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まえがき東日本大震災のような大規模災害において、被害を最小限に抑えるためには、発災直後から約1週間が極めて重要である。この期間中、早期に的確な災害対応を講じるには、災害に関する情報をできるだけ早く収集し、関係機関の間で共有することが望ましく、その前提となるのが通信ネットワークである。東日本大震災の発生時には、消防、警察、自衛隊等の災害対応機関が日本全国から被災地域である東北地方へ派遣され、救援活動を行った。しかし、携帯電話基地局等の通信インフラが津波による大被害を受け、関係組織間の情報共有に支障が生じた[1]。そこで、NICTの宇宙通信ネットワークグループ(当時)は東京消防庁と一緒に被災地域に入り、超高速インターネット衛星(WINDS:Wideband Internet Engineer-ing Test and Demonstration Satellite、以下、WINDSと表記)の通信網を提供した[2]。しかし、派遣場所の沿岸地域では津波による物理的な被害に加え、通信網の輻輳が発生したため、移動中の部隊と通信がほとんどできず、現地との迅速な対応や活動方針などがうまく伝えられなかったという教訓から、移動中でも通信ができる衛星通信地球局の開発の必要性が浮き彫りになった。そこで、NICTでは災害時に通信途絶の回避に活用するため、専門技術者の不要なフルオート地球局や緊急対応組織自らが移動しながら最新の被害状況をリアルタイムで収集・伝送できる小型車載局等を開発した。さらに、小型車載局には災害対応に必要な、例えば道路段差システムなどの付加機能を施すなど、地方自治体、消防等の緊急対応機関の協力を得ながら実証実験を重ねてきた。2016年の熊本地震が発生した時には、熊本県高森町に小型車載局を派遣、応急ネットワークを構築し、鹿島宇宙技術センター経由でインターネット衛星回線を提供した。本稿では、東日本大震災以降、NICTが災害対応に有効な衛星通信を目指し、開発した地球局の紹介と実証実験の内容や平成28年(2016年)熊本地震(以下、2016年熊本地震)の応急ネットワーク構築・運用について紹介する。小型車載局及びフルオート地球局の開発東日本大震災の教訓を踏まえ、災害時に簡易な操作で設置が可能な衛星通信用の小型車載局及びフルオート可搬局を開発した。 2.1小型車載局小型車載局はレドーム付きの開口径65 cmの軸対称型反射鏡アンテナ、20 Wクラスの固体化電力増幅器、3軸ジンバル機構及び変復調器などで構成されている。小型車載局は、表1及び図1に示すように一般的な車両に搭載されている。災害発生直後、緊急消防援助隊等の災害対応組織との移動を想定し、開発した本車載局はKa帯の移動体で、時速100 ㎞で移動しながらも24 Mbpsのデータ通信が可能である。また、世界でも例を見ない衛星通信車載局のため、消防関係や防衛関係などから期待されている技術である。12表1 小型車載局の諸元送信周波数27.5~28.6GHz受信周波数17.7~18.8GHz 偏波直線偏波(送受平行)アンテナ径65cmHPA20Wクラスアンテナ駆動範囲El: 20~160degAz: 360deg(無限回転)追尾精度< ±0.2degWINDS中継回線再生交換中継回線 上り:1.5、6、24Mbps 下り:155MbpsユーザインタフェースEthernet (1000base-T)その他・発発を搭載(2.8kVA以上)・アンテナは取り外して船舶等に搭載可能3-3 災害対応に有効な衛星通信の開発と実証実験鄭 炳表 薄田 一 菅 智茂 浅井敏男 赤石 明 川崎和義 高橋 卓東日本大震災以降、NICTでは大規模災害においても切れにくいネットワークの技術、また切れてしまった時には早期に復旧できるネットワーク技術を研究開発している。本稿では、災害に有効な衛星通信の技術開発と実証実験について、WINDSを中心に紹介した後、平成28年(2016年)熊本地震時に行った応急ネットワーク構築などについて紹介する。793 超高速衛星通信技術
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