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であるのとは裏腹に、無線が遠くまで届かない、遮蔽物の影響や電波等の干渉を受けるリスクがある、無線が届かない状態では途中でコントロールが効かない完全自律飛行(オートパイロット)に頼らざるを得ないなど、信頼性の観点で問題があった。我々のグループでは、これまで小型固定翼型無人機で培ってきた無線の技術やノウハウを生かし、マルチロータ型を含む小型無人機を電波が直接届かない見通し外で制御する技術及び異なる操縦者に属する小型無人機間でそれぞれの位置情報を共有して、安全運航につなげる技術の開発と実証を行い、成果を挙げてきた。こうした活動と並行して、国際民間航空機関(ICAO)やアジア太平洋無線グループ(AWG)等での国際標準化への寄与や、総務省による国内初めての本格的なロボット(無人移動体)のための周波数割当ての活動も支援してきた。本稿では、初めての本格的な小型無人機の導入・運用から最近の成果に至る活動について報告する。災害時の通信確保のための 無線中継システムの開発と実証1.システム概要我々のグループでは、2011年3月の東日本大震災での甚大な通信インフラの被害と数多くの集落や避難所の通信が孤立した事実を踏まえ、被災直後の一時的かつ部分的な通信確保に役立てることを目指し、2012年、電動固定翼型の米国製小型無人機の1つであるPuma-AE[1]を3機導入し、これに搭載して“空飛ぶ電波タワー”とするための小型軽量な無線中継ユニットと地上局装置とで構成される無線中継システムを開発した[2](図1)。このシステムは、高度数100 m の上空を定点旋回飛行する小型無人機により途中の建物や山などの障害物の影響を受けることなく、地上の離れた2 地点を無線で結ぶ。また、小型無人機2機を同時に飛行させて、2機間を上空でリレー中継することで、更に遠くの地点と結ぶことも可能である(図 2)。開発した無人機搭載用の無線中継ユニットは、一辺が約10 ㎝程度の無人機のペイロード用スペースに専用バッテリとともに収納され、重量は約500 g弱(バッテリ含む)である。周波数は2 GHz帯(実験試験局免許)、送信出力は2 W、変調方式はMSKで、1時間半程度の動作が可能である。1チャネルをTDMA/TDD で使用し、誤り訂正符号化率は1/2 であるため、実効通信速度は 400 kbps程度であるが、無人機と地上局間の通信距離は15 km以上が可能であることを確認している。2 つの地上局はいずれもLAN インタフェースを備えており、一方を無線LANのアクセスポイントとし、もう一方をインターネット回線に接続することにより無人機を介して孤立地域等に臨時の無線 LAN(Wi-Fi)ゾーンを手軽に形成することができる。通信内容としては、メール、IP電話や安否確認などのアプリケーションが利用できる。また後述するように、無線LANの代わりに携帯電話ネットワークの超小型基地局である“フェムトセル”との接続による携帯電話バックホール回線中継にも成功している。Puma-AE は、主翼の長さが2.8 m、全長が1.4 m、重さは5.9 kgの電動固定翼型の小型無人機である。1回の飛行時間は2~3時間で、あらかじめ決められた経路に沿ってゆっくり長時間の自律飛行が可能である。発進・離陸は適当な広さのグランドか空き地から手投げで行う(図3)か、スプリング式のランチャーで行う。飛行機や地上局は防水仕様のため、雨天での飛行も問題ない。機体制御用の無線システムは、導入当初は2 GHz帯を使用し、制御信号やコマンド信号、テレメトリ信号だけでなく、搭載カメラの映像も30FPSのVGA画質で伝送される。無人機局、地上2図2 2機の小型無人機のリレーによる無線中継地上局‐AWi‐Fiゾーン地上局‐Bネットワーク生存地域(役場等)インターネット等家族が取り残される小型無人機スマホ・PC等無人機の出動により家族の安否が確認される孤立集落、避難所など無人機を経由してWi‐Fiがつながり,安否発信やメール・電話ができる迅速に展開可能図1導入した小型無人機 Puma-AE と開発した無人機搭載用無線中継ユニットと地上局54 情報通信研究機構研究報告 Vol. 63 No. 2 (2017)2 地上通信技術の研究開発
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