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CiNet設立の経緯NICTでは、25年以上前に脳情報科学についての研究を開始した。その後、神戸にある現在の未来ICT研究所内に脳情報通信の研究開発に関する研究室を設置し、磁気共鳴画像化装置(MRI)や脳磁計(MEG)を整備して脳機能計測や解析の研究を発展させてきた。この時期は、米国での「脳の10年」という国家プロジェクト開始や我が国における理研脳科学研究所(BSI)の設置といった世界的な脳科学研究の発展期に当たる。NICTにおいても、質の高い通信(コミュニケーション)には、情報の送り手と受け手である人間の認識、感性、こころを理解し、新しい技術開発に生かすことが必要であるとの考えから、脳情報科学、特に人間の脳の情報処理に関わる研究に早くから取り組んできた。脳は、「最後のフロンティア」と呼ばれていることからも分かるように、非常に複雑な組織であり、解剖学的に明らかにすることも困難であるが、さらに、その機能原理、すなわち動態(ダイナミックス)にまで踏み込んだ研究のハードルはかなり高かった。そのような中で、1990年代初めに我が国の小川誠二博士によって世界で初めて開発されたBOLD法をMRI計測に取り入れて、脳活動の4次元計測(空間3次元+時間)が可能になってきた。機能的MRI(ファンクショナルMRI:fMRI)の誕生である。MRI装置の性能向上に伴い、3テスラの静磁場強度も持つMRI装置とBOLD法を組み合わせることにより、2000年頃に脳の機能に関わる情報が比較的容易に得られるようになってきた。情報通信研究機構(NICT)でも、新しいMRI装置を導入し、脳機能のダイナミックスに迫る研究を進めたが、このことが脳情報科学研究の質的な転換を促すことになった。すなわち、それまでは、脳の機能する場所の同定や限られた神経細胞活動の解析が研究成果となっていたところが、4次元の大規模なデータからダイナミックスを解析する必要が生じてきた。このことは、解剖学、神経生理学、認知科学、心理学、情報科学、医科学など個別の専門分野で研究対応できていたものが、異分野の連携が不可欠になってきたことを意味する。正に、融合研究の必要性が喫緊の課題となったのであった。未来ICT研究所内の研究室設立当初より、大阪大学などと連携して研究開発を推進してきたが、これをより強固なものにする検討が今世紀に入り進められた。その結果、2009年に、NICTは大阪大学と脳情報科1図1 CiNet研究棟情報通信研究機構に脳情報通信融合研究センター(CiNet: Center for Information and Neural Networksの略)という人間の脳機能を計測・解析するユニークな連携研究拠点が2011年に発足して7年が経った。CiNetの研究成果の概要について報告書をまとめ、広く情報発信をするとともに、将来の連携研究への一助としたい。It has been seven years since NICT set up the Center for Information and Neural Networks (CiNet), a unique institute for collaborative research to measure and analyze human brain func-tions. The summary of CiNet’s activities was compiled here to publicize its outcomes and invite collaborators in the future.1 緒言 CiNetにおける研究開発について1Advanced Research in CiNet柳田敏雄Toshio YANAGIDA11 緒言 CiNetにおける研究開発について

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