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約500 kgである。海水表面からの深度500 mの水圧にも耐えられるように設計している。チャネルサウンダの主な構成としては、送受信を行う測定用海中アンテナと、接続するアンテナを切り替えるためのスイッチ(アンテナ切替機)、アンテナ間の電波伝搬特性の測定を行うベクトルネットワークアナライザによって構成される。海中アンテナは、送信用として1台、受信用として3台(60 cm間隔で配置)を台座上に設置している。送受信アンテナ間の間隔は最大約2 mまで変更できる。これによって、海中ワイヤレス伝送方式の設計に必要となる、送信距離に対する送受信アンテナ間の伝搬損失及び位相回転量を計測することができる。また、送信用アンテナは1次元ポジショナ(Yステージ)上に設置されており、送信源の位置を変えて電波を発射することが可能であることから、3台の受信用アンテナを用いた海中における波源の方向推定実験が行える。この実験結果は、海底下レーダ等における信号処理技術を確立するうえで重要になる。海中チャネルサウンダには、電波伝搬測定系のほか、海水の電気的特性を計測するためのCTD計、チャネルサウンダの傾斜を計測するための3軸傾斜センサ、測定系を監視するための水中カメラ、これを駆動するための電源(バッテリー)を具備する。これらの機器はすべて光ケーブルによって船上の制御装置と接続されて、制御・データ転送が遠隔から行えるようにしている。海中チャネルサウンダにおいて利用する海中アンテナの外観を図3に示す。海中アンテナは、真水を注入した円筒容器内(サイズ:直径320mm、高さ:253mm)にマグネチックループアンテナ(図中の黒いエレメント部分)を配置して構成する。真水の層は、エレメントに対する水圧の影響を緩和させる役割を持つとともに、海水との電気的整合を向上させることを目的として設けている。このアンテナの共振周波数帯(海水中)は10 MHzである。これは、海中チャネルサウンダの送受アンテナ間距離においても、放射電磁界の測定が可能となる周波数帯として選定した。このアンテナの通過帯域幅は、VSWR2.0以下となる周波数帯域幅とすると、約45 kHzである。2.2 計測結果の例 [4]-[7] 開発した海中における電波伝搬測定系の機能検証を目的として、JAMSTECが所有する大型水槽施設(長さ40 m、幅4 m、深さ2 m)において、水中における測定を行った。図4に機能検証時の様子を示す。この検証は、水中における測定であることから、送受信アンテナ間距離を2 m以上に離隔するため、海中チャネルサウンダのフレームから取り外して測定を行った。図5に測定結果の一部を示す。送信・受信アンテナ間距離に対する相対的な電力レベル(距離0.1 mにおける受信信号電力を0 dBと定義)の測定結果を示す。測定用アンテナの深度を1 m(青色の実線)と1.9m(赤色の実線)とした場合について測定を行った。測定結果からは、距離が約2 mまでは、淡水における電力減衰量の理論値(緑色の破線)に従って、測定結果の電力レベルも減衰することを確認した。2m以上の距離においては、フロアが生じていることがわかる。この原因を考察するために、各深度に対して、測定した信号波形から信号強度の遅延特性を求めた。その結果、深度1 mの際には、距離が3 m以上となる場合、1サンプル分の同期点(送信波形と受信波形との相関値が最大となるタイミング)の遅れが生じることがわかった。深度1.9 mの際には、送受信機間距離に対して、このような同期ずれは生じていない。これは遅延波による影響と考えられることから、深度1mにおいてフロアが生じているのは、水面方向からの遅延波によるものと考えられる。また、水中における電波の到来方向推定実験も併せて実施した。その結果として、MUSICアルゴリズムによる到来方向推定結果を図6に示す。周波数として図3 開発した海中アンテナの外観図4 大型水槽施設を利用した海中チャネルサウンダの機能検証50   情報通信研究機構研究報告 Vol. 63 No. 2 (2017)2 地上通信技術の研究開発

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