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の長所を組み合わせた「アンサンブルトラクトグラフィー法」と呼ばれる新たなdMRIデータ解析法を開発した[6]。これにより、従来法より高い精度で白質線維束の同定が可能となり(図4)、空間的視覚情報と物体認識情報の統合に関わるVertical Occipital Fasciculus (VOF)と呼ばれる線維束を測定することに成功した。この線維束は、死後脳研究で報告されながらも、これまでのヒトを対象とした多くのdMRI計測では見落とされてきた。さらに、VOFとfMRIデータや解剖学的データとの関係性を検証することで、視覚野内の背側と腹側領域間の情報伝達において、VOFは重要な役割を果たすことを明らかにした[7][8]。VOFを含む視覚白質線維束の構造は、健常成人内でも広く見られる両眼立体視機能の個人差に関与していると考えられる[9]。さらに、視覚情報伝達に関わる白質線維束の構造特性を定量的に分析することで、網膜疾患などの患者における大脳視覚野への情報伝達特性を分析する研究も進められている[10]。7テスラMR装置におけるRFコイルの開発MR信号強度は理論的に静磁場強度の2乗に比例して増加すると考えられているが、雑音(ノイズ)も同様に寄与するため、実際はそれより小さくなる。そこで、静磁場強度の向上だけでなく、MRI信号に寄与する要素のひとつであるRF(Radio-Frequency、 以下RF)コイルの性能向上を図っている。我々のグループでは、7テスラMR装置で脳の局所領域を高画質で撮像するために局所用RFコイルの開発を行っている。そのため、RFコイル自体の性能の向上とともに、RFコイルの周囲に設置するRFシールドの適切な構造や配置などの関係を調べ、更なる向上を図っている。3.1RFコイルについてRFコイルは、MRIにおいてRFパルスを送信してMR信号を作り、それを受信する重要な要素である。RFコイルは、扱う信号周波数(7テスラMR装置の場合は、約300MHz)にチューニングし、効率的な信号伝達のためにインピーダンスマッチングが欠かせない。チューニングとマッチングは、RFコイルの形状、サイズ、被写体の大きさや電気特性、コイルと被写体との位置関係などで変化する。また、MR装置内に存在するほかのハードウェアからRFコイルへの干渉を軽減するためにRFコイルの周囲にRFシールドを設置することが有効とされ、主に送信用または送受信用のRFコイルに適用される。3.2RFコイルの性能向上7テスラMR装置でのヒト頭部局所領域のMR撮像を目的とする、平面型の局所RFコイルの開発を行っている。その設計を行うため、その周囲に設置するRFシールドの形状、サイズ、配置などがRFコイルの性能に与える影響について検討した。いくつかの条件において電磁界シミュレーションを用いて検討したところ、Q値(RFコイルの性能を示す指標のひとつ)は約16%向上し、励起磁場についてはRFコイル近傍のファントム表層付近で約12%の向上が確認された。これらの結果からRFシールドは、RFコイルを広く覆い、かつRFコイル近傍に配置する構造を適用することで、RFコイルの性能向上が図れることを明らかにした。これらの結果に基づいて平面型単一局所RFコイルの開発を行っている(図5)。このRFコイルの場合、RFシールドの設置(図5右)によりQ値が約12%向上することを確認した[11]。3RFコイルファントム(生理食塩水)RFシールド図5 平面型単一局所RFコイル(左:RFシールドが無い場合、右: RFシールドを設置した場合)70   情報通信研究機構研究報告 Vol. 64 No. 1 (2018)6 先端的脳機能計測技術

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