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制御局ともに出力1 Wが出せる実験試験局免許で運用しており、コマンド・テレメトリ・映像を伝送する無線の到達距離は、見通し条件であれば15 km以上に達する。ラジコンやマルチロータ型無人機等で最もよく使われている免許不要・小電力の2.4 GHz 帯は使用していない。また手元のハンドコントローラには機体のテレメトリ情報や搭載カメラ映像がリアルタイムで表示されるため、操縦者から機体が直接目視できなくても、電波が常につながった状態で、有人航空機でいう「計器飛行」と同様な目視外飛行が可能である。一方、無人機を制御するための周波数の1つとして、国際的にはITUの2012 年世界無線通信会議(WRC-12)において5 GHz 帯(5030~5091 MHz)の利用が合意されている[3]。しかし、これを実際に利用可能とするためには、その伝搬特性や同一帯域内あるいは隣接帯域間での干渉回避と周波数を共用するための技術開発と技術基準の策定が必要である。この作業に貢献するべく、導入した無人機3 機のうちの2機の制御用無線を5 GHz帯(2GHz帯と同一の出力と帯域)に変更して実験試験局免許を取得、飛行運用しながら伝搬データの取得等を実施している。伝搬距離は8 km 程度までと短くなるものの、2 GHz 帯とほぼ変わらない安定性で飛行している。近年、民生用として市場に出回っている小型無人機としては、マルチロータ型がほとんどであるが、通信中継に利用する場合はできるだけ長時間上空にとどまる必要があるため、15~20分程度の飛行時間しかもたないものが未だほとんどであるマルチロータ型より2時間以上飛行できる固定翼型が適していると考えられる。2.実証実験開発したシステムの初フライト・初運用は、2013年3月25・26日に仙台で開催された「耐災害 ICT研究シンポジウム」において実施した公開実証実験である。この実験では、東北大学キャンパス内に別途設置した「耐災害ワイヤレスメッシュネットワーク」のテストベッドに接続し、遠方にある孤立地域との間の安否情報やメールなどのやりとりが、インターネット接続が失われた状況にあっても無人機を介して可能であることを実証した。以来、2017年3月までの間に各地において200回以上、延べ100時間以上のフライト実験を行い、性能の検証、電波伝搬特性の測定、自治体等へのデモンストレーション、防災訓練への参加、さらには上空における電波環境測定や電波伝搬測定等を行ってきた(図4)。以下、これまで実施した数多くのフライト実験の中から仙台と高知での実験について紹介する。(a)長距離通信実験(宮城県仙台市)この実験では、東北大学の青葉山新キャンパス造成地の上空(海抜高度750 m)にPuma-AEを旋回飛行させ、仙台市街を挟んで、太平洋岸方向のエリアにおいて、地上の受信局を仙台市が避難所に指定する小中学校や病院等の位置に設置し、最大14kmまでの距離での2 GHz 帯の伝搬特性とスループット特性の測定を行った(図5)。この測定では、市街地の建物等による散乱の影響が観測され、単純な自由空間伝搬に比べて通信品質の劣化が確認されており、距離10 km ほどの地点において、3割程度までのスループット低下が確認されている。なお、別途北海道で実施した長距離通信試験(地面は森林や牧草地)では、散乱の影響が減少し、最大20kmまで通信可能であることを確認している。(b)フェムトセル・衛星通信と連携した携帯電話中継実験(高知県四万十町)地上の携帯電話ネットワークが障害を受けたことを想定し、フェムトセルと呼ばれる超小型携帯電話基地局(通話可能エリアは半径数10 m程度)と無人機及び衛星の無線回線(高速インターネット衛星 WINDS)を活用して携帯電話を一時的に使用可能図4 これまでの主な実証実験実績北海道芽室町(農業ICT応用実験)2014年6月北海道⼤樹町(⻑距離通信実験等)2013年6月、11月東北⼤学⻘葉⼭(災害時中継実験、東北⼤学オープンキャンパス連携実験)2013年3月、7月、2014年7月⼤利根⾶⾏場(テレビ東京WBS取材)2013年12月湘南国際村(フライト訓練)2013年3月和歌⼭県白浜町(災害時中継実験、NHKニュースウォッチ9取材)2014年3月香川県坂出市(さぬきメディカルラリー・災害救助訓練等)2014年5月、2015年5月、2016年3月合計200回以上、100時間以上のフライトを実施※各実験ごとに航空法に基づく飛行許可申請あるいは通報の手続きを実施福島県富岡町(居住制限区域での野生イノシシ信号捕捉実験)2014年10月高知県四万十町(山間部でのフェムトセル中継実験、NHKニュースウォッチ9取材)2015年2月岩⼿県奥州市・⾦ヶ崎町(岩手県総合防災訓練)2015年7月福島スカイパーク(無線通信実験)2015年12月徳島県佐那河内村(野生サル信号捕捉実験)2016年6月熊本県人吉市(林業ICT基礎実験)2016年11月図3 無線中継用小型無人機の手投げ発進552-9 小型無人航空機におけるワイヤレス通信技術の研究開発~空の IoT 実現に向けて~
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