HTML5 Webook
64/168
があり、実用化に当たっては、ある程度飛行エリア等の条件がつく可能性があるとともに、災害時に地上インフラが障害を受けた場合の利用にも課題がある。また当然、通信料金がかかる。(2)については、すでに一部、インマルサット衛星を使ったシステム等が製品化されており、衛星のカバーエリアであれば、海・山など場所を問わないグローバルな無人機の運用が可能である。ただし、資金の少ないユーザにとってはコストの問題があり、また衛星通信装置を搭載するための無人機も大型のものが必要になる。(3)については、他の2つの手段に比べて低コストが期待できるものである。これまでも、中継によるロボット制御の技術はあったが、インターネット用として設計された無線 LAN の技術をベースにしているため、ロボット制御に必ずしも適しておらず、中継経路が切り替わるたびに通信が数 100ミリ秒~1秒以上切断され、その間制御が一時中断するとともに、制御コマンドを発してからそれをロボット側が受信するまでの応答遅延時間(レイテンシ)が保証されないという問題があった。本研究では、見通し外のロボットを中継用ロボット経由で制御・監視する状況(図11) を想定して “ロボットの制御用”であることに特化し、“中継伝送すること”を前提として、レイテンシを一定値以内に保ち、かつ、通信信号どうしが互いに干渉しないことを両立させた新たなアクセス制御プロトコルを設計・開発した[17]。具体的には、制御局―中継局間、中継局―中継局間、あるいは中継局―ロボット局間などの各経路に対し、通信信号をやりとりする時間のスロットをあらかじめ割り振る「時分割多元接続(TDMA)」方式をロボット制御用として採用し、レイテンシを保証した。また、従来の通信方式で行われていた通信開始前の中継経路の探索や設定などの手順をなくし、異なる経路を経由して受信される信号を TDMA 方式の各スロットで常にすべて受信し、受信側にてどちらか強い信号あるいは決められた優先順位に従った信号だけを受け取るという手法をロボット制御用の中継方式として初めて採用した。これらの技術により、これまで条件によって変動していた中継局を経由した場合のレイテンシを、今回の開発装置では制御データの送信周期(約60ミリ秒)以内に抑え、制御の不安定化の回避を可能にするとともに、中継経路がロボットの移動によって変更された時に発生する通信の切断時間を従来の1/10以下に抑えた。すなわち、途中の中継局を経由してもロボットが受信する制御データの“鮮度”を一定以内に保つことを可能にした。我々はこの技術を、電波の遮蔽に強く、かつ災害時にも使えるということで、「タフ・ワイヤレス」と呼んでいる。開発した無線装置は、920 MHz 帯特定小電力無線局(ARIB STD-T108準拠)を制御信号とテレメトリ信号の双方向で使用しており、技術基準が許容する範囲内で帯域幅200 kHzのチャネルを5チャンネルまで束ね、帯域1 MHzとして使用し、さらに干渉への耐性を高めるため、4つ周波数を順番に切り替えながら使用している。これを用いて実施した屋外におけるフィールド実証実験(2016 年6・11月及び2017年6月)では、操縦者から見て目視外かつ直接電波見通し外にある小型四輪ロボットやマルチロータ型小型無人機の安定な遠隔制御及びそのテレメトリ信号受信に成功した。中継局は、上空約20~30 mでホバリングする別のマルチロータ機に搭載した。樹木や地形の陰になるまで制御対象となる無人機の高度を下げた後、それを再び上昇させたり、それらの陰から無人機を始動し、離陸上昇させたりできることを確認した(図12)。なお、本飛行試験はPuma-AEの目視外飛行と同様、改正航空法に基づく飛行承認を得て実施した。今のところ、まだ見通し外の無人機から映像を伝送するまでには至っておらず、また、920 MHz帯も映像伝送にはあまり適していないが、低品質・低レートの映像が伝送できないか、今後試作評価を進める予定である。現在、無線モジュールには、920 MHz帯無線装置に加え、総務省が新たに制度化した「無人移動体画像伝送システム」のひとつ、169 MHz帯の無線装置を搭載しており、2017年6月14日に無線局免許を取得した。そして、6月17日には早速これをマルチロータ機に載せ、数10m 程度の近距離であったが、169MHz帯電波による初めての無人機と地上局との間のコマンド送信・テレメトリ受信の直接通信(1ホップ)及び中継ドローン経由の通信(2ホップ)の制御通信リンクによる飛行に成功した。その詳細は別の機会図11 ドローン・ロボットのマルチホップ中継による見通し外運用60 情報通信研究機構研究報告 Vol. 63 No. 2 (2017)2 地上通信技術の研究開発
元のページ
../index.html#64