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まえがきヒトの脳活動を非侵襲的に変化させる方法として、経頭蓋磁気刺激法(Transcranial magnetic stimula-tion: TMS)、経頭蓋電気刺激法(transcranial direct/alternate current stimulation: tDCS/tACS)などが提案されている。TMSやtDCS/tACSにより、特定の領域において全体的な活動を興奮させたり抑制したりすることは可能であり、これまでも多くの研究で用いられてきた。一方で、より細かい空間スケールで表現されている情報も数多く存在すると考えられる。実際、機能的磁気共鳴画像装置(functional Magnetic Reso-nance Imaging: fMRI)で計測された脳の特定の領域の活動パターンを調べることで、被験者が見ている画像、さらには見ている夢の内容までも予測できることが報告されており[2]–[4]、この手法はデコーディングと呼ばれる。この原理を応用したデコーディッドニューロフィードバック(Decoded Neurofeedback: DecNef)法[1]は、TMS、tDCS/tACSでは困難な、特定の情報表現に対応した脳活動のパターンを作り出すことができるという大きな利点を持っている。従来のDecNef法は、特定の脳活動パターン(例えば縞の向き、色)を誘起するために用いられていたが、今回この方法を発展させ、研究1では被験者に実際に与えられる感覚入力によって生じる脳活動とDecNefによって誘起される脳活動を対応付けることを試みた。さらに研究2では類似の方法を用いて視知覚における高次機能であるメタ認知を変容させることを試みた。DecNef法を用いた低次視覚皮質における方位と色の連合学習(研究1)[5]連合学習とは、複数の感覚入力や感覚属性のペアの関係性を学習し、一方だけで他方が想起されるようになる現象で、日常生活においても非常に重要な学習の一種である。例えば、犬に餌を与える前にベルの音を鳴らすことで、次第にベルの音を聞くだけで唾液を分泌するようになったというパブロフの条件反射などが有名である。従来連合学習は、頭頂葉、前頭葉、海馬など比較的高次の脳領域で起こると考えられてきた[6]–[9]。本研究では、DecNef法[1]を発展させた連合デコーディッドニューロフィードバック(Associative decoded neurofeedback: A-DecNef)法と呼ばれる非侵襲的な脳活動操作技術を開発し、視覚野の入り口にあたる低次視覚野において方位と色の連合学習が生じることを実証した。123-2 ニューロフィードバック法に基づく視覚的意識を作り出す脳活動の解明3-2Neural Mechanisms Underlying Visual Awareness Studied with fMRI Decoded Neurofeedback 天野 薫 小泉 愛Kaoru AMANO and Ai KOIZUMI本稿では、デコーディッドニューロフィードバック(Decoded Neurofeedback: DecNef)法[1]を用いて視覚的意識の脳内メカニズムに迫った2つの研究成果を紹介する。初めに、ニューロフィードバック法を用いて低次視覚皮質において方位特異的な色知覚を作り出した研究を紹介し(研究1)、さらに、類似したニューロフィードバック法を用いてメタ認知を変容することに成功した研究を紹介する(研究2)。In the current paper, we introduce two recent studies utilizing neurofeedback techniques to un-derstand neural mechanisms underlying visual awareness. Frist, we introduce an experiment where we created orientation-specific color perception in the early visual cortices. Second, we in-troduce an experiment where we succeed in changing metacognition to introspect visual percep-tion by neurofeedback. 273 ニューロフィードバック技術
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