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胞の細胞体どうしを連絡する軸索の束(線維束)から構成される領域である。先述したfMRIなどの脳活動計測技術は、灰白質における脳活動を計測する手法である。これまでの脳研究の蓄積によって、灰白質には視覚・嗅覚など異なる内容の情報を処理している領域があり、それぞれが情報処理を行っていることが示唆されている。これらの領域は、それぞれ数cm程度離れた場所に位置している。そのため、脳の領域間の情報通信を理解するためには、灰白質ではなく白質が鍵になる。しかし、白質線維束の研究は、近年に至るまで死後脳を解剖して手でスケッチをするといった方法が用いられており、定量的なデータを大規模に取得する、あるいはデータを数理的な手法を用いて解析し統計処理を行うといったアプローチを取ることができなかった。こうした計測技術の行き詰まりが原因となり、近年に至るまでヒトの白質線維束が脳の情報処理に果たす役割が十分に理解されていない。2.2MRIを用いた白質線維束計測技術先述したdMRIは、脳の中にある水分子の動きを計測する方法である。白質線維束の中の水分子は、線維束と平行な方向に動きやすいことが分かっている。このため、水分子の動く方向を計測することで、線維束の方向を推定できる。dMRIは、死後脳を対象とした古典的計測手法と比べて、生きているヒトの脳を傷つけることなく安全に計測できる。また、死後脳を対象とした2次元のスケッチとは異なり、dMRIでは3次元のデータをデジタル形式で得ることができる。このため、dMRIデータに対してトラクトグラフィーと呼ばれる解析法を利用することにより、白質線維束の位置や形状などを推定することができる。これにより、これまで死後脳でしか研究できなかった白質線維束について、生きているヒトの脳から得られたデータを基に研究できるようになった。2.3MRIを用いた白質線維束計測技術の成果dMRIによる計測・分析技術の向上を図りつつ、fMRIなどのほかの手法と組み合わせることでヒトの白質線維束の特性を解明する研究に取り組んできた。dMRI計測から白質線維束を解析するトラクトグラフィー法は複数提案されているが、それぞれ長所短所を持つ。そこで、複数存在するトラクトグラフィー法図3 脳組織分離法 (左:新規提案法; 右:従来法(FSL))図4アンサンブルトラクトグラフィー法を用いてdMRIデータから求められたヒトの白質線維束(左:U-fiber、右:下縦束、下:VOF)。参考文献[5]及び[7]より許諾を得て改変。696-1 MRIを用いた脳計測手法の改善及び新規計測手法の研究開発

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