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まえがき通信端末同士が直接通信する端末間通信に対して、3GPP [1]やIEEE802 [2]などにおいて標準規格の策定が進められる一方、ヘテロジニアス・ネットワークのコンポーネントの1つとして様々な研究開発が行われている[3]–[6]。セルラーネットワークなどを一部利用したDevice-to-Device (D2D)のようなインフラ利用型端末間通信[4][5]と、Peer-Aware-Communication (PAC)のような自律型端末間通信[6]がそれぞれ検討されている。通信端末同士が直接通信するため、セルラー等の既存ワイヤレスネットワークの負荷を低減し、送信端末のアンテナが送信してから、受信端末のアンテナが受信するまでの通信遅延を減らすなどの可能性を生み出す一方、ホット・スポットに対するスループットの改善にも役立つ。さらに、端末間通信のIoTやモバイル・ソシャール・ネットワークにおける役割などの研究も行われている[7][8]。筆者らは地域内を移動するコミュニティバスに着目し、端末間通信の基本方式であるブロードキャストを用いて、地域情報を共有するための端末間通信ネットワーク・テストベッドを開発した[9][10]。東京都港区と京都府精華町のご協力の下、2014年に港区が運行するコミュニティバス「お台場レインボーバス」と、精華町が運行するコミュニティバス「精華くるりんバス」及びそれぞれのバス沿線にテストベッドを展開し、実証実験を行ってきた。コミュニティバスに搭載した通信端末は、バスの移動に伴ってバス路線沿線に展開している他の通信端末との間で情報の集配信が行われ、地域行政情報やイベント広告など、地域コミュニティが必要とする様々な情報の共有に活用している。その後、テストベッドに冗長性を持たせ、バス搭載の通信端末から送信されるバス位置情報を精華くるりんバス全路線で受信し、バスロケーション案内を実現した。以下では、2017年7月現在の端末間通信テストベッドを基準に、開発した端末間通信の特徴、テストベッドの試験端末構成及びテストベッドの展開と実証実験の順で記述する。端末間通信のコンセプトと特徴今回開発した端末間通信のコンセプトを図1で説明する。サイネージ端末をはじめ、屋上端末やセンサ端末などの形態の異なる試験端末を開発しているが、各試験端末には送受信を行う通信端末と試験端末の用途に応じたディスプレー等の周辺装置及びインタフェースが含まれている。ネットワーク形成の観点からは、ネットワークの中で中央制御する通信端末が存在せず、全ての通信端末が同じ働きをする。送信する通信端末間は後述の通信プロトコルに従って、定められたタイムスロットでブロードキャストにて情報を送信し、通信範囲にある他の通信端末はブロードキャストされた情報を受信する。コミュニティバス搭載のサイネージ端末の中の通信端末は、地域内を走行しながらバス路線沿線に展開している他の試験端末に含まれる通信端末と繰り返し送122-7 地域情報共有のための端末間通信ネットワークの開発と実証李 還幇 単 麟 三浦 龍 松田隆志 児島史秀 大和田泰伯 井上真杉NICTは地域情報共有のための端末間通信ネットワーク・テストベッドを開発し、東京都港区と京都府精華町のご協力の下、2014年に港区が運行するコミュニティバス「お台場レインボーバス」とその沿線を市街地型環境、精華町が運行するコミュニティバス「精華くるりんバス」とその沿線を郊外地型環境として、それぞれテストベッドを展開し、実証評価実験を行ってきた。テストベッドで用いた端末間通信は中央制御を行わず、920 MHzを使用した通信端末同士が通信範囲に入れば、自律的に通信を行ってネットワークを形成するため基地局などの通信設備は不要で、通信ネットワークの一部の設備が故障や停止してもネットワーク全体への影響が少なく、災害に強いという特徴を持っている。コミュニティバスに搭載した通信端末は、バスの移動に伴ってバス路線沿線に展開している他の通信端末との間で情報の集配信が行われ、様々な地域情報共有が実現される。また、走行中の「精華くるりんバス」搭載の通信端末から送信されるバス位置情報を収集し、バスロケーション案内を実現した。端末間通信ネットワークは携帯電話などの既存の通信ネットワークから独立した地域内通信ネットワークとして、様々な利活用が期待される。412 地上通信技術の研究開発
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