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まえがき第5世代移動通信システム (5G)の要求条件としては、超高速、超低遅延、多数同時接続が挙げられている。5Gの通信性能としては、最高伝送速度10 Gbps、100万台/km2の接続機器数、1ミリ秒程度の遅延など、従来の移動通信システムと比較すると大きく向上した目標が挙げられている[1]。今後のInternet of Things(IoT)時代においては、 5Gの通信性能を必要とする多くのアプリケーションが新たに出現してくることが予想される。その例としては、高画質映像のオンデマンドな発信/視聴、自動車の自動運転支援やリアルタイムなロボットの遠隔操作、生活に必要なセンサ情報の収集などが挙げられる。今後、5Gは移動通信のためのシステムでありながら、社会インフラとして通信における必要性はますます大きくなり、前述のアプリケーションの実現を支える技術になると考えられる。 5Gの通信性能を全て満たす単一の無線システムを展開することは困難であることから、5Gシステムの展開は、基本的には異種無線(ヘテロジニアス無線)ネットワークの構成となり、異なる通信性能を持つ無線システムを適応的に組み合わせることになる。異なるサービス要求を満たすアクセスエリアを展開するためには、従来の移動通信システムの概念である大きなアクセスエリアを中心とした方法では対応ができず、異なる性能を持つ小出力基地局などにより、マイクロセルを場所や状況に応じてきめ細かく展開する必要がある。このような展開は、単一の通信事業者により全て対応できるとは考えにくく、複数の通信事業者が一定の規則に基づき有機的に協調するという新たな5G概念の実現が求められる。個別のサービスが要求する機能や性能は、その施設の管理者やサービス運用の主体者が最も把握している。このことから、マイクロセルの利用に当たっては、従来のように通信事業者が設置したものに加え、その主体者の意向に基づき設置されたものが、移動通信システムの性能に関して一定の信頼性を担保しながら、インフラとして統合されることが有効である。この際、通信事業者による現在の移動通信システムの運用は継続的に保障されるべきであることから、移動通信システムの設計思想に可能な限りインパクトを与えず、必要最小限のインターフェイスの拡張に限定されることが望ましい。現在、移動通信システムに向けた周波数の割当ては逼迫しており、多くのマイクロセルを運用する場合には、その周波数の割当てが問題となる。2015年11月のITUの世界無線通信会議(World Radiocommunica-tion Conference:WRC)では、2019年に開催されるWRC-19に向けて24.25–86 GHzにおいて将来のIMT向け周波数を特定する議題(議題1.13)が承認された。このことから、マイクロセルを運用するための新たな周波数の一部はミリ波帯が中心になることも考えられる。この際、マイクロセルはセル半径が小さいことが特徴であり、従来のマクロセルほどの網羅的なセル配置は期待されていない。電波伝搬の観点からは、ミリ波帯は自由空間における伝搬損失が大きく、建物等による大きな減衰が考えられる。したがって、ミリ波帯の共用による相互干渉の懸念は減少することから、各基地局に対する厳密な周波数の割当て管理は必要が無くなる可能性が高い。しかし、無数に展開されるであ12 地上通信技術の研究開発2-1 柔軟なアーキテクチャと周波数共用を実現する次世代移動通信システムに向けた研究開発石津健太郎 村上 誉 伊深和雄 児島史秀第5世代移動通信システムをはじめとする次世代の移動通信システムは、今後出現する様々な無線通信アプリケーションの通信インフラとして広く利用されることが期待される。このような移動通信システムは、あまねく広いエリアにマクロセルを展開するセルラー通信事業者に加え、利用シナリオに応じた通信性能に特化し、きめ細かく柔軟にエリアを展開するマイクロセル通信事業者の協調により構築されると考えられる。本稿では、その概念及び必要なシステムアーキテクチャを提案するとともに、プロトタイプを用いた動作検証の結果を示す。また、移動通信システムの国際ローミングにおける課題を整理する。32 地上通信技術の研究開発
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