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はじめに地震、津波、洪水などの広域災害では、道路等の破壊による交通マヒだけでなく、通信設備の破壊や停電により、普段当たり前のように使用していた通信網が使えなくなることで、情報通信の孤立地域が数多く発生する。通信が孤立すると、現地の住民の安否確認ができないだけでなく、被災状況が把握できずに救援活動が遅れたり、不足物資の把握ができないなどの事態が発生する。このような状況下で、いち早く情報孤立地域との間の臨時通信回線を確保するための手段として、2012年に海外より小型無人機を導入した。当時は、まだ無人航空機(UAV)やドローンという名称・技術は国内ではあまり知られていなかったが、我々が導入したのは滑走路が不要、手軽に持ち運べて必要な時に迅速な展開、2時間程度の長時間飛行、電波がつながった状態での目視外飛行が可能と、その時点で世界の最先端レベルともいえる電動固定翼型の小型無人機であった。これに無線中継器を搭載して飛行させることで、“空飛ぶ電波タワー”として活用する無線中継システムを開発し、全国各地にて自治体等と連携しながら防災等を想定した実証実験を実施するとともに、様々な飛行環境におけるその電波伝搬や通信品質に関するデータ等を収集し解析を行ってきた。小型無人機はその後、特にマルチロータ型のものを中心に、ドローンという呼称が一般的となり、ホビー用、業務用の両面においてここ数年で急速に普及してきた。特に空撮、物流、インフラ管理及び災害対策等の分野でのニーズ拡大が著しく、“空の産業革命”ともいわれ、5年後の2022年での国内市場規模は2000億円規模、世界では10兆円規模ともいわれるようになった。政府のロボット革命実現会議は平成 27 年1月に「ロボット新戦略」を発表し、また平成27年12月には無人機に関する条文が盛り込まれた改正航空法が施行され、法制面での基盤も強化されるとともに、技術開発と環境整備の両面にわたり産業成長を促進するためのロードマップが策定された。一方、3次元空間を自由に飛び回る特性をもつ小型無人機は、その制御や状態把握には無線が不可欠であり、これをいかに高信頼化し使いやすくしていくかが上記各産業分野での無人機の安全性向上と普及・拡大にとって重要な課題である。しかし、これまでの小型無人機が用いる無線システムは、業務用であっても主にホビー(ラジコン)の延長線上にあり、安くて手軽12-9 小型無人航空機におけるワイヤレス通信技術の研究開発~空の IoT 実現に向けて~三浦 龍 小野文枝 加川敏規 単 麟 辻 宏之 李 還幇 松田隆志 滝沢賢一 児島史秀小型無人航空機(以下、小型無人機)は、ドローン(本来、“ドローン”は大型・小型を問わず、無人機一般を意味して使われている)とも呼ばれるが、空撮や測量を中心に急速に普及しつつあり、今後はインフラ点検、物流、災害等の分野での活用も見込まれて市場は更に成長すると見られ、「空の産業革命」であるともいわれている。一方、安全性という観点では、よく利用されているマルチロータ型のドローンはまだまだ未熟であり、その向上は今後の普及のカギを握っているとも言われる。ドローンの安全な操縦や状態監視には信頼性の高い無線が不可欠であるが、現在運用されているドローンの無線のほとんどは、ホビー用のラジコンからきたものであり、高信頼が要求される業務用として適したものではない。我々のグループでは、4年ほど前から災害時の通信確保のための手段の1つとして、固定翼型の小型無人機を導入し、“空飛ぶ電波タワー”とするための研究開発と実証実験を実施し、その電波伝搬特性の解明を行ってきた。また、その経験とノウハウに基づき、さらに国の電波関連の法制度の改正に合わせ、マルチロータ型も含む小型無人機の産業応用の拡大に不可欠な、高信頼な運用を可能とする無線方式の基本技術の提案と研究開発を行ってきた。今後もこれらの成果を更に拡張・発展させ、空のIoT、空の産業革命の実現に寄与していきたいと考えている。532 地上通信技術の研究開発
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