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にする実験を行った[4](図6)。実験は四国総合通信局が主催し、高知県四万十町の協力の下、携帯電話各社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル)及びNICTが2015年2月に実施した。場所は、典型的な中山間地域である高知県四万十町にある山間部の集落で、実際に携帯電話がまだエリア圏外である場所にフェムトセル基地局や無人機中継地上局、WINDSの車載衛星地球局を配置して行われた。山あいで刈取り後の田地のわずかなスペースを使い、沢に沿って離陸上昇させるコースを選定した。無線中継を行う飛行旋回場所は、離陸地点からの高度差約1000 m、水平距離で約2km 離れたエリアとした(無線が接続された状態での目視外飛行)。フェムトセル基地局からの信号は、無人機と衛星回線経由で携帯電話のネットワークに接続した。通信容量が限られ、また無人機の位置や姿勢によって若干回線が不安定ではあったものの、実験では双方向音声通話に成功し、空と宇宙のリレーによって携帯電話による通話が可能であることを世界で初めて技術的に実証した。以上の実証実験のほか、自治体との協力の下、上空からの有害鳥獣の行動把握のために小型無人機を活用して、イノシシ(福島県)やサル(徳島県)に取り付けたGPS付小型発信器の信号を上空でとらえて地上にその行動軌跡データを伝送する実験なども実施したが、まだいくつかのシステム上の改善課題が残されており、今後更に検討を進める予定である。また、福島県南相馬市に災害用ロボットや無人機等の性能評価のための「福島ロボットテストフィールド」の整備を進めている福島県より、(株)日立ハイテクソリューションズを通じて当該フィールド周辺の海岸線合計約13 kmの区間における上空での電波環境計測作業を受託し、2017年2月、長時間かつ目視外飛行(無線は接続された状態での飛行)が可能な Puma-AEを使った電波計測を実施した[5]。この計測では、Puma-AE のペイロードシェルに小型スペクトラムアナライザーを搭載し、上記13 kmを4 km程度の3つの区間に分割して飛行させ、対地高度100 m及び150 mにおける169 MHz帯、920 MHz帯、2.4 GHz帯、5.7GHz帯の各バンドのノイズレベルを測定し、その結果は福島県のホームページに掲載された[6]。なお、この飛行は、改正航空法に基づく「飛行の方法に寄らない飛行」(すなわち本件の場合は目視外飛行)の飛行承認を国土交通省より得て実施している。後述する総務省からの受託研究での活用も同様であるが、Puma-AE は、このような広域にわたる上空での電波環境計測、電波伝搬特性計測にも適しており、今後も引き続き活用していく予定である。総務省受託研究の実施無人機の活用に向けた動きが世界的にも高まる中、2012年の世界無線通信会議(WRC-12)においては、前節で述べたように、無人機を制御(コマンド送信)・監視(テレメトリ受信)するための周波数(非ペイロード用通信:CNPCリンクあるいはC2リンク)として5 GHz帯(5030~5091 MHz)の使用が合意され、また2015年の会議(WRC-15)では無人機と衛星を結ぶ周波数(Ku/Ka帯等)の利用が条件付きで承認された。しかしながら、5 GHz 帯は既にひっ迫しており、同一周波数帯の地上の無線アクセスシステムや隣接周波数帯の空港無線アクセスシステム等との共用条件や干渉回避が必要となっているほか、衛星とのリンクについても他の衛星回線との干渉を回避する必要があり、定量的な電波伝搬モデルや干渉状況の把握及び干渉軽減技術の研究開発が喫緊の課題となっていた。また、高信頼かつ周波数資源を効率的に利用可能な無線通信3図5 市街地での長距離通信実験(2013 年7月、宮城県仙台市)図6 空と宇宙のリレーによる携帯電話中継実験(2015 年2月、高知県四万十町) 仙台市の指定避難所ごとのスループットを測定10km83.7kbpa14km12km32.6kbps6km8km49.2kbps4km93.7kbps無人機旋回ポイント(東北大学青葉山キャンパス)太平洋荒浜小学校郡山中学校(11400名収容)七郷中学校(8800名収容)東北大学片平キャンパス(5300名収容)厚生年金病院付近(14700名収容)海抜高度750m通信速度はUDP伝送時の実効データ計測結果の平均値(送出レート100kbps)フェムトセル通話ゾーン小型無人機Puma‐AE(海抜高度1000m)超高速インターネット衛星(WINDS)インターネットNICT鹿嶋宇宙技術センター(茨城県鹿嶋市)災害時孤立想定地域車載衛星地球局携帯電話各社のネットワーク初めて携帯電話の中継を実証フェムトセル基地局56 情報通信研究機構研究報告 Vol. 63 No. 2 (2017)2 地上通信技術の研究開発
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