HTML5 Webook
22/102
がある。これを実現するために、我々の研究グループでは、主にfMRIを使った脳の神経基盤の可視化や可塑性原理の解明、行動学実験による脳の作動原理のモデル化、さらに精巧な筋骨格モデルを使った動作シミュレーションなど、多角的な研究アプローチを展開している。我々の研究は、人間の身体運動機能に関連した幅広い研究対象を網羅し、リハビリテーションやスポーツトレーニングなどへの出口を意識しながら、健康、医療、福祉に貢献することを目的としている。我々はこれまでに、成人の脳が身体運動をどのように知覚・認知して、これを制御・学習しているか[1]–[7]、自己の身体の認知や運動機能が人間の発達とともにどのように獲得され、また加齢とともにどのように劣化していくのか[8]–[12]、さらにはスポーツ選手や視覚障碍者など長期にわたり日常的に特殊な感覚処理や身体運動を体験し続けた場合の脳の可塑的変化[13]–[16]などに関する学術的成果を報告し、主に療法士を対象とした研究成果のわかりやすい解説活動も行ってきた。本稿では、特に、2章や4章で紹介する脳情報復号 (デコーディング)技術やブレインマシンインターフェース技術との関連の深い、運動準備脳活動からその後に実行される運動の内容を推定する技術、他者の動作を観察・予測することにより無意識のうちに自己の運動を変化させることのできる介入技術、さらには人間の全身運動を正確にシミュレーションできる精巧図1 左右手の自由選択課題の方法と結果A: 被験者は4秒間のDecision Periodの間に自分で左右どちらの手の指を動かすか決める。その後、4秒間のDelay Periodを経て、先ほど決めた指で運動を行う(Execution Period)。B: デコーディング精度。横軸は、デコーディングに使用したfMRIのvolumeを示す(パネルAのIndex of fMRI Volumeに対応)。縦軸は、実際に動かした手(左手か右手)の予測精度。赤横線は判別のチャンスレベル(50%)を示す。棒グラフは被験者間の平均予測精度、点線で繋がれた円は個々の被験者の結果を表す。黄色棒は予測精度の被験者間平均が有意にチャンスレベルより高かったことを示す。運動開始前に計測した脳活動(Index of fMRI Volume = 4)から約70%の平均予測精度で予測可能であった。90%以上で予測可能な被験者もいた。C: 運動開始前に計測した脳活動(Index of fMRI Volume = 4)からの予測に主に貢献していた脳領域(赤色)。両側の背側運動前野、第一次運動野、補足運動野が主に貢献していた。18 情報通信研究機構研究報告 Vol. 64 No. 1 (2018)3 ニューロフィードバック技術
元のページ
../index.html#22