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2.1研究1の方法と結果本実験では18名の被験者の視覚野を同定した後[10]、被験者が赤色及び緑色の画像を見ている際の脳活動をfMRIによって記録し、第一次、第二次視覚野(V1、V2)における脳活動から、見ている縞刺激の色(赤か緑)を推定するデコーダー[11]を作成した(色デコーダー作成)。続いて、白黒の縦縞刺激を用いたニューロフィードバック訓練を3日連続して行った(A-DecNef訓練)。ここでは白黒の縦縞を見ている際の低次視覚野における脳活動をfMRIによって記録しながら、その脳活動が赤色を見ているときの脳活動に近いほど丸が大きくなるようなフィードバックを被験者に与えた(図1)。被験者は丸のサイズだけを手がかりに、白黒の縦縞を見ているときの脳活動を操作し、できるだけ丸のサイズを大きくするよう教示された。3日目の訓練終了後に、縞刺激の色の見えを調べる心理実験を行った(色知覚テスト)。その結果、A-DecNef訓練を通して、赤色と連合させた白黒の縦縞刺激に対し、赤色の知覚回答が有意に増えた(図2)。すなわち、白黒の縦縞を見ているときの脳活動と赤色を見ているときの脳活動が連合され、白黒の縦縞が赤く知覚されるようになることが心理実験によって示された。この結果は、方位と色という2つの視覚特徴の連合学習が低次視覚野で生じる可能性を示唆している。2.2研究1の考察複数の感覚入力や感覚属性などの対応関係の学習、すなわち連合学習は、大脳皮質前頭葉や高次視覚野、海馬など比較的高次の脳領域で生じるものと考えられていた。本研究において我々は、方位と色という基本的な視覚属性の対応関係の学習が、視覚情報処理の入り口にあたる低次視覚野で生じることを実証した。方位特異的な色順応としてマッカロー効果*が広く知られている[12]。例えば赤の縦縞、緑の横縞に数分図1 A-DecNef訓練における一試行のタイムコース図2色知覚実験の刺激と結果(A):色知覚実験で用いた縞刺激(B)A-DecNef訓練に参加した被験者(A-DecNef群)の心理測定関数(C)A-DecNef訓練に参加していない被験者(対照群)の心理測定関数(D)グレー(斜め縞に対する赤反応率が50%となる刺激)の縦縞、横縞に対するA-DecNef訓練に参加した被験者の赤反応率(E)グレー(斜め縞に対する赤反応率が50%となる刺激)の縦縞、横縞に対する対照群の赤反応率*マッカロー効果縞模様の方向に随伴した色残効効果。例えば赤色の縦縞および緑色の横縞を数分程度観察した後に白黒の縦縞、横縞を観察すると、縦縞は緑色に、横縞は赤色に知覚される。残効は数ヶ月以上持続することもある。28 情報通信研究機構研究報告 Vol. 64 No. 1 (2018)3 ニューロフィードバック技術
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