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~10分程度順応すると、白黒の縦縞は緑っぽく、白黒の横縞は赤っぽく見え、その効果は数か月にわたって持続する。本研究における連合学習は、長期間持続する方位特異的な色知覚という意味でマッカロー効果と共通しているが、少なくとも2つの面で背景となるメカニズムは異なると考えられる。まず初めに、マッカロー効果が脳内のどのレベルで生じているかについては、V1起源であることを示唆する結果と、高次視覚野が関与していることを示唆する結果の両方があり決着がついていない[13]–[16]。また、マッカロー効果では順応刺激の補色が知覚されるのに対して、本研究ではニューロフィードバックによって誘起した脳活動に対応する色そのものが知覚されており、方位特異的な色知覚の方向が逆向きであることが挙げられる。これらの結果からマッカロー効果は単純な方位と色の連合ではなく、複雑な神経メカニズムによって生じていることが示唆され、V1、V2起源である本研究における連合学習とはメカニズムが異なる可能性が高いと考えられる。本研究では、感覚入力によって生じる脳活動とDecNefによって誘起される脳活動を対応付けるA-DecNef法を新たに開発し、低次視覚野の操作によって長期間にわたり方位特異的な色知覚が生じることを報告した。本研究の結果は、低次視覚野において方位と色の連合学習が生じることを示唆している。本研究における連合学習において、V1、V2以外が寄与している可能性も完全には排除できない。将来的に、連合学習の両眼間転移、視野間転移等を調べることで、高次視覚野の役割を明らかにすることができると考えられる。DecNef法を用いたメタ認知の変容(研究2)[17] 上述の研究1では、ニューロフィードバック法を用いて物の見え(図形に連合された色の知覚)そのものを変容した。一方、私達は日常的に、「今見えた図形は間違いなく赤色だった」あるいは「ポケットの中で携帯が鳴ったかもしれない」、という具合に、何かを見たり聞いたりした際に、そうした知覚の「確からしさ」を日頃から推測している。このように、自らの知覚の確からしさを振り返ることは、自身の認知の働きを俯瞰する「メタ認知」の重要な役割のひとつと考えられている[18]。では、知覚に対する確信度が脳内で推定されるメカニズムについて、現在どこまで理解が進んでいるのだろうか?そうしたメタ認知の神経メカニズムについての見解は、大きく分けて2つに分かれており、まだ議論が収束していないのが現状と言える。ひとつの見解は、私達の知覚そのものを支える神経基盤が、その知覚を俯瞰するメタ認知も支えているというものである[19]。もうひとつの見解は、知覚を支えている神経基盤とは異なる神経基盤がメタ認知を支えているというものである[20]–[22]。これまで、そうした2つの見解をめぐる議論がなかなか収束してこなかったが、その原因のひとつとして、従来の脳科学的手法では、「知覚」と「メタ認知」を支える2つの神経基盤の乖離を十分に示せなかったという限界が挙げられる。こうした背景を受け、本研究では、近年の脳科学的知見及び独自のデコード解析結果を踏まえたうえで、前頭前野と頭頂葉を含む高次脳ネットワークの活動パターンを操作し、上記の見解の切り分けを試みた。脳活動の操作には、前述の研究1と同様に、特定の脳領域の活動パターンを変容できるDecNef法[1]を応用した。その結果、画像の動きの方向に関する回答の正答率そのものは変わらないにもかかわらず、自身の知覚に対して感じる確信度は変化することが明らかになった。つまり、よく見えるようになったり、見えにくくなったり、というような知覚成績の変化は生じなかったのにもかかわらず、自らの知覚に対して感じる確信の強さのみが選択的に変化することが分かったのである。こうした結果は、「知覚」と「メタ認知」を支える2つの神経基盤の乖離を支持するものであり、メタ認知のメカニズムを巡る2つの見解のうち、知覚を生み出す神経メカニズムとは異なる神経メカニズムが私達のメタ認知の働きを支えているという見解を直接的に支持するものと言える。以下では、本研究のより具3図3知覚に対する確信度にかかわる脳活動パターンをデコードするために用いた知覚課題(上)と、実験の概念図(下)知覚に対する確信度にかかわる脳活動パターンを切り出すための課題知覚に対する確信度にかかわる脳活動パターンを前頭前野と頭頂葉を含むネットワークから解読293-2 ニューロフィードバック法に基づく視覚的意識を作り出す脳活動の解明
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