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現の時系列を説明変数として、fMRI応答の時系列を予測するモデルを線形回帰により学習した。そして、その符号化モデルが新規の映像に対して予測したfMRI応答を、word2vecベクター空間を用いた逆符号化モデルに入力し、意味認知内容の推定を行った。図7は、提案システムによる意味認知内容の推定結果例である。比較のため、同じ映像シーンにおいて、計測fMRI応答を直接入力したときの、word2vecベクター空間を用いた逆符号化モデルの推定結果も示している。図5と同様に、意味認知内容を反映する最上位の単語7個を名詞・動詞・形容詞に分けて表示している。いずれの方法を用いた場合も、シーンを説明する適切な単語が推定できていることが見て取れ、提案システムの推定が従来の解読技術と比べても遜色ないことが分かる。これを定量的に評価するために、私たちは10分間の新規な映像において、それに対応するシーン記述への合致度合いに基づき、提案システムと従来技術の推定精度の比較を行った。その結果、提案システムはむしろ従来技術と比べて統計的に有意に高い推定精度を示すことが分かった[14]。これは、符号化モデルによる予測を介することで、fMRI応答に元々多く含まれる計測ノイズや、映像視聴に無関係な被験者の認知状態に基づくノイズが削減されたためだと考える。また、提案システムの重要な利点は、符号化・逆符号化モデルの学習を被験者個人ごとに行える点である。興味深いことに、従来の解読技術と同様に、映像に対するシーン記述の個人差が大きなシーンほど、各個人で作成した提案システムの推定結果における個人差も大きくなる傾向が統計的に確認された[14]。このことは、提案システムを用いることで、映像に対する意味認知の個人差を、任意の映像に対して評価できる可能性を示唆している。以上の実証実験では、符号化・逆符号化モデルに特定のものを用いたが、私たちの提案技術は任意の符号化・逆符号化モデルに適用できる。これにより、視覚だけでなく聴覚などの別の感覚種を入力として扱える。また、意味認知だけでなく、多様な知覚・認知推定にも適用でき、個人の主観が強く反映する美醜判断や好き嫌いのような感性の推定を行う情報処理システムとして利用できる可能性がある。さらに、知覚・認知の個人差も反映し得るとすれば、既存の人工知能技術の弱点を大幅に補う、画期的な情報基盤技術として実社会に大きな影響を与えるだろう。今後は、様々な符号化・逆符号化モデル組み入れて提案技術の拡張を行いながら、産業応用にも取り組み、技術の開発と応用を進めていく予定である。脳情報解読の展開と展望本稿では、脳内情報について符号化・逆符号化モデルを用いて解明する研究の枠組み、またその具体例としての言語情報表現を介した脳情報のモデル化と解読及びその社会実装に関する取組等について紹介した。本研究の枠組みは、動画視聴時等の一般的な知覚・認3図6 追加のfMRI計測を必要としない意味認知解読システム図7 意味認知推定における従来技術と提案システムの比較10   情報通信研究機構研究報告 Vol. 64 No. 1 (2018)2 脳情報デコーディング技術

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