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な人体筋骨格モデルの研究成果を紹介し、今後の研究の展望を解説する。運動準備脳活動から実行される運動の内容を判別する人間が運動を行う場合、脳はこの運動を準備する必要がある。古くから、人間が随意的に手指の運動を開始しようとすると、運動開始に先立って前頭部の頭皮上から事象関連電位(脳波)が観察できることが知られており、この活動が運動の準備過程を反映すると考えられる(運動準備電位)[17]。このように運動準備のための脳活動(運動準備脳活動)は運動開始前に存在する。この準備脳活動は、その後の運動の実行のためにあるので、この活動の中には、その運動に関する具体的な情報が表現されているはずである。だとすれば、運動準備脳活動からその後に実行される運動の内容を判別し、これを予測することが可能なはずである。近年のデコーディング技術はこれを可能にする[18] [19]。1でも紹介したが、デコーディングとは記録した脳活動から知覚、意図など、脳に含まれる情報を取り出す技術のことであり、機械学習を使って、大量のデータから脳活動と情報の関係性をコンピュータに学習させ、学習後に作られた計算式に基づいて、新たに計測した脳活動から情報を抽出することができる。この技術は、4章で紹介するブレインマシンインターフェースの基盤技術であるが、この技術を使って、運動開始前の脳活動からその後に実行される運動の内容(動かす身体部位や動かす方向など)を読み取る試みが盛んに行われている[20]–[22]。 2.1fMRIデコーディングによる手指運動の予測前述の運動準備電位は脳活動の総和を反映しているため、脳のどの領域の準備活動がその後に実行される運動の情報を保持しているかを同定するには限界がある。我々は空間分解能に優れたfMRIを用いて、被験者が左右どちらの手で運動を実行するかを運動準備期間の脳活動から判別する実験を行った[23]。どちらの手を選ぶかは被験者の自由意思に任されており、準備期間中の行動を観察しただけではどちらの手で運動するかは予測できない。しかし、我々が開発したデコーディング手法を用いると[24]、運動準備期間の脳活動から左右どちらの手で運動するかを平均70%の精度で判別可能であることがわかった(図1)。このような判別は、両側の背側運動前野、第一次運動野や補足運動野の準備活動から可能であり、判別の成績が良い人(=恐らく運動がよく準備できている人)ほど反応が速いという結果も得られた(図1)。2図2 系列指運動課題の方法と結果A: 被験者は脳活動計測中、AとBの系列指運動を行った。B: 課題1試行の流れ。試行の開始を0秒とする。まずモニタに“A”か“B”の文字が2秒間(Cue: 0-2秒)出て、行うべき運動が指定される。6秒間のDelay(2-8秒)の後、運動を実行する(Go: 8-12秒)。Cue開始から6-8秒の間に計測した脳活動を運動準備脳活動(Preparation: 6-8秒)とした。C: 運動準備脳活動からのデコーディングに主に貢献した脳領域。手と反対側(左)の背側運動前野(PMd)や補足運動野(SMA)の活動が主に判別に貢献していた。193-1 人間の感覚・運動機能の理解と機能改善・向上のための研究

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