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今や日々の生活において、情報インフラの活用は不可欠となっている。そのアクセス手段の多くはワイヤレス技術が担っている。近年のワイヤレスネットワーク技術の進展は著しく、移動通信の世界はLTEに代表される第4世代(4G)から第5世代(5G)に向かって進化しようとしている。3GがCDMA、4GがLTE/WiMAXという技術に紐付けられるのに対して、5Gは特定の技術を指すのではなく、多様なユーザ要求に対応する多様な技術による新たな通信環境を指す言葉であり、研究開発の対象は極めて幅広い。一方、情報の利活用の面では、IoTの進展が急速に進みつつあり、センシングデータの収集や端末や機器の動作制御(アクチュエーション)にもワイヤレス技術は不可欠である。IoTでは、人のいない場所でのセンシングやアクチュエーションも重要な意味を持つことから、地上系のワイヤレスはもとより、海洋域や上空をカバーする衛星通信や無人航空機(UAV)、ドローンによる通信システムも重要である。NICTワイヤレスネットワーク総合研究センターでは、5GやIoTへの応用に不可欠なワイヤレスネットワーク技術、超高速衛星通信技術の研究開発を前中長期目標期間中から実施してきており、本特集号ではそれらの成果をまとめた。 2では、主に地上系ワイヤレスネットワーク技術について紹介している。5Gの実現に必要となる柔軟なアーキテクチャと周波数共用技術、多数デバイス接続技術、ミリ波・テラヘルツ波伝搬モデル等の研究開発成果、IoTとしての活用が有望な農業・漁業センシング用省電力グリッド通信システムやビル内センシング等に有効な大規模メッシュ構築技術、製造現場等に有効な無線通信安定化技術等の研究開発成果、さらにワイヤレスネットワークの利用環境を拡大する端末間通信システムや水中、深宇宙などの極限環境ワイヤレス技術、小型UAVを活用するワイヤレス技術の研究成果をまとめている。 3では、超高速インターネット衛星(WINDS)を用いた各種実験による実証研究の成果についてまとめている。WINDSは超高速衛星通信を実現するために宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同開発した実験衛星で、2008年2月に打上げられ、現在も各種実験に利用されている。WINDSは、固定衛星通信では世界最高速の3.2Gbps伝送に成功、直径50cmのアンテナで最大155Mbpsの受信が可能、衛星上で最高455Mbpsのスイッチング能力を有するなど、世界でもトップレベルの超高速衛星通信能力を有している。衛星及びネットワークの設計、開発に関しては、情報通信研究機構季報vol.53, no.4を参照いただきたい。本特集号では、WINDS基本実験の総括をはじめとして、降雨減水補償実験、災害対策実験、地上網接続実験、直交周波数分割多重変調伝送実験、SHV伝送実験、APAA健全性確認実験、航空機通信実験、Ka帯多値変調信号伝送実験、洋上通信実験、陸上移動通信実験、高速データ伝送プロトコル実験など、通信方式、アプリケーション実証、搭載機器健全性確認に関する多様な実験結果について報告する。5GやIoTに関しては、多くの企業や大学なども多様な技術開発に取り組んでおり、これからも多様な技術が登場することが期待されている。NICTは、それらの企業、大学などと連携し、5GやIoTの利活用を推進するとともに、更に将来を見据えた長期的な研究開発に取り組む所存である。最後に、本特集号で紹介した多様な技術の研究開発においては、総務省、JAXAをはじめ多くの企業、大学、その他の関係機関のご協力、ご支援がなくては成立し得なかったものであり、ここに感謝申し上げます。門脇直人 (かどわき なおと)情報通信研究機構理事博士(情報科学)衛星通信、無線通信1 緒言 地上通信技術及び超高速衛星通信技術特集について門脇直人11 緒言 地上通信技術及び超高速衛星通信技術特集について

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