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体的な方法や結果を説明するとともに、臨床応用可能性について紹介する。3.1研究2の方法と結果本実験には10名の成人被験者が参加した。被験者は、高い確信度に関わる脳活動パターンを誘導するDecNef訓練と、低い確信度に関わる脳活動パターン(図3)を誘導するDecNef訓練の双方に参加した。被験者は、それらの2種類のDecNef訓練の前後に、知覚課題にも参加した。この知覚課題のパフォーマンスをDecNef訓練の前後で比較することにより、果たしてDecNef訓練後に知覚に対する確信度が変容したのかどうかを検討した。より具体的には、高い確信度に関わる脳活動パターンを誘導するDecNe訓練の後には、自らの知覚に対して高い確信を持つようになり、一方で低い確信度に関わる脳活動パターンを誘導する訓練の後には、低い確信を持つようになるかどうかを検討した。本研究では、前頭前野と頭頂葉を含む高次脳ネットワークの活動パターンを操作するDecNef訓練により、自らの知覚に対する確信度を変容できることを示した。具体的には、高い確信度に関わる脳活動パターンを誘導するDecNef訓練後には知覚に対する確信度が高まり、その一方で、低い確信度に関わる脳活動パターンを誘導するDecNef訓練後には知覚に対する確信度が低くなることを示した(図4)。このように、脳活動パターンを操作した結果、知覚に対する確信度は上下に変動したものの、知覚成績そのものは変化が見られなかった。つまり、知覚課題で用いられていたドット刺激の運動方向が見えやすくなったり、見えにくくなったりしたわけではないにもかかわらず、運動方向の知覚に対して感じる確信度が選択的に変化することが分かった。3.2研究2の考察上記の結果は、前頭前野と頭頂葉を含む高次脳ネットワークの活動パターンが、知覚に対する確信度に選択的に関わるものであり、「知覚」そのものと「メタ認知」を支える神経基盤の乖離を示すものと言える。先述のように、これまでは、知覚とメタ認知を支える神経基盤が同じか否か、という議論がなかなか収束してこなかったが、その背景には、従来の脳科学的手法ではそれらの神経基盤を乖離できない、という研究手法上の限界という問題があった。それに対し、本研究では、特定の脳領域の活動パターンを狙った方向に誘導するという最新のニューロフィードバック技術[1]を応用することで、知覚とメタ認知を支える神経基盤を乖離することに成功し、それにより、両者の神経基盤が異なる可能性を直接的に支持する結果を示すことができた。 まとめと展望このように、ニューロフィードバック法を用いることで、知覚そのもの(図形の色の見えかた)や、知覚を振り返るメタ認知を変容できることが明らかになった。こうしたニューロフィードバック法は、本稿で紹介したように、人の知覚や認知機能を支える神経メカニズムの解明に役立てられるだけでなく、今後は、人の知覚や認知機能を向上させるために役立てる臨床応用も期待できると言える。4図4 DecNef訓練後の知覚に対する確信度(左)と知覚成績(右)の変化DecNef訓練後に知覚に対する確信度が変化DecNef訓練後に知覚成績の変化はない知覚に対する確信度の変化量知覚に対する確信度を上げるDecNef訓練知覚に対する確信度を下げるDecNef訓練知覚に対する確信度を上げる訓練知覚に対する確信度を下げる訓練30 情報通信研究機構研究報告 Vol. 64 No. 1 (2018)3 ニューロフィードバック技術
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