造になっている必要がある。次に、製造現場において設備投資は製品価格に影響を与えることから、総入替えではなく、部分入替えが可能であることが重要である。製造現場におけるシステム全体を入れ替えなければ効果が得られない技術の導入は、なかなか進まない。さらに、製造現場稼働中に何が起こっているのか、何が起こる4図7 自動搬送機制御チャネルにおける実験データの遅延時間38   情報通信研究機構研究報告 Vol. 63 No. 2 (2017)2 地上通信技術の研究開発

元のページ  ../index.html#42

このブックを見る